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口瘡 三態  アフター性口内炎

アフター性口内炎を中医学では"口瘡"という。
≪素問・気交変大論≫ には已に"民は口瘡を病む" の記録がある。
≪医貫≫ にも亦云く: "口瘡は上焦実熱, 中焦虚寒, 下焦陰火, と各経からそれぞれ伝変する"。

以前「心脾湿熱」によるアフター性口内炎の一例をあげた。
今度は心脾湿熱 以外にも肝胃鬱熱、肝気鬱結と色々原因がある事を追記したい。

なおアフター性口内炎という小さな症状でも、中医学の方法で原因治療をすれば大きく体質が変わり、未病を予防するきっかけになる事に注意を喚起したい。


(1) 心脾積熱によるもの
手の少陰心経は舌を通り, 足の太陰脾経は口を通る。
心脾の痰火が蘊盛になれば, 上焦へと熏蒸し, 穢毒の邪もこれに乗ずると, 肌膜を腐蝕し, 口瘡を発する。

【臨床応用】
何氏は温胆湯化裁にて頑固性口腔潰瘍の治療に応用している。

治療: 温胆湯 (半夏・茯苓・竹茹・枳実5, 陳皮・甘草3)

 牙齦紅腫, 舌紅苔黄,   去半夏 加竜胆草;
 苔膩、痰湿重  加茵陳、滑石、鬱金;
 大便干結、 口臭  加大黄;
 口干舌燥  加麦冬、五味子、天花粉;
 心煩、表熱未清  加柴胡

【病案挙例】
患者, 女,53歳。 1999年6月初診。
口腔潰瘍を反復すること半年余り, 灰白色の潰瘍点が糜爛状で, 胸脇脹悶を伴い, 煩躁, 食欲不振, 大便干結, 舌紅 苔黄でやや膩, 脈は弦である。

温胆湯加減: 竜胆草・柴胡・竹茹・茵陳・枳実3, 陳皮・大黄2, 甘草1

按: 温胆湯は, 胆胃不和の治療に常用される。
痰熱が内擾すれば虚煩不寐, 悪心[ロ厄]逆, 癲癇 等となる。
口瘡には虚火と実火の区別がある。
実火とは, 諸経の熱で, みな心へ集まる。
心火が上炎して, 口を薫灼すると, 口舌に瘡を生ずる。
また脾熱生痰の機舒から, 痰火は互結して, 口へと上炎し, 口瘡を生ずる。
この復発性口瘡 (阿弗他潰瘍) は病程が長く, 反復して痰熱が相搏つと, 胆経では, 陰津に受損する。
こうなればもう清熱剤の単用では奏効し難い。
何氏は温胆湯化裁にて治療し, 胆経の痰火鬱結を解いた。

     『難病奇方系列从書 第三輯 温胆湯 (2009年)』 より

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尿道綜合症と加味温胆湯

以前、「無菌性の頻尿」の題名で非感染性尿道綜合症について書きました。
その時に取り上げたのは(三)気陰不足型 のケースでした。
老齢者には確かにこの型が多いのですが、若い人には(一)肝気鬱結型 が多いようです。
そこで今回は 肝気鬱結型 について取り上げます。
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この病因は外感湿熱・飲食不節・情志失調・禀賦不足 或いは労傷久病 等だとされています。
それらの原因から詰まるところ 下焦に湿熱が蘊結して, 腎と膀胱の気化不利が起こったものです。
すなわち「腎虚, 膀胱湿熱, 気化失司」という病機です。

肝は疏泄を主り, 性は条達を喜び, 抑鬱を悪む。
肝気が疏暢なれば, 三焦の気機を調暢させ, 肺、脾、 腎 三臓の機能を促進し,水液代謝を調節する。

この気機の昇降出入を重視すれば, 肝臓の疏泄功能を調節することが最重要であり、必ずしも苦寒清利の薬ばかりが必要ではない。

“尿道綜合症”の患者の症状には、尿頻・尿渋 (或いは尿痛) 等の腎虚 膀胱気化不利の症状の外に, 心煩易怒・失眠多夢・小腹脹痛 等の肝気鬱結・気痰互滞・痰熱内擾などの症状が多い。


【臨床応用】
治療方法: 加味温胆湯
(茯神・炒棗仁・丹参5, 制半夏・竹茹・枳実・橘皮・茯苓3, 炙甘草・緑梅花2, 生姜1, 大棗4)39

随症加減:
湿熱下注, 尿急尿痛者加木通1, 滑石・冬葵子5;
肝気鬱滞, 疏泄失常, 両側小腹脹痛者加柴胡2, 白芍・佛手3;
腎気虚, 固摂无権, 小便余瀝不尽, 甚至咳嗽或大声説話則尿液淋漓者加益智仁・山薬3, 枳実加量至10;
中気下陥, 下腹墜脹且小便淋漓, 臥床休息則減軽者加党参3, 升麻・柴胡1, 黄耆5

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帯状疱疹と肝鬱

免疫療法なる言葉があります。
「免疫力が無くなると癌になる」とか「免疫力が無くなると帯状疱疹になる」と云って免疫力を高めるための方策をとります。
いかにも尤らしい説ではありますが、免疫力を高めるとは何をどうするのだろうか?

例えば「がんと免疫療法」というHPでは、免疫系を活性化するためにワクチンやインターフェロンや健康食品を摂取する方法、リンパ球を一度体外へ取り出して活性化してから体内へ戻すという方法などが上げられています。

ひとくちに「免疫力を高める」といってもこれは大変な事です。
無くなったものを補うといえば、いかにも補法のように思われますが単純な補法ではありませんね。
大改造になります。
この「免疫力を高める」ことを中医学ではどのように行っているか、について考えてみたい。


帯状疱疹のことを中医学では“蛇丹”“蛇竄瘡”“蜘蛛瘡”“纒腰火丹”等と云う。
免疫力が無くなったのは老化や過労などの体力的なものではなく、風火或いは湿毒の邪を感受した事と、情志・飲食・起居失調などのためと見ます。

そんなに強い風火や湿毒の邪が何処にあったのか?
そんなものがあれば誰も彼もが感染してしまう。
自分だけが選ばれて帯状疱疹になったとすれば、外に原因を求めるよりも自分の内部にこそ本当の原因があるのではないか。
では情志・飲食・起居失調などがそんなにも常態からはずれていたのだろうか?
そうなのです、非常に正常状態からはずれていたのです。
小さな外因と大きな内因があったのです。

「情志不遂なれば肝気は鬱結し、やがて化熱する」
「飲食不節なれば脾は健運を失し、湿濁が内停する」
「起居を慎まなければ衛外は失調し、風火・湿毒の邪を肝胆に内鬱させる」

肝火脾湿が内鬱すれば、毒邪は虚に乗じて外より侵し、腰腹の間で経絡淤阻となり、肌膚の表では気血凝滞し、帯状疱疹を発するのである。
本病は肝・心・脾臓と関連しているが、なかでも肝との関系が尤も強いと考えている。

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高プロラクチン血症と漢方

プロラクチンというのは脳下垂体から放出される刺激ホルモンで、乳腺を刺激して乳汁を分泌させるように働きますが、このホルモンの分泌が異常に亢進して乳汁分泌、無排卵月経などを起こすようになったものを高プロラクチン血症といいます。  プロラクチンの血中濃度の正常値はおよそ15ng/ml以下ですが、高プロラクチン血症ではこれが異常高値を示すようになります。[(女性)25mg/ml, (男性)20mg/ml]

中医学では高泌乳素血症といい、臨床では「溢乳症」或いは「溢乳-閉経綜合征」に相当します。


【臨床応用】
奚氏は柴胡疏肝散加減を用いて高泌乳素血症を治療しています。

薬用: 柴胡12g, 炒白芍20g, 当帰・青皮・陳皮・香附各l0g, 炒麦芽40g, 茯苓15g, 川牛膝12g, 熟地15g。
   (炒麦芽を重用するのは回乳のためである)

若し経閉か或いは月経稀発で気血淤滞を兼ねれば 加益母草15g,川弓10g,沢蘭15g;
肝血不足なら 加制首烏12g,鶏血藤15g,阿膠10g;
多嚢卵巣綜合征で腎虚挾痰湿を兼ねれば 加仙茅・淫羊霍各15g,石菖蒲12g,制半夏10g;
功能性の子宮出血量多で、色紅 或いは淋漓不尽なら 加炒黄岑10g、丹皮12g、墨早蓮15g。


按: 高泌乳素血症という病名は中医にはありませんが、≪竹林女科≫ の中に “乳衆血枯” の説というのがあります。
また ≪済陰綱目≫ の乳病門の中に “未産前乳汁出者, 謂之乳泣, 生子都不育” (出産前に早々と乳汁が出る症状を乳泣といい、未熟児出産になる) という論述とこれを調肝健脾法にて治療するという記載があります。


中医では本病は「情志不舒,恚怒傷肝,肝鬱気結,鬱而化熱,血随火升する故に経血不行,乳汁自溢する」ものと認識しています。
臨床時も此の類の患者の多くは肝鬱症状を具えています。
乳頭は厥陰肝経に所属し,乳汁や月経というのは衝任脉の気血の所産そのものです。
気血が調和し,経絡の通りが盛んなら,気血は時に応じて下り、それが月経となる。
若し情志不遂,肝鬱気滞のため,疏泄が失常すれば,気血は血海に帰らず、反って肝気上逆に随って乳汁に変わる,それ故に溢乳閉経等の症状が出現する。


以前、30 芍薬甘草湯と高プロラクチン血症 というのを書きました。

日本では柴胡疏肝散は周知されていないので代わりに芍薬甘草湯になったのでしょう。 単純な処方構成である芍薬甘草湯よりも柴胡疏肝散の方が遥かに優れているのは云うまでもありません。 こちらの説明の方が、私が勝手に想像した帯脈説よりもよほど合理的です。

     『難病奇方系列从書 第三輯 柴胡疏肝散 (2009年)』 より

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夜尿症 遺尿

中国医学では「遺尿」を次の四つに分類している。

(1)下元虚寒,腎気不足,
膀胱を温養することが出来ないと,膀胱の気化功能が失調して,閉蔵失調を起こし,水道を制約する事が出来ずに,遺尿となる;
(2)脾肺が気虚すると,膀胱は失約となり,小便自遺 或いは睡中に小便自出となる;
(3)肝経湿熱で,火熱が内迫すれば,遺尿となる;
(4)もし痰湿内蘊があれば,入睡后に昏睡状態(沈迷不醒)になり, いくら呼んでも応えず,遺尿する。

日本では夜尿症を「寒」や「虚」と考えることが多いように思う。 それで小建中湯や八味丸などをあてがう事が多い。 しかし現実には体格が良くて元気で活発な子供が夜尿をする事が非常に多い。 そういうケースに(3)の肝経湿熱の証が多いのではないかと思っています。

【臨床応用】
 浙江省寧波市の中医院の夏明医師は加味丹梔逍遥散を基礎にして肝経鬱熱型の小儿遺尿症を治療しています。

病例では小便黄にして量が少なく,尿が臭く,小兒の性情が怒りっぽい(急躁),顏色は赤く唇も紅い,口渇があり飲みたがる,舌質は紅く,苔は黄,脈は弦数である。
これらの肝経熱盛の象から,遺尿症でも実証に属する。
治療には疏肝清熱, 固渋小便の対策をとる。如し誤って補えば必ずや他変を生ずる。

薬用: 加味丹梔逍遥散
薬物組成: 牡丹皮・黒山梔子・柴胡・白芍・当帰・炒白朮・茯苓・石菖蒲・桑[虫票]蛸・益智仁6~9g, [火段]牡蛎12~18g (先煎), 甘草3g。

加味法: 舌苔黄膩, 加竜胆草1.5~3g, 黄柏3~6g;
胃納不佳, 加生谷芽6~9g, 神曲6~9g。

全方は疏の中に補を寓し,補の中に散が有る,[示去]邪しつつも正気を傷つけない。

一応の効果を得たら後はその効果を持続させるために 知柏地黄湯加減 を飲ませる。
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小兒にも結構, 心情抑鬱があるものです。
もし家庭において,心情がいじけると,やはり肝気鬱結を起こして,気機は暢びず,三焦水道の通利に影響を受けます。
それが長引くと鬱熱となり,疏泄太過を促し,膀胱に下迫すれば,膀胱は収蔵作用をせず,睡眠中に遺尿となる。

これは小兒に特有の“稚陰稚陽”、“肝常有余” 等の生理的特長が容易に肝鬱化熱的な病理を起こさせるのです。

また肝経鬱熱といっても必ずしも熱盛の象が備わっているとは限りません。寒や虚が見えなかったら一応こちらの熱の方も疑ってみるべきだという事です。

     『難病奇方系列从書 第三輯 丹梔逍遥散 (2009年)』 より

疏泄太過による小便失禁」「我が家のおねしょ

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統合失調症と心腎不交

金元四大家の一人である 朱震亨(または朱丹渓ともいう<1281~1358>) は養陰派と呼ばれている。
その説は『陽は常に余りがあり、陰は常に不足している』という言葉に代表される。
その理由を彼はこのように説明している。

たとえ腎水が盛んで補う必要がないように見える少年でも、みだりに心を燃え上がらせば、中年になって心が衰え始めても、腎の損害があまりにも大きいため、回復できなくなる。ましてや老人になり、天真(天与の真陰)がしだいに途絶えようとする時には、孤陽だけが残るということになりかねない。したがって、補陰薬は子供から老人まで欠かすことができないものである。

彼のいう"陽有余"とは現代にあってはストレスの渦中にある事を指すし、"陰不足"とはそれに耐え得る物質的なサポート(精血のこと)が不足する事を指す。

それを次の様に表現している。

人の体には常に陰が不足し、陽が余っている。そのうえ欲望を抑えられる者は少なく、欲望に溺れる者のほうがずっと多いのである。欲望に溺れた結果、精血が欠損すれば、必ず相火が強くなり、陰はますます弱くなる。‥‥‥したがって、常日頃より陰を補い、陰と陽の均衡を保たせておけば、水が火を抑制するので、水が上昇し火が降下してバランスを保ち、病気になることはない。

五臓のうち「心(火)」は精神活動をつかさどります。
それを物質的にサポートしたり制御したりするのが「腎(水)」です。
水火が程よく交わり、心腎が交流すれば意識や精神活動も正常に働きます。
しかしこの世は兎角住みにくく、あくせくする様に出来ています。
燃料が足りないのにエンジンばかりをふかし過ぎでオーバーヒートになっています。
ここから生じてくる心身の不一致が不眠症から始まり、鬱病や精神分裂病や離人症へと進んだりします。


心の陽気過剰を制御する役割の精血とは心陰や肝陰・腎陰・肺陰などの複数の陰からなります。
なかでも心陽と相対するのは心陰です。
その心陰を生ずるのが腎水です。
陰を補う事が精神疾患にとっていかに重要であるか、漢方をやっていると良く分かります。

鬱病・統合失調症(精神分裂病)・離人症など、病名をつけたらどれになるのか分かりにくい精神疾患があります。
その中で“陰虚”にからむものがあります。しかもそれが精神疾患の大部分を占めているようなのです。
陰虚を更に詳しく云うと「陰虚陽亢」「心陰虚」「心腎不交」などになります。

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