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おねしょ考

『南方医話』に黄建業医師の次のような話があります。

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1970年に出会った患者は20歳の女性で、幼少からの遺尿があった。
中西医の色々な方法を試みたがどれも効かなかった。
私も先ず古くからの方法の温腎・補気・固渋の品である恐堤丸、補中益気湯、縮泉丸加減をそれぞれ10余剤ずつ服用させたが変化は見られなかった。
脈症を子細に見ると、脈は細く無力で数を帯びている。
舌の先には紅点があり、心煩、健忘、腰酸、月経渋少、経後小腹空痛、睡眠中の多夢、トイレに入る夢を見ては遺尿し、そのあとで目が覚める。これが一晩に数回もあった。
これは心腎陰虚、水火不交の証である。
そこで古訓に則り試みに天王補心丹と知柏地黄丸の合方加減に肉桂・石菖を加えて5剤を与えたところ、夜毎の遺尿の回数が一回に減った。
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私自身にも幼い頃にトイレへ入る夢を見ておねしょをした経験があります。
その時これは夢なのだと気付けば我慢も出来るし、目覚めることにもなる。
しかし朦朧として夢の中にあればしくじってしまいます。

漢方でも一般論は“遺尿とは腎陽虚による膀胱の失約”であるという見方が大方で、補陽や収渋の作用のあるものが選ばれています。
しかしこれでは定型的で弁証がまるで足りません。

ある人はおねしょとは“膀胱癲癇”であるといって、癲癇や中風で人事不省に陥っている時の状態と同じだと考えて“心竅痰迷”を治療するために去痰薬や鎭痙薬を用いました。
これもいまいち推理が足りません。


では“朦朧として夢の中”とは何でしょうか?
黄医師は「心腎陰虚」による「水火不交の証」といいました。
心火が下がり腎水(腎陰)が上がって互いに交じり合えば程好い温かさとなり頭脳の神明は明晰に働きます。
これが腎水不足で上がり方が足らなければ心火と交わらず、心火が盛んだと眠りが浅く夢見が多い。
おねしょはレム睡眠の中でこそ起こるのです。
熟睡中に脳から縮尿ホルモンが分泌されると聞いています。
眠りが浅いとそれも出来ません。
これは一種の不眠症ではないでしょうか?
即ちおねしょのメカニズムに不眠があるのではないでしょうか?
すると現代医学がおねしょに精神安定剤を使うのは一理あります。
しかし精神安定剤が根本にある「水火不交」を改善することはありません。
濡れると電気刺激の出るおねしょマットというのも皮相的発想にすぎません。

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日本では理論的根拠もなく腎虚という曖昧な理由だけで六味丸をおねしょに使うことがあります。
腎陰虚を補う点では理にかなっていますが残念なことに心陰を補うことは出来ません。
心腎ともに陰を補うためにはやはり中医学の理論から天王補心丹知柏地黄丸の方が理想的です。

また白虎加人参湯や葛根湯が用いられる場合もありますが、これなどは単に口訣だけが頼りで根拠はなく、日本漢方の弱点をさらしています。

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