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不眠と多眠は同じ

(別題) 生酸棗仁と炒酸棗仁の違いは?

『万病回春』の薬性歌には次のようになっています。

酸棗仁 味酸、汗を斂め、煩を去り、多く眠るには生を用い、不眠には炒りて用う。

『中藥演義』にも
生用時有醒神作用,炒焦后使用,能安神補心,養肝斂魂,故對失眠、驚悸、頭暈、記憶力減退有良好療效。
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漢方の世界には不思議な表現がたまたま出てきます。
例えば「小建中湯は便秘にも効けば下痢にも効く」とか「麻黄は発汗作用があるが石膏と一緒だと止汗に働く」とか。
ここにもう一つ「酸棗仁は生だと多眠に効き、炒り焦がすと不眠に効く」といいます。
漢方の不思議さを尊重するあまり「そんな馬鹿な!」とは誰も反論しません。

この度は「おねしょ考」を考えていて天王補心丹に含まれている酸棗仁についてふと閃いた事がありました。
おねしょがレム睡眠の時に起こりやすいとすれば覚醒作用があるという生酸棗仁を使えばよいのだが、天王補心丹は不眠症に使われる場合が多いから本来は炒酸棗仁を使うものである。
ここできめ細かく生と炒を切り替えて処方するのが正道なのかと疑問を感じたのです。

寝入りが遅いのが不眠で、寝ぼけてダラダラ寝るのが多眠(嗜睡)だとすると、どちらもノンレム睡眠の熟睡からはずーっとかけ離れた覚醒に近い状態です。
一方で炒酸棗仁を使い他方で生酸棗仁を使わなければならない程に厳密な相違があるようには思われません。
もともと不眠とは心火・肝火・痰火などの“実火”や、気虚・血虚・陰虚などから生じた“虚火”が「心神」の安寧を脅かしたのが原因である。
(いまは酸棗仁についてだから虚火についてのみ論じます)

虚火を消すには虚しているものを補わなければならず、酸棗仁の性味が「甘酸平」であることから肝陰を補う「補肝」が実質的内容です。
生酸棗仁なら性はいくらか平よりも凉に近づくだろうし、炒なら性はいくらか温に近づくだろう。
そんな些細な違いにどんな意味があるのだろうか?
むしろ火を消すのなら炒よりも生の方がより良いのではないかと思う。
ただ炒り焦がせば生よりも成分の溶出が良いかもしれない。
どっちに転んでも大差がないというのが真実ではないでしょうか?
そして不眠と多眠(嗜睡)は一見違うようだが実は親戚同志であると。

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