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白朮(ビャクジュツ)の便通作用

便秘といえば直ぐに下剤を使おうとするのが日本人の悪い癖です。
ずーっと長い間いろいろな下剤を使ってきて、あげくにそれが効かなくなると種類を変えようとして医師や薬局を渡り歩く方が大勢おられます。
飲んでいる本人もそれが利口な方法ではないと知りつつ、つい即効を求める余りに安易な下剤の中毒になっている事が多いのです。
時には腹痛をこらえてでも大便を出そうとしたり、形をなさない水様の便でも出ないよりましだと、体を壊すような無茶をしているのです。
こういう難問に応え得る親切な医師や薬局は殆どいないでしょう。

現代中国の『北方医話』という書物に申海明という中医師が「白朮(ビャクジュツ)の便通作用」について書いています。
例えば82歳の老人の習慣性便秘に白朮30gの大量を用いて便秘の改善を報告しています。(中国の薬草使用量は日本の約3倍だと考えてよく、日本人なら10g程でよい)
白朮はオケラという植物の根茎で日本の野山にもざらにある薬草です。
歴代の本草書には白朮は健胃薬(健脾燥湿・止瀉)と書かれており、便秘よりもむしろ下痢の時に止瀉薬として用いています。
なぜ反対作用の物なのに便秘に効くかをこれから説明します。

便秘には実秘と虚秘があり、実秘は下剤の対象になりますが、虚秘は下剤ではどうにもなりません。
実秘は主に熱が原因で腸内が乾燥して宿便になった「大腸積熱」ですから、これはセンナ・アロエ・大黄・コーラックなどの下剤で熱を取ってやれば通じがつきます。
虚秘は腸の動きが少なくて、便が長時間滞在するうちに水分を失って便秘になるものです。
これを同じやり方をすれば腸が冷えすぎて腹痛や水様便になるのは当然です。
虚秘の人には弛緩した腸の動きを助けるものを与えなければなりません。

漢方では消化器官のことを“脾胃”という語彙で表します。
だから「弛緩した腸」を“脾気が虚して運化作用が行われない”と云います。
水分を失って停滞している便を潤すためには脾気を回復させ、津液を生じ、分布させなければなりません。
これを「運脾行津」法といい、健胃薬が必用になるという訳です。
ここで注意しなければならないのは健胃法が効果を出すにまでには少し時間がかかることです。
その代わり、原因治療ですから一旦良くなれば再び元に戻るような事はないでしょう。
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(以下は専門的な論考です)
『北方医話』で申海明医師は次のようにその論拠を述べています。
> 張仲景の書には早くから「大便硬には」「白朮を加える」という方法が書かれています
> が、後世の医家はその文は錯簡だろうと言ってろくに注目もしませんでした。

原典は次のようになっています。
> S.174下編,桂枝附子湯
>  若其人大便硬、小便自利者、去桂枝加白朮湯主之。

桂枝附子湯は《傷寒論》にある処方で、風湿相搏,身體疼煩の症状に使います。
桂枝 附子 生姜 大棗 甘草

この構成から桂枝を除いて、白朮を加えると白朮附子湯になります。
白朮 附子 生姜 大棗 甘草

「風湿相搏」の症は“風湿”が脾胃を冷やし運化作用を低下させるので、小便は出過ぎるけれど大便は停滞して硬くなります。
そこで白朮を加えて運化作用を復活させてやれば良いと説明しているのです。
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もし白朮の単味だけでは効果がハッキリしないという場合には次の処方があります。

黄竜湯《傷寒六書》:大黄、芒硝、枳実、厚朴、当帰、党参、甘草、生姜、大棗、桔梗

これは熱秘兼気虚に用いる処方で、より強力に運化作用を助けてくれます。

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