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胃気

がん患者や医師などを対象とした意識調査の結果、「最後まで病気と闘う」という回答は、患者の約8割に対し、医師は約2割だったという。

多くの医師は「治療=やりすぎると悪い結果になる」と認識している。

現実から逃げて、最後の最後に悶(もだ)え苦しむ末期がん患者を数多く見てきた私は、首をかしげざるを得ない。(医師・作家 久坂部羊)

この記事に共感します。

多くの病人が三度の食事よりも多いほどの薬を飲まされながら次第に衰弱していく現実があります。
それを見るに付けて中医学の「胃気」という言葉を思い返します。
中医学では胃気の盛衰を診察するのが診病の大綱であると考えています。
またそこから疾病の軽重緩急及び予後も判断できるのです。

葉天士の《臨証指南医案・不食》中に説く:
“胃気有れば生き,胃気無ければ死す,此れは百病の大綱なり。故に諸病で若し食欲があれば,病勢が重くても救える;食欲が無ければ,病勢が軽くても必ず長引き悪化する。”

《素問・平人気象論》に曰く:
“平人は常に気を胃より受ける,胃は,平人の常の気なり。人に胃気無きを逆という,逆なれば死す。”

《内経・五臓別論》に曰く:
“脾胃は後天の本なり”
“諸病は脾胃より生ずる”
“胃気が有れば生き,胃気が無ければ死す”
“胃気が一たび敗れれば,百薬も施し難し”

李東垣曰く:
“元気、穀気、栄気、清気、衛気、諸陽を生発する気,この六気は,……胃気の異名であり,其の実は一つなり。

《素問・玉機真臓論》説:
“五臓は,皆気を胃より受ける。胃は,五臓の本なり。”

《中蔵経・論胃虚実寒熱生死逆順脈証之法》亦説:
“胃は,人の根本なり,胃気が壮んなれば,五臓六腑は皆壮んなり。”

《霊枢・平人絶穀》説:
神色を望んで胃気を察する,“神とは,水穀の精気なり ”,胃気が強ければ精気は充ち,形神ともに旺んで,目の光には精彩がある,病い多くとも軽い,予後も佳い;反対に,胃気が衰えておれば精気は虚し,体は弱く精神は疲労しており,目に神採がなく,病多く重い。

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挙げればきりが無いほど故人は胃気の重要性を説いています。
病、膏肓に入る」という諺がありますが、胃気が絶えるのをいうそうです。
病気を怖れるよりも食欲が無くなるのが一番怖いのです。

療養中の知人に下痢が止まらない方がいます。
治りたい一心で、食欲がなくても三度の服薬だけは厳重に守っています。
しかし薬効が現われず、どんどん体が衰弱していきます。
こうしているのも本人は考えるだけ考えた末のことでしょう。
権威あるかかりつけ医師を信頼してお任せしている限り、もうこれ以上どうしようもないのです。

しかし若しこの時、病人か医師に「胃気」の観念があれば、この後の展開はまた違ったものになったかも知れません。
生命観がもっと多様な、朱子学や中医学などの自然哲学で培われていれば、この真面目な病人に生命を全うする別の道が見えたかも知れません。

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タミフル耐性ウイルス

厚生労働省は一月十六日、今冬流行しているインフルエンザのうち、二番目に多いAソ連型ウイルスで、治療薬タミフルが効かない耐性ウイルスが97%を占めたと発表した。インフルエンザ全体では三分の一強に当たる。

昨冬はAソ連型の耐性は2・6%と少なかったのに一挙に97%に増加した。この様子ではいずれB型も同じ事になるだろう。

インフルエンザへの対抗策は「先手必勝“未病を治す”」しかない。
先に「かぜの体験 止嗽散」で軽い風邪の報告をした。

軽い内に手を打つのが最善です。
重くなってしまっては薬も強力なものを使わなくてはなりません。

当地でもインフルエンザによる学級閉鎖のニュースが出始めました。

昨日、息子が職場で風邪を貰ったようで、かなり強い寒気を訴えてきました。
そういう状態でも宿直をしなければならないと云うので止嗽散の煎じ薬を持たせてやりました。
風邪を引くと息子はいつも決まって止嗽散の症状を現すからです。
今日帰ってきて、風邪は治まったようだと云います。
やれやれ重くならなくて良かった。
軽い内なら軽い薬で済む。
重くなったら止嗽散ぐらいでは済まないだろう。

「漢方でインフルエンザを治せるか?」とよく聞かれます。
重いのを経験したことが無いので何とも云えませんが、重いのはやはり手に余ります。そんなのは御免です。

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半夏でどうして咽痛が治るの?

半夏散及湯(はんげさんきゅうとう)という処方が《傷寒論》の少陰病編にあります。

"少陰病、咽中痛、半夏散及湯主之。"

処方の構成は [半夏・桂枝・甘草] です。

正直に云って半夏や桂枝でどうして咽痛が治るのか理解出来ませんでした。
通常、風寒を外感して咽痛を起こすなら六味湯を、風熱なら銀翹散を、というのがもっとも一般的な方法です。
六味湯や銀翹散の処方には風寒や風熱の邪を吹っ飛ばす荊芥薄荷が入っています。
しかし半夏散及湯にはこういう外邪に対する成分は入っておらず、僅かに寒気への桂枝と痰飲への半夏があるだけです。
だいたい桂枝と半夏という組み合わせ自体がとても珍しくて少ない組み合わせだし、寒気と痰飲に対するだけでどうして咽痛の原因である外邪を追い払うことが出来るのかと。

しかしその後、咽痛には太陽の咽痛のほかに少陰の咽痛というものがあることを知りました。

太陽の咽痛は病気の初発に寒気と同時に咽痛もあります。
一方、少陰の咽痛には僅かに寒気はあっても大した事はなく、それよりも体がだるくてただ横たわっているだけです。

"少陰之為病,脉微細,但欲寐也。"

少陰病というのは太陽病の時期にしっかり治しておかなかったため、病がこじれて体表よりももうひとつ深い所へと病態が進行した状態です。
太陽期には体表の免疫系(衛気)が働いて病邪を追い払うのですが、少陰期になるともうこの免疫系はありません。
着物を剥がされた裸状態で、病邪はいつでも勝手に中まで進入してきます。
だから寒気は余り無くて咽痛ばかりの症状になるのです。

なぜ咽痛なのかというと太陽病は膀胱経が邪に犯されていて、ここで喰い止められないと邪は表から裏へと侵入します。膀胱経の裏は少陰の腎経です。腎経は喉をまとっているので咽痛の症状が現われるのです。

慢性咽頭炎などで繰り返し咽痛を起こすのもこの少陰の咽痛です。

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食滞 (食積)

正月明けて、やはり過食の症状を訴えるお客があった。
体格のいい中年の男性。
食後グズグズと腹が痛み、便意を催して大便をするが硬い時が多く、出残る感じがして気持ち悪い。

この客はかねてから胃もたれがするといって、よく保和丸を持っていく事があった。
正月休みに体を動かすことも少なく、食べてばかりいたのではないかと思われる。舌の状態は別段変わった事もない。

食後の腹痛と大便が硬い、残便感(大便不爽)がある、という事から食事に関係がある事は想像できる。
漢方では飲食が積滞するのを「食積」といい、消化や運化を促進して体外へ排泄する消導法を採用する。

枳実導滞丸という処方があり、《内外傷辨惑論》には湿熱の物に傷(やぶ)れ,運化できず,痞満・悶乱するのを治す”とあります。

正月の料理と酒が本人の消化力を超えていたので「湿熱積滞」となって痞満脹痛・大便秘結・出ても出残る“裏急后重”になったのであろう。

そこで、『中医症状鑑別診断学』から枳実導滞丸加減を引用することにした。

(白朮・茯苓5 枳実・沢瀉4 神曲・連翹3 木香・砂仁2 大黄0.5)28.5g

一週間分を持って行き、また一週間後に来店して、大分良くなったが念の為もう一週間分欲しいという。やれやれ薬が合ったようで一安心。

日本では馴染みのない処方ですが、こういう気滞・食滞である急慢性の胃腸炎にはピッタリの処方ではないかと思います。

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ペット動物への漢方薬

愛猫や愛犬が病気になって動物病院で治療を受けても良くならなかったら、漢方薬で自宅治療する方法もあります。
基本的に人と動物は同じだと考えても良く、薬量は体重に比例してください。

【実例】 牛の急性腸胃炎 (感染性胃腸炎)
不潔だったり腐敗したりしている飼料や水を食して起こる場合があります。
糞便は稀粥様を呈し、粘液が混っています。
排便時に努責し、裏急后重(スッキリ出ないで何度でも繰り返す)があり、糞中に潜血があり、腹痛を伴います。
これには霍香正気散(かっこうしょうきさん)加減を用いています。
急性腸胃炎 39 例 , 治愈 35 例 , 4 例は中西薬結合を用いて治愈した。

1 症状
病牛の体温及び鼻汗は正常 , 反芻は減少するか或いは反芻せず , 食欲は全く無し, 聴診で胃蠕動音が弱い ,1 次 /2 min, 持続 10 s。時には起てずに腹這いになっている , 糞は暗色で , 潜血あり , 量が少くて稀薄である。

2 治療
霍香正気散加減 :
霍香 60 g, 厚朴 50 g, 半夏 40 g. 蒼朮 50 g. 木香 50 g, 肉桂 30 g, 陳皮 40 g, 焦地揄 40 g, 茯苓 40 g 粟殻 20 g, 甘草 20 g, 生姜 20 g, 大 棗 15 枚 。
1 剤/d. 水煎 , 分三次灌服 , 毎次灌服 1500 mL。

方中の霍香、蒼朮は芳香化湿辟穢の主薬である ;
厚朴、木香、陳皮は理気健脾の輔薬。
肉桂は温中散寒で止痛 ;
焦地楡、粟殻は止血・止痛の佐薬。
半夏、茯苓は滲湿利水 , 分清濁で , 牛の反芻を促進する。
甘草、生姜、大棗は補脾開胃し , 諸薬を調合して使薬となる。
諸薬は升清降濁 , 扶正去邪 , 標本兼治するので , 良効を得る。

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