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甘草瀉心湯

甘草瀉心湯とは半夏瀉心湯を基礎として炙甘草の用量を増やして調中補虚の意を図るものです。
即ち半夏瀉心湯証の重症で、脾胃虚・心下痞を強く訴える者に適用されるものです。
「心下痞」とは横隔膜を境にして上下の気が交流しないために起こります。
上半身と下半身の気が互いに交流しないとどんなことが起こるでしょうか?
上半身では不眠を、下半身では便秘を、みぞおちでは胃痛を起こします。

一、大便燥結

 岳美中医案:宋某某,男,5 9歳,1960年12月31日初診。
便燥となりて数月,空腹時には胃が脹痛し,酸水を吐く,手でさすると痛みが減り,おならが出ればスッキリする。
診察すると面部に虚浮があり,脈象は濡緩である。

そこで甘草瀉心湯加茯苓を投じた。
3剤の后、大便が沢山出て,おならも多くなった。

改めて防己黄耆湯加附子4・5gを投ずると、1剤后にはまた大便が通暢し,胃の脹痛も減り,面浮も消えた,ただもう少し胸焼けが残る。

再び甘草瀉心湯加茯苓を2剤服用させた。

3个月后に訪れてみると,諸症は皆消えていた。(《岳美中医案集》1978:45)

 按語:大便干燥の多くは腑実熱結によるか,津虧腸枯による。
然し本案の便燥では,口渇等の熱熾津傷の象が見られず,ただ胃痛、吐酸の証があったので,別の原因を示していた。
胃痛が手でさすると減るということは,気虚である;
痛んで脹り,おならが出るとスッキリするのは,気滞である。

脈象を綜合分析すると,脾虚にして気機阻滞の候である。
脾虚気塞すれば,腸道は不運となり,大便干燥となる。

故に治法は塞因塞用(*)こそが,気機を斡旋してくれる筈だ。

(*)甘草瀉心湯は下痢を止めてくれるから流れを塞ぐ処方だと思うだろうが、これを便秘に使うとは逆みたいだが原因を知れば納得できるだろう。

甘草瀉心湯は脾胃虚がひどくて痞するものに用意されている。
補に通を兼ね,寒熱が并投され,辛で開き苦で降せば,気機が暢達する,本証はまさにそれであった。

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以前、慢性便秘の記事で書いています。

私のお客で便秘にセンナや大黄の製剤を愛用している人の中で、ものすごく大量を飲まなければ通じが無いという方がおられます。
何年にもわたって服用し続けたため薬の刺激に慣れてしまって、だんだん量を増やしていった結果なのです。そういう方の便は決していいものではありません。軟便か形のないドロドロ便か水の中へ落ちると花のように散ってしまう水便です。このままでは将来の服用量がどんな事になるのか危ぶまれます。

こういう方に甘草瀉心湯が合わないだろうか、と思っています。

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二、不寐

 李秀華医案:張某某,女,58歳,1989年6月14日入院。
患者は四年来の不眠症で,毎晩安定剤を服用しなければ入睡できない。
それもほんの2~3時間にすぎず,少しの物音ですぐに目醒める。
最近は20日前から不眠で,安定剤を2倍にしないと眠れず,胸騒ぎして,疲倦乏力,両目が突っ張り,胸が詰まって痞満し,口干き苦く,食欲がない。

身体は消痩し,面色が悪く,舌苔は黄厚で,脈は沈細である。
これは脾胃虚弱で,寒熱が中焦にこもり,頭の心神を騒がしているのだ。
中焦を調理し,開結除痞する方法を取らなければならない。

甘草瀉心湯化裁:
 甘草18g,黄岑、半夏、内金、陳皮、干姜各1Og,党参15g,黄連5g,大棗4枚。

 1剤を服薬しただけで,諸症は皆除かれた。(四川中医1990;<5>:30)

 按語:《素問・逆調論》に云わく:“胃不和なれば臥不安。”
本案は中気虚弱で,脾胃に寒熱が錯雑していて,心神が騒ぎ不眠をきたした。
胸[月完]痞満、不食等の症は,まさに甘草瀉心湯の“心下痞硬にして満,干嘔,心煩不得安”の証と同じである。
病いは胃中で起っている,故に陳皮、内金を加えて和胃、健胃の功を助けている。

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以前、不眠症の奇経治療の記事で書いています。

痰飲が経絡の気の流れを阻害して、陽気と陰気を交流させない場合にも不眠が起こります。
‥‥‥そういう時に半夏(禾朮)米湯を用いたら良い。

こういう方に甘草瀉心湯が合わないだろうか、と思っています。

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三、胃痛 (慢性胃炎、十二指腸球部潰瘍)

   梁恵光医案:霍某某,男,3 5歳,1974年5月21日初診。
患者の胃[月完]部の疼痛は已に四年になる。
診断では慢性胃炎及び球部の軽度潰瘍とされ,服薬でいくらか緩解するも,完全には治っていない。
最近はかえって病情が重くなり,疼痛時には灼熱感や,胸脇満悶があり,食欲は減少し,ゲップが頻頻に出て,腹中がごろつき,疲れやすい。
空腹になると痛みは強くなり,甘いものを食べると痛みが収まる。
舌質は淡で,舌の尖端が少し紅く,舌苔はやや厚く黄味を帯び、脈は弦細無力である。

これは肝鬱脾虚・湿滞熱壅・寒熱互見・升降失和の証である。
治療には舒肝健脾・燥湿清熱法を用いる。

甘草瀉心湯加木香・佛手を投ずること5剤。
服薬后は症状が消えたが,まだ食欲減少があり,たまに飽悶感がある。

そこで鶏内金・谷芽・白芍を加えて再服すること5剤。
その後ずーっと再発していない。 (浙江中医雑志1982;<5>:227)

 按語:胃痛が4年にもなると,寒熱は錯雑し,脾胃は大虚となり、“穀物が消化しなければ,腹中は雷鳴し,心下は痞硬満となり,干嘔や,心煩のため不眠になる。”
これらの諸症を見れば,正に甘草瀉心湯の証機である。
いま脇満と、脈の弦があったので,木香・佛手を加えて疏肝解鬱を図った。

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