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急性胃腸炎

急性胃腸炎とは現代の医学では原因を特定できないままに結果だけを見て付けられた病名です。
そしてこれに対してどんな治療法を取っているでしょうか?
おそらく消化機能しか見ていないのではないでしょうか?
しかし漢方では全く違った考え方をします。
この度、身内で経験した実例に従って考察してみます。

2004.07.14
私たち夫婦は昼食に昨夜の残りのごくありふれた食事をしました。
私は何ともなかったが、しばらくたって妻が少し腹痛を訴えました。
しかし普段から胃腸が丈夫な妻は、また3時過ぎのおやつにアンパンを半分とバナナ一本を食べました。
小食の私はアンパン半分だけでした。
間もなくのこと、妻は腹痛と下痢に見舞われ、何度かトイレへ通いました。
その内に治るだろうと思っていたら急に呼ぶ声がします。
行ってみると蒼白な顏をして悶えているではありませんか。
裏急後重の下痢に加えて、もう何回も嘔吐をしてつらがっています。

二人は同じようなものを食べながら、私は何ともないのに妻だけが七転八倒しています。
症状からは梅雨時によくある「霍乱(かくらん)=急性胃腸炎」です。
何かの原因で胃腸がオーバーワークになって爆発している状態です。
胃腸の中身を排出して、リセットが完了するまでは我慢しなければなりません。
何か薬を飲むか?と聞いても、ムカムカしてとても口に入るような状態ではありません。
出るものが出てしまえば自然に治るよ、と安心させるしかありません。

その晩、妻は何も口にせず、ただ寒い寒いと息絶え絶えに横たわっていました。
少し胸のムカムカが軽くなってきたので一口づつ煎じ薬を飲みました。
[飲食不節+暑湿]が穢濁の気を生じて胃腸の機能を乱して霍乱になったものと考え、病名診断で処方は燃照湯を選びました。

燃照湯 (滑石5 淡豆鼓・山梔子・黄苓・厚朴・半夏・佩蘭3 白豆寇1)24g

2004.07.15
翌日の午前に私も一度だけ下痢をしましたがそれだけで収まりました。
妻は裏急後重はないけれども引き続き下痢をしており、まだムカムカもあります。
脱水症状もひどくて疲れ果てているので再考することにしました。

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《傷寒論》に太陽と少陽の合病というのがあります。
S.172下編,太陽興少陽合病、自下利者、与黄苓湯。若嘔者、黄苓加半夏生姜湯主之。

合病というのは病勢が強すぎて一つの経絡だけで収まりきれず、二つの経絡にまたがっている原発性の病気です。
太陽少陽の合病で下痢をするのは、少陽経(三焦と胆)に発生した熱が強くて疎泄し切れず、脾土に横逆して脾胃の昇降機能を乱したからです。(健常ならば胃は気を降し、脾は気を上げる)
それで腹痛・裏急後重・下痢・嘔吐の症状になったのです。
[飲食不節+暑湿]のために少陽胆経に熱を発生したのが真の原因であり、胃腸症状は二次的な結果に過ぎません。
従って治療には少陽胆経の熱を去り、横逆された脾の被害を補修しなければなりません。
燃照湯も間違いではないでしょうが、病機についての考察が欠けていました。
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舌苔を見ると何と、厚い白苔の中央に黒苔が生えているではありませんか!
よほど病勢が強かったのですね。処方は次の通り。

黄苓湯加半夏生姜湯 (黄苓・芍薬・大棗・半夏4 甘草2 生姜1)19g

これで午後にはムカムカが消え、下痢も次第に間遠になっていきました。
口苦と口渇が強いので水分の補給にはアイスやみぞれ等の嗜好品とプリンやアイスクリームを数種類買ってきました。
夕方には食事の用意もできるようになり、妻はお粥を食べた。

2004.07.16
まとまったオシッコが出るようになって初めて気が付いたらしいが、茶色の尿にビックリしていた。
ムカムカがないので処方を変更した。

黄苓湯 (黄苓・芍薬・大棗4 甘草2)14g

2004.07.17
いちおう峠を越えたようなので一日休薬して様子を見る事にした。
下痢は一度だけで食欲も出始めた。

2004.07.18
もう下痢はしないし、お粥で食事も進んでいる。
舌苔も消え、色もきれいになった。
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一段落したが私にはまだ考えなければならない事が残っている。
それは[飲食不節+暑湿]のために少陽経(胆・三焦)に熱を発生したのが真の原因だと決め付けたけれども、その前に何か前兆は無かっただろうか?
急にあのような激しい太陽と少陽の合病が湧いて出るはずがありません。
ここで治療を中止したら再びいつか同じ症状を繰り返さないとも限りません。
何故ならもう一つ前にこそ真の原因があるからです。

思い返せば、妻は前々から夜の風呂上りには足がほてってならず、足をだるがっていました。
それともう一つは異常に臭い屁をするので、これには閉口していました。
この二つの状況を見て早くから未病の原因を突き止めていれば、発病には至らなかった事でしょう。

『内外傷辯』巻中に升陽散火湯という処方があります。

そこには「血虚或いは胃虚なのに冷たい物を食べ過ぎた為に陽気が発散せず脾土の中に閉じ込められて、四肢はだるく肌が火照り、筋骨間が熱し、その熱いことはまるで火で焼かれるような烈しさになったもの。」と説明があります。

手足四肢は脾土の支配するところです。
脾土の気が手足まで届かないと、手足は気虚となりだるくなります。
脾気をのびのびさせていないのは食べた物の冷気が陽気を閉じ込めて出さないからです。
冷たい食物を取り過ぎたことで脾気は弱くなり、中気不足から湿を化せず、湿は長引くと熱へと変わり湿熱が生じます。(脾虚湿熱)
こうして虚から生じた虚火は、火の性で上へと昇り(上衝)、肌が火照り、筋骨間が熱くなります。

冷たい食物を取らないようにする事はもちろん、既にある脾土の冷気をも取り去らなければなりません。
脾土に冷気があるという事は脾の陽気が不足しているという事です。(脾陽虚)
そこで脾陽を升挙させる升麻・葛根・独活・羌活・防風・柴胡のような軽いものを使って升陽させるのです。
脾陽が冷気を発散させてしまえば自然に胆経や三焦経の経気ものびのびと運行し始め、湿熱は下から排泄されます。
ただ湿熱だからといって短絡的に利尿剤や下剤や清熱剤を使ってはなりません。
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これで多分、妻の足がだるくて火照るのと、臭い屁も治るのではないかと思います。
一段落したら升陽散火湯を飲ませてみることにします。

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