柴胡桂枝干姜湯に異論あり!
この処方は構成が難解で、方意が理解できず、私はまだ使った事がありません。
【構成】 柴胡 桂枝 干姜 括楼根 黄岑 牡蛎 甘草
柴胡剤といえば日本では俗に大柴胡湯・柴胡加龍骨牡蛎湯・小柴胡湯・柴胡桂枝湯・柴胡桂枝乾姜湯の順に体力的虚実に合わせて使う事が習わしになっています。
そんな事でいいのだろうかとかねがね疑問に思ってきました。
S.147下編,傷寒五六日、已発汗而復下之、胸脇満微結、小便不利、渇而不嘔、但頭汗出、往来寒熱、心煩者、此為未解也。柴胡桂枝乾姜湯主之。……日三服、初服微煩、復服汗出便愈。
吉益東洞の「方極」には“小柴胡湯証にして嘔せず痞せず、上衝して渇し、腹中動ある者を治す。”との解説がありますが、全く以って何のことやら意味が分かりません。
この度は『中医証候鑑別診断学(2版)』を勉強していて少しだけ分かって来たので、私の理解した事を発表します。
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柴胡桂枝干姜湯は
太陽病を発汗させたり、また下したりして表邪を去ろうとしたけれど、如何せん表邪を完全に発散させぬ内に、その処置の負担が裏を虚させる事になり、余邪が少陽へと伝入(内陥)しようとする。
すでに発汗や下法のため津液を失っているので、邪熱はたちまち少陽の枢機を乱して気鬱の軽症=“気機微結”をもたらした。
すなわち三焦の水道不暢から小便不利となり、気化不利で津液が生じないので口渇が起こる。
「渇しても不嘔」なのは気化不利の程度が小さくて「水飲内停」にまではなっていないから胃気の上逆はまだ起こっていない事を意味している。
(注) もし水飲内停が起これば少陽兼水飲内停となり、小柴胡湯去黄岑,加茯苓の出番になる。
頭汗が出るのは余邪の熱が体表から出ること能わず、少陽経を上昇して頭から蒸散するからである。
気機微結によって「水飲内停」まではならずとも幾ばくかの水湿は留滞する。
気鬱と水湿が合わさったのが“胸脇満微結”である。
以上から吉益東洞がいうような「上衝して、腹中動ある」謂れはどこにもない。
処方構成を考えてみるに、柴胡はもちろん少陽の枢機を転じるため、桂枝は肌表の営に通じるため、干姜と黄岑は陰と陽を調えるため、瓜楼根は津液を潤し、牡蛎の軟堅作用は干姜・桂枝と合わさって胸脇の痞満を消し、甘草で中を和すものである。
「日三服、初服微煩、復服汗出便愈」
邪正は錯雑し清濁が混淆しているので、初服には薬と病が互いに格拒する。
それで微煩するが、かまわずに飲み続ければ表裏から邪気が退いて、汗が出れば自ずと愈える。
(主張) 以上の観点から柴胡桂枝干姜湯を柴胡剤のなかの一番弱い処方に位置づけ、広く体質改善に用いるような曖昧な使い方は出来ないはずである。
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