慢性便秘
肺は嬌臟といい、大変繊細な臓器です。
それならば大腸だって、さつまいもや栗で気滞を起こすような感受性の強い腑器です。
便意を我慢すればすぐに便秘にもなります。
かくして起こった習慣性便秘を大腸の気滞から読み解くことは出来ないものか?
「かぜの体験」の記事で止嗽散を飲んだら大小便が大量に出たと書きました。
そこで止嗽散の中の成分である「紫苑」に注目して調べてみました。
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史堪、字は載之、北宋の四川眉山の人、政和年間に科挙の進士となり、太守を担当したことがあり、同時に彼はまた経験豊富な医者でもある。
《宋史》などの史書の中には、史堪の感動的な治病事例が記載されています。
時の政府で権勢のあった高官、蔡京が患った便秘症を史堪が治したのもその中の一例です。
蔡京は北宋の徽宗の時の宰相です。
ある時 蔡は大腸が秘固不通となり大変苦しんだ。侍医の調治を受けたが病状は少しも好転しません。
原因の1つは蔡京が正気の損傷を怕れて、瀉下の要薬である大黄の使用を許さないからです。
医師等はみな手をつかねるばかりでしたが、ある人の推薦で史堪に診治を頼むことになりました。
当時はまだ無名だった史堪は蔡家の門番にさえ軽く見られたものです。
史は入室后詳しく脈をみて処方をするでもなく、ただ蔡に向かって20銭を下さいと云いました。
蔡はわけがわからず半日の間答えませんでしたが、最後に家人に云い付けて史堪に20銭を与えさせました。
史は人を遣わして紫苑一味を買いにやらせ、すぐに粉末にひき砕き、蔡に水で服用させました。
蔡が薬を飲んでから間もなく、腸が"即通"してたちどころに奇効を現しました。
蔡は驚喜して、史堪に訳を説明するよう頼みました。
史はかすかに笑いながら言います:これはとても簡単な事です、大腸の気は肺と相連なり、大腸は肺の伝送の器官です。
あなたの患った大腸の秘固不通は"肺気濁"がもたらしたものです。
いま紫苑であなたの肺気を清理したら、このように大腸はすぐに通達し、病気が除かれたのです。
中医では便秘を成因により実秘、虚秘、熱秘、冷秘、風秘及び気秘に分類します。
蔡京の所患は気秘であったろうと推察され、これは憂思鬱結して、気滞不暢,津液不行となり、腸が伝導を失したものである。
紫苑は本来 止咳理気薬です。
古代の本草書を調べても、紫苑は小便を通利し血尿を治すと記載してあっても、通大便の効能は記録されていません。
ただ清代の《本草从新》の中では紫苑には"苦は能く下達することができ、辛は能く金(肺)を益する……至高に入りても、能く下達する"とあります。
近代の名医、朱良春の《朱良春用薬経験集》の中にはこのような記載があります: "紫苑が能く二便を通利するのは、その体が潤で微辛微苦だからである……潤は能く通すことができ、辛は能く行らし、苦は瀉火するので二便の滞塞に有効である。"
朱氏は紫苑が能く二便を通利すると言い出したのは、彼はこの薬の通便効果を検証したことがあるからでしょう。
紫苑の薬性から見ればそれも一理あります。
紫苑は微温で潤、肺家の要薬にして、能く肺鬱を開泄する。
中医では、肺と大腸は表裏をなすとし、生理と病理上で相互に影響し合うとみなしています。
紫苑が肺気を宣通すると、気が行り津液も行る。津液が下行すれば腸道を潤沢でき、便秘は解けるという訳です。
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