年初から各地でノロウィルスによる感染性胃腸炎の報告がなされています。
感染すると、吐き気や腹痛、下痢などの症状が出て、ほとんどは自然に回復しますが、高齢者や乳児などでは重症化し、死亡することもあります。
現代医学ではウィルス自体に効く薬は無いので、水分を補給して脱水症状を防ぐなどの対処療法で状態が改善するのを待つしかないそうです。
では漢方ではどのように考えているのでしょうか?
漢方では発病原因がノロウィルスであろうと何であろうと細かい分析はしません。
まず大雑把に外因・内因・不内外因と分けたり、内外併病と認識します。
次に外因ならば六気(風寒暑湿燥火)の中のどれか、内因ならば七情(喜怒憂思悲恐驚)の中のどれか、不内外因ならば飲食・外傷・中毒・社会環境などの中から見当をつけます。
いまは吐き気・下痢・食欲不振・舌のねばつき・倦怠感・さむけ……などの症状が現れているのが実情です。この実情に対しての分析と対策を立てるのが漢方のやり方です。
感染性胃腸炎の場合は、六気の内の“湿”が特に関係あります。
体内に“湿”がたまると気の流れが阻害され、悪心、嘔吐、下痢、腹部膨満感、食欲不振などの症状が出てきます。腹部膨満感は文字通り気の停滞ですし、口が渇いても水を飲みたがらないのは、内に水分があってもそれが有効利用されていない状態を意味しています。
胃や腸は「腑」と呼ばれる消化の場所にすぎず、消化(運化)機能は膵臓や肝臓などの「臓」がつかさどります。
胃腸にあるのは昇降をつかさどる「気」です。
この胃腸の気の働き(気機)が“湿”の停滞によって乱される(気機不和)と上記のような色々な症状となります。
“湿”はまた“熱”や“寒”と結びつきやすく、“湿熱”や“寒湿”となると、さむけ・発熱などの症状も併発します。冬季や梅雨時は“寒湿”となる場合が多いものです。
これを専門用語では「寒湿困脾」といいます。脾とは脾臓ではなくて前述のように膵臓や肝臓などの消化機能全般を指しています。
ゆえに胃腸に停滞する寒湿の邪を取り去れば胃腸の気は正常な昇降機能を回復するでしょう。寒湿困脾の証に使われる代表的な処方は*霍香正気散(かっこうしょうきさん)です。
(*霍香・桔梗・白朮・厚朴・半夏・大腹皮・白*止・紫蘇・茯苓・大棗・甘草・生姜)
もしノロウィルスによる感染性胃腸炎にかかって、漢方で治したいと思ったら一度試されることをお勧めします。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
『中医方剤大辞典』から実例を引用紹介します。
急性腸炎 《広東中医》(1960;9:442):
*霍香正気散加減で非特異性急性腸炎30例を治した,
西医30例対比組(スルファニルアミド類、炭酸Ca等の腸道収斂剤及びベラドンナチンキ等の止疼剤)。
7例は軽微発熱,熱度は37~38℃之間に在る。
多数は軽度の腹疼,疼痛の多くは臍周囲に在り,腸鳴を伴う。
腹瀉すること昼夜4~8次。
糞量は比較的多く粥状或いは水様であり,淡黄色或いは泡沫有り。
(一部の病者の糞中に粘液が混有していた,但し無膿、無血だった)
裏急后重感は無し。
腹部がやや鼓脹し,軽度の圧疼有り,腸鳴音が亢進している。
症状消失平均日数 中葯組 西葯組
腹瀉 1.5日 2.7日
稀便 1.8日 3.1日
腹疼 1.3日 2.4日
腹脹 1 日 2.2日
食欲不振 2.1日 3.3日
発熱 2 日 3 日
平均治愈日数 1.4日 2.9日
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※袁世華(中国・長春中医学院教授)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1996/1/7より引用
時あたかも“七草粥”がつい先頃に終わったところです。ここで云う「春の七草」には、セリ、ナズナ、スズシロ(大根)のように、健胃・消化促進作用のあるものが多く含まれています。おせち料理や餅の食べ過ぎなどによって疲れた胃腸を整えるための、生活の知恵として日本に定着した習慣ようです。
日本の正月に欠かせない餅は栄養豊富なものですが、粘り気があるため腹持ちが良くて消化しにくい食べ物です。このため食べ過ぎると胃腸の働きが低下し、痰や湿(病理的な水分)を生みやすいのです。そして新年会などで酒やビールを多量に飲むと、この傾向をさらに助長することになります。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ノロウィルスならずとも、このような飲食の不摂生が不内外因として常に存在しています。また*霍香という生薬も春の七草とよく似た芳香性の葉っぱです。
ノロウィルスによる感染性胃腸炎
Recent Comments