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パニック障害と漢方

呼吸困難や心悸亢進を伴って、死ぬのではないかと思うほどの恐怖感を感じるパニック障害という現代病について、漢方ではどのように弁証するのかを考えてみました。
漢方にはもともと“善驚”“驚恐”“驚悸”“驚駭”などの病名があります。
その様子は「何かの見聞によって突然誘発される動悸と不安感」と表現されています。
この定義からいえばパニック障害がこれに含まれるのではないかと思われます。
そしてこの“驚悸”には次のような原因があげられています。

1. 心胆気虚…………四君子湯 温胆湯 桂枝竜骨牡蛎甘草湯
2. 陰血不足…………帰芍地黄湯
3. 痰火擾心…………黄連温胆湯
4. 心火旺盛…………瀉心導赤散
5. 肝鬱血虚…………丹梔逍遥散加減
6. 心気虚……………養心湯 帰脾湯
7. 心肝血虚…………天王補心丹合四物湯
8. 肝陽虚……………竜歯清魂散《類証治裁》(*) 珍珠母丸

(*)竜歯 遠志 人参 当帰身 茯神 麦冬 桂心 甘草 延胡索 細辛


さて今日云うところのパニック障害とは上記のどのケースになるのであろうか?
私が一番問題にしたいのは心病か、肝病かという点です。
精神の病はとかく心病として扱われがちで、肝病を疑うことは余りありません。

漢方心理学では神・魂・魄・意・志を「五志」といい、それぞれ心・肝・肺・脾・腎に宿るものとされ、意識や感情といえども五臓全体からコントロールされていると考えます。
だから精神の病気も脳だけを問題にするのではなく、五臓からもアプローチしようとします。

心が「君主の官」なら、肝は「将軍の官」といわれ、のびやか(条達)を喜び抑鬱を悪み太過を嫌う強情な臓器なので剛臓といわれています。
だから精神の刺激を受けると直ぐに影響を受け、肝気太過では、いらいら、怒り易いなどの症が現れ、反対に肝気不足になると恐れる症が現れます。

パニック障害は不安感に襲われるので肝気の太過ではなく不足のほうです。
「肝虚」の病を『中医証候鑑別診断学(2版)』から拾うと、肝血虚、肝気虚、肝陰虚、肝陽虚の四種になります。
このうち肝陽虚という証は日本では余り知られていません。
肝気虚と肝陽虚の違いは殆どありませんが、肝陽虚には寒の症状がより強く現れます。

剛臓であるはずの肝が虚せば肝と表裏の関係にある胆が怯え、“決断をつかさどる”はずの胆が怯えれば恐が生まれます。
驚と恐が同時に現れるのは肝気虚よりも重症の肝陽虚の場合だと考えます。
驚恐は肝気の上逆・陽亢を起こすのでその影響は心の支配領にも現れ、不眠や舌のアフターなどになります。
そのほか文献から引用すれば:

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肝は筋を主どり,陽気が虚せば筋は所養を失い,必ず疲乏を感じ,懈怠し,労に耐えず;
肝は剛臓にして,胆腑が之に附く,陽気が虚せば必ず胆は怯え善く恐れ,憂鬱にして楽しまず;
肝は血を蔵するが,陽気が不足すれば血を運び筋を栄養することが出来ず,しばしば頭身は麻木し,四肢は温まらない;
脇は肝の分野で,陽气が虚せば疏泄を失い,しばしば気滞胆鬱し,脇は脹悶する;
肝木の陽気が虚衰すれば,土を疎泄できず,必ず土壅脾滞となり腹満し納呆となる;
肝は目に開竅するので,陽気が不足すれば目に達しても,視物は不明となり,頭暈し眼はかすむ;
肝は筋を主り,肝脉は陰器を繞うので,陽気が虚せば,相火は衰退し,陽気が至らなければ,往往にして陽道が強固にならず,事に臨んで怯んでしまう;
婦女は肝をもって先天となす,肝の陽気が虚せば,衝脈と任脈は受損し,しばしば月事は遅延したり,来ても終わらず,腰と少腹は寒痛する。
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パニック障害を心病ではなく肝病と考えて竜歯清魂散などを候補処方として挙げたが、当帰身・桂心・延胡索・細辛などが肝陽虚に対してどれだけ対応してくれるか期待している。

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