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不眠症の奇経治療

漢方の生理では陽気が盛んなら目覚め、陰気が盛んなら眠るといいます。
だから不眠の原因は陰陽のアンバランスという事です。
即ち「陽>陰」なら不眠で、「陰<陽」なら嗜眠です。

生体十二経の陰陽を総合的につかさどる二つの奇経があります。
陽キョウ脉と陰キョウ脉です。
だから不眠・嗜眠の病変はこの二つの奇経上に現れます。

『霊枢』大惑論篇には不眠の原因を次のように説明しています。
「衛気陰に入るをえず,常に陽に留まり,陽に留まればすなわち陽気満ち,陽気満つればすなわち陽キョウ盛んにして,陰に入るをえざればすなわち陰気虚し,ゆえに目 瞑せず」

また嗜眠についても同じ論理で「陰盛陽虚」となり、次のように説明しています。
「衛気陰に留まり陽に行くをえず,陰に留まればすなわち陰気盛んにして,陰気盛んなればすなわち陰キョウ満ち,陽に入るをえざればすなわち陽気虚し,ゆえに目閉ずるなり」

そこでもし不眠を治療しようとするならば「陽>陰」の状態を「陽=陰」にするために、陰気を増やす手段を講じなければなりません。
処方では天王補心丹などが代表的です。
しかし現実にはそう簡単にいかない場合が多いのです。


痰飲が経絡の気の流れを阻害して、陽気と陰気を交流させない場合にも不眠が起こります。
『症例から学ぶ・中医婦人科』名医・朱小南の経験(2004/4/5 東洋学術出版社)に次のような例が出ています。
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 陽盛陰虚の不眠症は,「胃 和せざればすなわち臥 安んぜず」(『素問』逆調論篇)という痰飲症状を伴うことが多い。これを治療するための方剤としては,『内経』の半夏(禾朮)米湯(『霊枢』邪客篇)が有名であるが,この処方は痰濁を取り除き,胃気を和し,陰陽を調和させることができる。この方剤について,蒋宝素はこう述べている。「半夏(禾朮)米湯は,胃衛を通って脾営に入り,陽キョウの絡に達する」(『問斎医案』)。また半夏(禾朮)米湯で胃の不和を伴う不眠症を治療した医案は古来より非常に多いが,ここでは葉天士の症例を紹介しよう。「陝西省の47歳。痰飲とは濁飲が変化して次第に形となったものであり,これが陽気を遮って陰に入らせないために,陰キョウが空虚になり,夜熟睡することができなくなるのである。『霊枢』では,半夏(禾朮)米湯で陰を通じさせ陽と交わらせたところ,痰飲が凝集しなくなった。…‥半夏加(禾朮)米湯」(『葉案存真』上巻,不寐)。
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私には中医学のテキストの処方だけでは治せなかった不眠症例が幾つもあります。
テキストでは痰飲阻害による不眠の原因をしばしば「痰熱擾心」として温胆湯の類を使うようになっています。
しかし必ずしも熱化していない場合も多く、そんな時には半夏(禾朮)米湯を使えばよかったかも知れないのです。
『中医方剤大辞典』には半夏(禾朮)米湯を半夏湯として紹介してあります。

【組成】(禾朮)米10 半夏5

(禾朮)米とは粟のことです。
性味が甘寒で、陽を瀉して陰を補い、キョウ脉の失調を調和させる。
呉鞠通は粟がなければ意(よく)苡仁を代わりに使っても良いといっています。
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今回は漢方臨床において蔵象学説や経絡学説を駆使して考察する祭に、十二正経以外に奇経をも考慮することの大切さを教えられました。

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