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営衛不和と不眠

日中の陽気である「衛気」が夜になっても陰脉に入れない"陽盛陰虚"という状態は「営衛不和」に似ている。
張仲景の桂枝湯は営衛を調和するのに用いているが桂枝湯系列の処方には不眠治療は出てこない。
ただ桂枝加竜牡湯には"男子失精,女子夢交"の治療があり、これは"虚労虚煩不得眠"の治療でもある。
小建中湯では"心中悸而煩"を治療し、桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨湯では"臥起不安"を治療している。
(桂枝湯加減で不眠を治療するのは后世医家の応用法である。)

桂枝湯加減が適応する病人には食欲不振、自汗、盗汗、悪風が無ければならない。そして煩躁はない。
それを徐守愚は曰く"汗が出て不寐なるは陰陽の不足に非ず、陰陽の不和なり。"
しかも不眠と嗜睡が交替に出現し、不眠は連続して数日続くが比較的に元気である。
嗜睡は十数時間しか続かない。
だからこれには営衛を調和するだけで一般的な安神方法は用いないのである。
常用処方は桂枝湯加竜骨・牡蛎等である。
竜牡を加える訳は《杏軒医案》の所説にある。"心は虚霊の臓なり,草木は无情なり,物類の霊を借りて引となさずば効を望めず、亀板・虎睛・竜歯・琥珀・珍珠などを加入する也。"

从経典著作探求不寐辨治 より

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酸棗仁湯で不眠症が治るか?

不眠症にはいつも大変てこずります。
不眠症に至る過程は長いのに病人は性急に効果を求めるからです。
一般に汎用されている漢方処方は次の様です。

虚証
1. 心脾虧虚  帰脾湯
2. 心胆気虚  安神定志丸
3. 肝血不足  酸棗仁湯
4. 陰虚火旺  黄連阿膠湯
5. 心腎不交  交泰丸

実証
6. 痰熱内擾  温胆湯
7. 肝鬱化火  竜胆瀉肝湯
8. 淤血内阻  血府逐淤湯

実証の不眠は極めて稀ですからここでは虚証についてのみを考えてみます。
エキス剤にあるものは帰脾湯と酸棗仁湯です。
それで世間では酸棗仁湯が多用されているようです。
何故かもう一つは帰脾湯ではなく加味帰脾湯なのです。腑に落ちません。

ここで取り上げたいのは酸棗仁湯エキスです。
これで本当に効果があった例はあるのでしょうか?

酸棗仁湯 (酸棗仁 茯苓 知母 川弓 甘草)

このように誠に薬味が少ない処方ですが方意は難解です。
構成薬味から考えられるのは「滋陰養血,清熱降火,調血疏肝,安神除煩」とそれぞれ別々の効能からなり、原因としては肝血不足が挙げられ、症状としては「虚熱内擾,肝陽上旋,虚煩不得眠」となります。
だから中医では主治が「失眠,心悸盗汗,頭目眩暈,咽干口燥」となっています。
肝血虚といえば婦人の更年期障害が代表例で、足がほてり寝苦しく、夜中にカーッと熱くなり汗をかくというような時の症状とよく似ています。

それ以外の老齢による不眠症などは肝血虚ではなく、半夏[禾朮]米湯で述べた“陽盛陰虚”(陰陽のアンバランス)が原因となる場合が多いのではないかと思うのです。
半夏[禾朮]米湯はエキス剤には無いので使いづらいでしょうが、だからといって証を見ないで酸棗仁湯で済ませてしまうのだけは止めて欲しいものです。

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不眠症の奇経治療2

不眠症の奇経治療 への追加です。
健康体では衛気は日中体表を回り、夜になると体内へ潜むので睡眠を催すと云われています。
不眠症の者はこの衛気の移動がスムーズにいかず、いつまでも衛気が陽[足尭]脉に盛んのまま残っています。

なぜ衛気が陰[足尭]脉に入れないのかというと『霊枢』では「厥気が五臓六腑に客したため衛気が陰に入れず」となっています。
その厥気(冷え)とは具体的に云うと"痰湿"のことです。痰湿はどこから産するかといえば胃経からです。

一方では陽[足尭]脉に残っている衛気は体表に近いので発汗法で外へ出してやるのが早道です。
そこで半夏が出てくるのです。
半夏の薬性は辛温です。
胃経の気分に入り厥気(冷え)の元凶である"痰湿"を除きます。
痰湿は汗となって衛気を伴って体表から発散します。

日中の衛気が入って来なかったので陰[足尭]脉は虚の状態になっています。
そこで胃経の血分に入って滋陰するのが「」即ち[禾朮]米です。
粟は北方の膏梁で味は甘酸、よく胃経の血分に入る。
内からの滋養で衛気は再び生産されます。

外では衛気を泄し、内では衛気を生産し睡眠体勢を整えると不眠症は解消します。

《霊枢》卷十。厥気客于五臓六腑,衛気不得入于陰,陰虚,目不瞑。

《古方選注》:今厥気客于臓腑,衛気独行于陽,陽[足尭]気盛不得入于陰,陰虚目不瞑。

最後にもう一つ、半夏[禾朮]米湯を煎じるには長流水を用います。
即ち千里の長流を下る江河、渓澗の水です。これは通利作用が強く出ます。
更に長流水を大きなお盆に取り、柄杓で掬い上げては落とし、水泡が無数にできるまで繰り返します。
これを“労水”といい、昔の人は「水も動かせば陽性に変わり,上へ揚げれば下走の勢を得る」と解釈しています。
長流水で出来た労水は軽くて発汗法という泄邪の目的によく適します。

煎じ方にも一工夫があります。葦薪火で煎じよ、となっています。
葦薪火とは武火すなわち強火のことです。瀉法になります。

病が新しい者は飲んだら直ぐに寝なさい。
汗が出れば治るし、久しき者でも3飲すれば治るでしょう。

(病新発者,覆杯則臥,汗出則已矣;久者,3飲而已矣。)

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極め付きインフルエンザ対策

インフルエンザに罹ってからの転帰は人によって違います。
治りやすい人、いつまでも引きずる人、余病を併発する人、重症化する人など。
それは人それぞれの内因によります。

先の“未病を治す”とはにも

 例えば湿盛の肥胖者は湿毒邪気に感じやすく

と書いたように、予め“湿”が過剰な体質の人は“湿毒”へと転化しやすいものです。
2003年の中国におけるSARS流行の時も“湿熱蘊毒”という証候に陥った人が沢山いました。そのため治療は困難を極めたのです。
外邪としてのSARSウイルスがどんなに悪質なものであっても、罹った人が「湿体質」でなければそう簡単には次の段階へと転化することは無かったでしょう。

過去の伝染病流行の体験から学ばなければならない事があるはずです。
罹ってから慌てるのではなく、罹る前の予防法として“未病を治す”ための体質改善こそが急がれます。
未病時に自分はどういう所に欠陥があるか、体質的にどんな偏りがあるか」を予め知って事前に治しておく事です。
そしてこれはインフルエンザに限らず慢性病でも云えることで、糖尿病やガンでもならない内に未病を治しておけば回避できる可能性があります。

そのためには体質的偏向としてはどんなものがあるのかを大局的に知っておかなければなりません。
私が提示している「50証チャート」というのがあります。
これは漢方のを網羅したもので、いわば漢方のまんだら図にあたり、「漢方まんだら」と呼んでいます。
自分がこの中のどの位置にあるか、それならばどう治しておかなければならないか、という事です。

では具体的にどのようにして自分の体質を決定するか?
それは日頃感じている些細な不具合があれば、それをヒントにして体質的偏向を推論します。
例えば、肩が凝るとか眠つきにくいとか眩暈があるとかニキビや湿疹があるとか月経痛があるとか、何でもいいから些細な不具合があれば、それは「50証チャート」のどこと関係があるからかを類推しておくのです。

(自分で考えても分らなければどうぞ相談表を送ってください。出来るだけ返事しますが、返事を貰ったらそれっきり というのはナシです。無い知恵を絞っているのですから受け取ったらどう思ったか返事ぐらい下さいよ。)

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外邪をいかにして追い出すか

いわゆる肌表(衛分期)にあるうちに外邪(ウイルス)を撃退するのが第一です。
前述したように「陽虚ならば風寒に感じやすく,病を得ると寒に化しやすい」というケースは「風寒」に傷(やぶ)れたので程度に応じて“傷寒”とか“傷風”と呼びます。
「風寒の邪」にかかると強い悪寒が始まり、いくら保温しても決して寒気は無くなりません。
そこで麻黄湯や葛根湯小青竜湯などの温熱剤で温めて発汗させて外邪を追い出さなければなりません。

ところがインフルエンザになると寒気は少しだけで直ぐに高熱を発します。温めるどころか氷嚢で冷やさなければなりません。
それで“風温,風熱”呼んで区別します。
外邪を追い出すためにはやはり発汗作用を利用しますが、温めるのではなく冷やしながら発汗させなければなりません。
そういうのを涼性発汗剤といって、桑菊飲銀翹散などがあります。

“風温,風熱”にかかった時に特に気を付けなければならないのは (現代医学でも点滴輸液が大切なように) 発汗によって体液を失わない事です。
体液が少ないのを「陰虚」といい、はじめから陰虚だと思うように汗が出ません。
だから流行期に備えて陰虚体質の人は補陰する事こそが抵抗力を高めて予防する事になります。

例えば皮膚が乾燥する人、唾液が少なく口や舌が乾く人、鼻粘膜が乾く人、声が嗄れやすい人などは肺陰虚の傾向がありますから日頃から滋陰薬を飲んで体質改善を心掛けておかなくてはなりません。ワクチン注射よりも余程効果的です。 (つづく)

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もし新型インフルエンザが来たら

もしも鳥インフルエンザが突然変異して「新型インフルエンザ」になり人から人へと伝染するようになったら日本では64万人が死亡するだろうと騒がれています。
現代医学では免疫ワクチンや抗ウィルス薬などの研究が急がれていますが、まだそうなっていない仮定の話ではどうにも進みません。

では中医学(漢方)では何が出来るでしょうか?
新型インフルエンザでも、エイズやガンでも相手が何であれ、中医学が出来るのは常に"未病を治す"という姿勢です。
すなわち慢性疾患などの内因性の病気には、罹らない事を前提とした体質治療を以って川上治療(原因治療)とします。
またインフルエンザなどの外感病に対しても同じです。
罹っても重症化しないように日頃の体質治療を以って川上治療(予防治療)とします。

万一、外感病に罹ってしまったら川下治療(対症治療)は仕方のないところ、扁鵲に習って疾病が肌表(衛分期)に在るうちに肌表治療をします。ここで喰い止めるのが最善の策です。
コレラや天然痘など過去に幾度となく経験してきた流行病から得た知識は『温病論』や『湿温病論』として蓄積されています。
病邪が衛分から気分へと移れば気分期治療を、病邪が営分へ移れば営分期治療を、病邪が血脈(血分期)へと移れば血分期治療をと病気の進行に合わせた治療を考えます。

なぜ病気の進行に合わせるのかは説明するまでもなく自己免疫力を最大限に発揮するためです。病気を治しているのは他の誰でもない自分自身の免疫力だからです。 (つづく)

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“未病を治す”とは

未病”とは中医経典《黄帝内経》の《素問・四気調神大論》に出てくる言葉です。

正確には“この故に聖人は已病を治さず,未病を治し,已乱を治めず,未乱を治める,という意味です。病が已に成りて后に薬を与えたり,乱が已に成りて后に治めるのは,譬えれば渇してから井を穿ち,斗ってから兵器を鋳るごときで,遅すぎやしませんか?”と書かれています。すなわち早期治療や萌芽時の治療(預防)のことです。

《史記・扁鵲倉公伝》によれば春秋戦国時代の扁鵲は“未病を治す”名医だったそうです。扁鵲が斉国を旅していたとき,斉の桓侯が彼を接待しました。扁鵲は桓侯を看るなり“あなたは病気にかかっています。今はまだ病は肌表にありますが,すぐに治さなければ進行しますよ。”と云いました。桓侯は“わたしは病気ではない”といい張ります。
扁鵲が去った後で桓侯は周りの人に云いました。“扁鵲という奴は虚名の徒だ,病気でもないのに病気だといって功名を得ようとする騙りだ。”

それから五日が過ぎて,扁鵲は再度 桓侯を拜見して云います。“あなたの病気はもう血脈に進みました。いま治さなければ深く進入するばかりです。”
桓侯は大変不愉快になり“わたしは病気ではない”というばかりです。

また五日が過ぎると,扁鵲は桓侯に“あなたの病気はいま腸胃にあります,いま治さなければ難治となります。”
桓侯は不愉快のあまり相手にしません。

さらに五日が過ぎて,扁鵲は桓侯を遠望するなり くるりと身を翻して去りました。桓侯は奇怪に感じ,慌てて人を遣わして扁鵲に訳を問いました。
扁鵲は云います。“君王の疾病が肌表に在った時には,湯熨を用いれば治療できた;血脈に在った時には,針灸[石乏]石の力を借りれば治療できた;腸胃に在れば,酒剤を配合して治療できた;が現在では疾病は已に骨髄にまで深入していて,これはもう神仙でさえも方法がない。”

また五日が過ぎると,果して桓侯は発病しました,人を遣わして扁鵲を探しても,扁鵲は已に去ってしまい,桓侯は終いに不治となり身を亡ぼしました。

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桓侯は癌の晩期だったのかも知れません。
では どうすれば未病のうちに発見できるのか?

それは現在ならば体質診断ではないかと思います。
陽虚・湿熱・血淤・痰湿・気虚・気鬱・陰虚など、中医学では臓腑の陰陽盛衰を見て体質分類がなされています。
体質に異常があれば同じ邪気でも病気の伝変が違ってきます。

例えば湿盛の肥胖者は湿毒邪気に感じやすく,陽虚ならば風寒に感じやすく,病を得ると寒に化しやすい;脾虚なら,外感病から肝病になりやすいから先ず脾を実して伝変を防がなければならない、などなど。 (つづく)

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