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亡びゆく漢方

漢方製剤の偽装』の記事で“修治(加工)”のことを書きました。

この度『我が愛しの上海へ』の中の「いろいろな方の訪問を受けて」の記事に次の様な一節を見つけました。

中医学や漢方の世界での薬剤師の存在は非常に大きく、中国でも中国人の中医系の薬剤師はエキスパートとして活躍されている方が多いです。
 というのも、中医学の世界では、薬を調剤する以外にも、生薬を鑑別する目や、さまざまな生薬原材料を炮製(修治)することは、臨床的な作用を高める上でも非常に大切だからです。

 うちのクリニックでもエキス剤ではうまくいかないとき、生薬の原材料を使って加工すれば、結構思い通りにすることもできます。中医学の生薬での伝統の継承は、それこそ薬剤師の技術にかかっているといっても過言ではないのです。

上の記事のように長い歴史と伝統のある中国とは違って、漢方医学が正式な医学とは認められていない日本にあっては、“薬草漢方”を行うには処方権のある医師と、調剤権のある薬剤師との協力が絶対に必要です。
しかしこれは実際には理想であって、そういう関係に恵まれるケースは極く稀でしょう。
前提として先ず漢方に強い興味のある医師の存在があっての話です。
医師だけだと投薬をすることは大変な困難があります。
どうしても生薬鑑別・修治加工・調剤分包ができる薬剤師の手が必要になります。
絵に描いた理想は云うだけで、現実は次の様に法律の制約の下でガチガチに縛られて不可能になっています。

・厚生労働省で認められている薬草の漢方処方は僅か180処方しかありません。 
・それを薬局では薬局医薬品製造業の申請をして、薬局製剤として販売しています。
・180処方については、それらを加減合法などする事は一切認められていません。(2010/04/01 新基準に加減方23処方を追加し236処方へと増加した)
・保険薬価基準には200余種の生薬と生薬末が収載されており、それらを使って医師は処方を組み立てます。
・もし薬価基準に載っていない薬草を使いたければ、保険とは別途に実費となります。
・保険適用されているエキス製剤は現在約150処方で、医師はこれらの範囲内で幾つか組み合わせて処方をします。
・すなわち薬草180処方とエキス剤150処方が日本の漢方の全てです。(お粗末!
(180処方を制定したのは遥か昔のこと、武見医師会会長の時代、大塚・矢数先生らの御骨折り、一体いつまでこの侭なのか?改定も進歩も無いまま、あるだけマシとの温存策か?)

治外法権として残されているのは、奇特な医師がコツコツ研鑽を積んで多くの処方を使いこなせるようになり、それを奇特な薬剤師と組んで薬草を中国から取り寄せ、デクノボウと呼ばれつつボチボチとやっていく事だけです。

まったく、このままでは我が国の漢方は亡び行くしかありません。

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毛嚢炎

息子(成人)が頂頭部に湿疹のようなものができて痒いという。
見ると、なるほど湿疹だろう。
赤みを帯びて少し飛び出ているのが数個ある。
引っ掻くからか、かさぶたが付いているようにも見える。
そこで消風散エキスを与えた。
2、3日飲んだが変化が無い。
彼は皮膚科を訪れて相談した。
すると医師は老人性のイボだろう、薬焼するしかないという。

ガッカリして帰ってきたので、もう一度 漢方薬を試してみようと云う事になり、やはり湿疹と考えて竜胆瀉肝湯の加味方を飲ませた。
しかしやはり効果が出ない。
ほとほと困った末に、もしかしたら毛嚢炎ではなかろうか? と気付いた。
そこで中国のネットを探してみると幾つか出ている。
その中から良さそうなものを選んで、熱毒夾湿型の「五味消毒飲合黄連解毒湯加減」というのを使うことにした。

 (蒲公英・金銀花・連翹・紫花地丁4 野菊花・黄岑3 山梔子・黄連2 土茯苓・白花蛇舌草7 生甘草1)41

すると何と、飲んだその日から良くなっていくのが分かるという。
どんどん飲んでいくと、みるみる良くなって消えていった。
効く時はこんなものである。

後で日本のネットを見ると、十味敗毒湯+黄連解毒湯+排膿散及湯などが候補に挙げられている。
まあ既製品の中からしか選べない故、そんなところだろうか。

因みに、毛嚢炎(毛包炎)は毛包(毛穴の奥で毛根を包んでいるところ)にブドウ球菌が感染して起こる皮膚病の一つで、赤みが強く張りがあり、多少の痛みがあるのが特徴で、ひどいと膿を持つそうです。
そう云われてみると湿疹なら平らなはずです。
それがやや硬く赤い丘疹のようになっている所が違っている。
‥‥‥

ところで 薬草を煎じる漢方だと色々と工夫ができて、効果の高い処方を作ることができる。
製剤化された市販品だとなかなか思うように行かない。
私のいる富山県は昔から配置売薬で名が通っています。
そんな所から“薬都”などと偉そうにアピールしています。
更には国立大学で最も早くに授業に漢方講座を取り入れ、病院には和漢診療部も開かれました。
現在では「富山大学 和漢医薬学総合研究所」という立派な施設も出来ています。
それなのに民間では薬草漢方をやっている専門薬局は数えるほどもありません。
このままでは漢方/中医学は本当に廃れていきます。
なんとか踏み止まって伝統を伝えていかなくてはなりません。

老骨を鞭打って、いま流行のフェースブックで『漢方/中医学』というファンページを作ってみました。
なにとぞご支援ください。

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甲状腺腫と漢方

甲状腺腫(腫瘍・結節)は漢方では「气瘿」「頚粗」と呼びます。
情志の抑鬱により肝が調達を失し,肝鬱気滞となると横逆犯脾となり,脾は健運を失し,痰濁が内生し,痰と気が互結して,循経上行し,喉に結ばれる。
故にその初発病者は主に肝鬱気滞・痰気凝結の証です。

肝鬱気滞による頚粗瘿腫は辺縁がぼんやりして,皮色に変化なく質は軟らかで痛まず,咽の動きに随って上下する;
瘿腫が大きいと沈重感があり,呼吸困難を伴う時もあり,咽下しにくく,声音嘶唖となる;
舌淡紅,苔薄,脈弦。

中医の治療法は整体観念から出発しつつ,局部を考慮します。
患者の全身状況から系統的調理を行うという事は,扶正祛邪,標本兼治,などの方法を用いることです。
これは腫瘤を根治させ,愈后も再発しにくくなります。

辨証分析:
気はもともと無形で,怒れば気は長大になり,喜べば気は消える,故に腫脹は広くて辺界がはっきりしない;
痰は陰邪で,気は結ぼれていても未だ化火していないので,皮色は周囲と同じである;
症は痰気互結に属し,明顕な血瘀の証はない,故に質は軟で痛まない;
舌が淡紅で、苔が薄く、脈弦なのは肝鬱気滞の象である。

治法:疏肝理気,解鬱消腫

方薬:
四海舒鬱丸加減
 (青木香・陳皮・海蛤殻・海帯・昆布・海藻・海漂蛸)

海藻玉壷湯加減
 (海藻10 昆布5 当帰4 半夏・連翹・貝母3 陳皮・青皮2 川芎・独活・甘草1)35

散結湯
 (海藻・昆布・夏枯草・牡蛎・丹参10 鼈甲・連翹・公英7 三稜・莪朮・亀板5 穿山甲・白角刺3 紅花4)96

また同時に消瘤丸・血府逐瘀丸・疏肝丸・消瘿丸(昆布12 海藻8 桔梗・陳皮・檳榔4 蛤殻・浙貝母・夏枯草2)38
などを服用しなければならない場合もある。

久病になれば愈えないばかりか気虚・陰虚・気陰両虚等の証へと転変する。

       结节性甲状腺肿

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不妊症の漢方

李美生治疗不孕症经验

1 病因病機

后天性の病因として中医が考えているのは 腎虚・肝鬱・痰湿・血瘀 の四つである。
腎陽虚になれば子宮を温煦できず,宮寒になれば受精できない;
腎陰が不足し,冲任脈が虚せば,胞脈は失養して受精できない;
肝鬱気滞となり,疏泄が失常すれば,気血は不暢となり,冲任は相いに資せず,受精できない;
痰湿が内阻し,気機不暢となれば,胞脈は阻まれて受精できない;
瘀血が胞脈内で阻めば,男女の両精は結合できず受精できない。

2 辨証論治

2.1腎虚型:月経は遅れ(后期),経量は少く,腰膝が酸軟し,性欲は減退し,白帯が少しあるか或いは無い,手足は冷え(欠温),舌は淡,脈は沈細,基礎体温は単相か或いは不典型性の双相である。
治には補腎養血。
処方:(仙茅・仙霊脾・肉苁蓉・当帰・沙苑子3 巴戟天・党参・枸杞7 菟絲子5)41
   形体が痩弱で,子宮が小さい者は+山茱萸・紫河車3

2.2腎虚肝鬱型:月経は先后不定期で,量は時に多く時に少なし,色は暗く,経前に乳脹し,脈は細弦。
治には補腎調肝。
処方:(山茱萸・紫河車・当帰・白芍・益母草・甘草3 柴胡・制香附5)28

2.3腎虚痰湿型:体は肥満し(胖)或いは多毛で,白帯が無いか或いは少ない,経量は少いか或いは閉止し,軽度に浮腫あり,脈は濡細。
治には補腎扶脾,化瘀活血。
処方:(山茱萸・熟地・広木香・川楝子5 杜仲・丹皮・蒼朮・当帰・沢瀉3 甘草2)37

2.4腎虚血瘀型:月経は失調し,経期が延長し,時には数月に達する,舌は淡で脈は細渋,基礎体温は単相型。
治には補腎活血,調肝。
処方:(柴胡・当帰・白芍・鹿角膠・香附・党参3 熟地・益母草5 山茱萸・丹参4)36

李美生老師は久瘀の干血が体内にあると,人の元気を傷つけて虚になると考えている。
多くは一分の瘀があれば一分の虚が増える。
かといって活血化瘀の品を過用すれば,必ず気血を傷つける事になり,やはり病情は重くなる。

3 中薬人工周期

 体質治療をする必要が無ければ次へ進む。

経前期、月経第16天から始めて,服用7天。
促黄体湯(人参・山薬・桑寄生・香附・仙霊脾3 川断・丹参5 巴戟天4)29

経間期、第5天から始めて,服用5天。
促卵泡湯(香附・菟絲子・首烏3 当帰・白芍・熟地・山薬・女貞子・甘草2)21

経后期 第8天から始めて,服用4天。
促排卵湯(当帰・赤芍・桃仁・紅花・路路通・沢蘭・夏枯草・益母草2 川芎・熟地・丹参・昆布・香附・山薬3)34

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不眠に半夏秫米湯

半夏秫米湯については「不眠症の奇経治療」と「不眠症の奇経治療2」で2度も書いていますが、まだ書き足りていません。
半夏秫米湯は《霊枢》によれば、千里を流れて来た水(長流水)即ち「江河・渓澗の水」を、掬っては何度も何度も上から落として泡立てた清水(甘瀾水)を以て煎じる事になっている。
長流水の質は柔であるが気は剛で、止水と区別される。
瀉剤を煎じるのに適している。

何を瀉すのか?

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かかりがけの風邪に六味湯加味

恥ずかしながら私は長い間 風邪に対する漢方処方に自信がありませんでした。
風寒証だとか風熱証だとか、弁証について論じる事はあっても、罹りがけの風邪に直ぐに対応できる処方を持っていませんでした。
よく出てくる桑菊飲・銀翹散・荊防敗毒散などは典型的な症状が揃った場合の処方です。
ほんの初期では症状がまだハッキリせず、風寒熱はどちらとも明確ではありません。
背中が薄ら寒くて、咽がイガイガする程度の時には何が挙げられるだろうか?

この度は中国ネットで大きなヒントになる記事を見つけました。(中国ネットは漢方の宝の山です
 高危人群可服“六味湯”

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鎮肝熄風湯

鎮肝熄風湯は《医学衷中参西録》に出てくる処方です。

主治〗 内中風証。
肝陽上亢,肝風内動,頭目眩暈,或いは脳中が時に作疼発熱し,或いは目脹耳鳴し,或いは心中煩熱し,或いは時には噫気し,或いは肢体が不利を覚え,或いは口眼が歪斜し,或いは面色が醉った如く,甚しい時には眩暈し,顛仆し,昏迷し,時には肢体痿廃となったり,偏枯となったりする事がある。

治験一時的な脳貧血発作

患者,男,54歳,1998年5月4日初診。
患者にはもともと眩暈病の患があり,常に頭暈目眩を感じると、悪心して嘔吐しにかかり、心中が煩熱する。
7日前に突然 頭を回すと眩暈発作がきて,歩く事ができず,目は復視のようで,咽の呑みこみが悪く,手足は重くなった。
半日后には症状が緩解した。
此の后 しばしば発作があり,甚しい時には1日3回もある。
ある医師は一時性の脳貧血発作と診断した。
西薬治療では効がなく,余が診治することになった。
余が視ると其の面は紅く精神は清明であり,舌体も正常で,舌は紅く苔は薄白,脈は弦細数であった。
中医の中風病に属する。
肝腎陰虚,風陽上擾と辨証される。
治は滋陰潜陽、鎮肝熄風とし,鎮肝熄風湯化裁にした。

処方: (牛膝・代赭石・茵陳蒿・鈎藤・女貞子・旱蓮草6 生牡蛎・生竜骨・亀板・玄参・天門冬・白芍3 川楝子・天麻・麦芽2)60

服5剤の后には発作回数は減少し,上方10剤を服用后には発作が停止した。

    

鎮肝熄風湯臨床運用挙隅

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ごく最近、私にも同じような治験がありました。
80歳を越えた老婦人で、日頃は大変元気な方です。
それがこの頃 頻繁に朝方のみ眩暈がして立ち上がれず、しばらくベッドに座っているとやがて収まってきて歩けるようになる。
軽い吐き気はあるが大したことはない。
目の下がピクピクと痙攣がしたり、夜中に足が吊ったりすることが多い。

それで肝腎陰虚からくる「肝風内動」だろうと考えて鎮肝熄風湯を飲んでもらいました。
3日間飲んだら改善が見られ、一週間たった時に良くなっているという電話がありました。
正月早々の吉報で大変うれしく思いました。

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