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激しいめまいと嘔吐

前日(2008/07/17)は今年一番の猛暑でこの辺は35℃もあった。
閉店のため表のカーテンを閉めに行った妻(64)はさすがに疲れきっていたのか軽い眩暈がすると云っていたが、食事や入浴は普段通りに済ませて就眠した。
それが何と今朝(2008/07/18)は、トイレに立とうとしたらグルグルと目が回って廊下で倒れてしまった。同時に猛烈な吐き気もしてゲーゲー悶えている。
自分は洗面器を取りに行ったが、どうすることも出来なくて傍でただ手をつかねて見ているだけである。
思いもかけない急症に、さてこれは一体何事が起こったのだろうかと思案した。
最初は食中毒かと思ったが、吐き気はあっても腹痛や下痢は無く違うようだ。
グルグル周りが回る眩暈は強烈で、吐き気はその為によるものらしい。
しばらくじっと動かず、廊下で喘いでいるうちに吐き気は収まったが頭を持ち上げると再び眩暈と吐き気が襲ってくる。

暑気当たりにしても普通は徐々に来るもので、こんなに急には来ない。
得体の知れない怪病に、取りあえず漢方の弁証を当てはめてみると、眩暈・悪心・嘔吐で導かれるのは痰濁中阻による眩暈症である。
まだ薄暗い早朝のことであったがパソコンの電源を入れて半夏白朮天麻湯を割り出して、急いで煎薬を作って一匙口元へ運べど頭が上がらない。仕方が無いので横呑みで飲ませたが飲んだ後からゲーゲー吐いてしまう。前日に食べた物は出ないで、少量の水だけが吐き出される。口渇は無く、小水も出た。

やがて夜が明けたので舌を出させてみると全然白苔はなく、綺麗な舌である。
あれあれこれは痰濁ではないぞ。
では心下に溜まった「支飲」による水飲上逆かも知れない。

「辨太陽病脈證併治中第六」の第37条
傷寒、もしくは吐し、もしくは下して後、心下逆満、気上りて胸を衝き、起れば則ち頭眩、脈沈緊、汗を発すれば則ち経を動かし、身振振として揺をなす者、苓桂朮甘湯これを主る。

『金匱要略 痰飲咳嗽病篇』
「心下に痰飲あり、胸脇支満、目眩するは、苓桂朮甘湯之を主る。夫れ短気、微飲あるは、当に小便に依りて之を去るべし。苓桂朮甘湯之を主る。」 

再びパソコンから苓桂朮甘湯+沢瀉湯というのを導き出した。
苓桂朮甘湯の項に曰く、「心下逆満、気上りて胸を衝き、起てば則ち頭眩」とある。

おそらく暑気と飲食所傷が合わさっての急症だったのだろう。
対策としては急いで"心下の停飲"を気化させ、汗か尿にして排出さなければならない。

昼頃になってやっと苓桂朮甘湯+沢瀉湯の煎薬を横呑みで一口ずつ飲んだ。
何も欲しがらないので呑まず食わずで、朝から夕方までずーっと横たわっているだけである。
夜になっておかゆと梅干で少しだけ食べた。
眩暈と吐き気をおして、トイレにも一度行った。
煎薬も欲しがらないが無理やり一口だけ飲ませた。。

けものは病気になると、呑まず食わずでただじーっとしているだけで自分を治すというから、こちらもそう覚悟を決めて時間の経つのを待つことにした。

それにしても水気上逆とは何と激しいものだろうか!
文献によれば水気凌心ともあり、凌とは侵犯の意味とある。
さぞかし胸がたいそうであろう、じっとしていれば眩暈も吐き気も無いのだが、それでもたいそうがってならない。
心下の水飲をさばく生理作用が全く無くなっているからだ。(脾陽と心陽の不振)

若素体脾虚或治療不当,脾胃受伐,中気不足,転輸失職,則可導致水液蓄留中焦,以致水気上逆,凌于心下而変生諸証主要症状可見:心下逆満,気上冲胸,頭目眩暈,心悸気短及小便不利,苔白滑,脈沈緊等。


さて一晩たって今朝(2008/07/19)は回復しているだろうか?
けものの回復力に習って、期待しながらトイレに行こうとしたが、そう簡単にはいかない。
四つんばいになってそろそろと行くのだが、ゲーゲー出そうになってならない。
朝一のトイレが済んで布団に横たわった妻は回復の遅さに、さすがに気弱になったのか
医師に点滴でもしてもらおうかと云い出した。

口から水分を飲んでいないのだから、この暑さに水分補給は必要かもしれない。
しかしそれならどうして口渇という生理現象が起こってこないのだ?
口渇があるなら点滴による水分補給も必要だろうが、口渇もないのに習慣的に点滴するなら、水分代謝の弱った者を溺れさす事にならないだろうか?
内心そう思ったので、妻をなだめすかしてもう一日だけこの煎薬を飲んでくれと頼んだ。

昼頃にまた少しだけ煎薬を飲み、おかゆと味噌汁に白身の焼魚をチョッとだけ食べた。
間食にバナナとミカンを少し。
アイスクリームのような冷たいものは欲しがらない。
テレビや蛍光灯を見ると眩暈がするといって庭の植え込みばかりを見て過ごす。

夕方、その日の二回目のトイレはふらついたけれど吐き気は少なくて、かなり自信を持ったようだ。
夕食は例によっておかゆと梅干、つけもの、煮しめをほんの少し。みかん一個。
食後、みぞおちが少し痛いという。まだ心下が冷えているのだろう。
暫くして煎薬を一口飲む。
昨夜は歯も磨けなかったけれど、今夜は体を拭き歯も磨くことが出来た。
寝る前に小水も出た。

さて三日目(2008/07/20)が来た。
早朝にトイレに立ったがふらつかなかった。
水分は殆ど取っていないのによく小水が出る。
舌を見ると僅かに白苔が付いている。
ほぼ正常に戻ってきた。

朝食に甘味の葛をかいて食べる。桃を一切れ。
間をおいて煎薬も少し飲む。
ふらつかないでしっかり立つ事が出来るようになったので洗濯機のセットも自分でした。
暫くはテレビを見ることも出来るようになった。

昼食はおかゆに梅干、ゆで卵のスライス、トマト。
まだ食欲が出てこない。
夕食は少し進歩して昆布巻きやサラダも食べることが出来た。
テレビもかなり長い間見続けることが出来る。
煎薬は同じものを飲み続けている。

四日目(2008/07/21) もう殆ど復調しているが念のため今日一日も寝て暮らすようにする。
介抱する自分(69)は食べ物の買出しや馴れない食事の準備もあと少しの事と思えば嬉しい。

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インターネットで調べてみると現代医学で云う、ウイルス性 前庭神経炎らしい。

「三半規管は前庭に属します。いきなり起こったら前庭神経炎と言われますが、これはまったく今のところはっきりとは原因が解らず」
「かぜの症状から1~2週間して、とつぜん回転性のめまいで始まります」
「激しい回転性のめまいが急に起こり、普通それが数日~1週間程度続きます。めまいには、吐き気や嘔吐、冷や汗を伴いますが、難聴や耳鳴りなどの聴覚の症状を伴わないのが特徴です。

「20日くらいは立ち上がるのにかかる」
「早期に治療すれば、一度障害を受けた前庭機能が回復することがあります。このような時には、比較的早くめまいが軽くなります。

「使われるのは、細胞賦活剤、制吐剤、ビタミン剤、抗めまい薬など。一緒にステロイドを投与することもある。」

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今回の治験から得たもの

現代医学では前庭神経炎はまだ原因を特定できず、治療法も確立していない。
これを漢方では傷寒、太陽病で水気上逆の証、心下に痰飲ありと断定している。
また自家経験から 苓桂朮甘湯+沢瀉湯 で速やかに治癒していったと云える。
ウイルス感染か又はアレルギー反応により脾胃が被害を受け、みぞおち辺り(心下)に水液貯留を起こしたのが原因であろう。
また眩暈につながるのは水気上逆という病理現象である。

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