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腰膝酸軟(足が無力で歩けない)

頭暈目眩,腰膝酸軟,夜尿頻数

金X X,女,53歳,1981年8月来診。
患者は数年来,常に頭目暈眩(めまい)と,腰膝酸軟(だるい)無力があり,道を歩くと膝ががくがくするし,心悸・失眠・気短(息切れ)等の症もある。
血圧は高く,降圧薬を常服している。
これまでに脳立清・清眩丸等の中薬湯剤を服用してきた。
用いた薬物系は:石決明・珍珠母・竜骨・牡蛎・菊花・白芍・生地・玄参・亀板・夏枯草・牛膝・代赭石・鈎藤・竜胆草 等である。
しかし効果はなく,体力は次第に弱まってきた。

病史と症情を聞いてみると,患者は三、四年前から月経が乱れ始め,時には無い月もある,有る時は漏下して止まず,長く持続し,次第に頭暈と眼花(目のかすみ)が出現する,身体は疲れて力が無くなり,ひどい時には両膝が酸軟となり,歩くと両脚はおぼつかなく,頭は重く脚には力が入らない感じで,心悸・失眠・健忘・気短 等の症がある。
その后 月経は次第に少なくなり,ついには断絶してしまった。
医院での検査は,血圧が高く,ある期間 降圧薬を服用して,症状はすぐに好転したが,停薬すると直ぐにまた再発した。
曽つて中薬を服薬したが効果は現れず,かえって食欲減退と,大便稀溏(下痢)が出現した。
細かく病情を問えば,発病の初期には心中が時々熱くなり,頭面部も時々のぼせてカッカした,手足の中心も時々熱くなったが,その后は次第に減少した,続いて全身は疲乏無力となり,時々寒くなり,手足は気候の寒い日は常に冷えている,下腹は常に冷たく,小便は清長で,回数が多い,それも夜間尿が頻数である。
絶経期の前には毎夜小便は1回あるか無いかだったのに,現在では毎夜3~5回以上もあり,且つ尿意が緊迫して我慢できなくなる。
口は渇かないが,かりに飲むとすれば水ではなく,熱湯を飲む,如し冷水を飲むと胃の具合が悪くなり,全身が冷える。
患者の面色は蒼白で,口唇は淡潤,眼胞には虚浮があり,舌は淡紅で体は肥胖している,苔は白くて滑潤,脈は沈弱。
発病の年齢や,病后の変化から,其の症情を分析すれば,此の証は肝腎不足に属し,陰(血)陽(気)両虚の侯である。
治には補肝益腎,双培陰陽の法を以ってする。

二仙湯加減
 (仙茅・淫羊藿・巴戟天2 寄生・川続断・白芍・生山薬4 益智仁・狗脊・当帰・白菊花・生地・陳皮3)40

3剤の后,頭目眩暈は軽減し,腿脚にも少し力がついた。
又3剤の后,大いに好転を見た。
ここで患者は別の老中医にかかり、違った処方をしてもらった,すると2剤を服した后,症状が重くなって,又余に治を求めて来た。
其の処方を視ると,なんと鎮肝息風湯加減であった。
余はまた前に戻って二仙湯加減方を用いることにした。
9剤の后,頭暈目眩は明らかに好転し,腰膝の酸軟や,脚下の飄浮感が減った。
尤も明らかに好転したのは,小腹・四肢が発凉しなくなり,全身の畏寒も消え,且つ温暖感さえ出てきた事である。
小便の次数も減少し,毎夜1~2回になり,緊迫不禁の感じも無くなった。
あとは人参養栄丸・金匱腎気丸等を用いて療効を鞏固にした。

医生甲 「高血圧の頭暈目眩には,—般に平肝潜陽法を多用するのに,老師は何ぜ補腎壮陽法を用いたのですか?」
老師 「高血圧病は西医が名付けた全身性の慢性血管疾病です。中医は眩暈・頭痛等から辨証論治を進めます。
《内経》云く, “諸風掉眩は,皆肝に属す”と。
是れにより此の証治は肝を離れることはない。
此の証の多くは肝陽上亢か或いは肝火偏旺である。
陽亢或いは火旺の原因は大変多く,恚怒が解けなければ肝陽暴張となるし,また憂鬱已まざれば気鬱化火となり,或いは肝血不足すれば肝陽失濡となり,或いは腎陰虧損に因りては肝木失涵となる。
故に張山雷は《中風斠詮》の中では努めて此の証に対して滋陰潜鎮の法を重用し,金石介類薬を用い,重墜潜降して,肝陽を平らかにしようとする。
張錫純は此の基礎の上に立って,さらに一歩を進め,滋陰養血・重鎮潜陽と粛肺・降胃・疏肝の法を結合して応用した。
そこで制作したのが鎮肝息風湯である,地黄・萸肉・白芍等を重用して陰血の虚を滋し涵木となし;竜骨・牡蛎・亀板等の重鎮で以って潜陽をし;玄参・麦冬で肺気を清粛する,肺気が粛降下行すれば,自ずから能く肝木を鎮制する;赭石は胃気を降して冲気を安んずる。
以上の諸薬は能く諸臓腑の逆上の気を降す,さらに牛膝を加えて気血を引いて下行させ,以って亢陽して平降するに利す。
但し肝は将軍の官で,其の性は条達を喜び抑鬱を悪む。
其の気は剛暴にして,尤も強制平降を悪む,故に茵陳・生麦芽等の升発の品を加え以って肝気を疏達する,更には川棟子を加えて肝気を引いて下行させ,上逆せしめない。
故に此の方は誠に陰虚陽亢を治す良方であり,現代でも臨床に広く応用されている。
但し臨床実践からみると,高血圧で陰虚陽亢に属する者は多いが,其の他の証に属する者も決して少なくはない。

しかし本患では既に陰虚火旺の五心煩熱や,面紅して醉う如き事が無く;また冲・胃気上逆による気が少腹より上冲することが無く;また便秘・嗳気が無く;更には肝陽上亢・気血逆上の頭中脹痛発熱や,目脹耳鳴や,脈の弦長有力も無い。
却って疲乏力・心悸失眠・気短健忘等の気血両虚証がある;又腰膝酸軟・脚下無根等の肝腎不足や,筋骨軟弱の象がある。
更には面白・畏寒・肢冷・小腹発凉・夜尿頻数難禁等の陽気の虚衰・腎関失固の兆候が現われている。
ましてや滋陰潜鎮等の寒凉薬を服用した后では,食欲減退や,大便溏稀等の症を出現していることより,薬が証対していなかった事を説明しており,其の人の中陽が不振になったのである。
上述の一系列の症状を看れば,其の証は陰血不足のみにあらず,更には陽気衰弱を兼ね,腎陽虚衰の象たるや尤も明らかである。
中医の治病は,薬は証より発す,是の証あれば是の薬を用いると。
故に我が們では其の症情により補陰血・助腎陽の法を採用し,満足な療効を収めている。」

医生乙 「どうか老師、ちょっと此の証の病機と治療について教えてください。」
老師 「本患者の病はおよそ三、四年前に起る。
開始時には月経は紊乱し,経漏して上らず且つ長く持続した。
この后になって漸く頭暈目眩,身疲乏力,腰膝酸軟、脚下無根等の感覚が出現し,并せて心悸・失眠・気短・健忘等の症も出た。
上述の症状を除外すれば,開始時には心中煩熱や,頭面部の升火等の症があった。
その后になって漸く畏寒・手足発凉・小腹発冷・夜尿増多の現象が出現した。
上述の疾病発生発展の全過程を看れば,其の病は先ず傷陰血が始まりで,初起時には陰(血)傷有熱の証が現われたが,后には次第に陽虚則ち寒的局面を現わしてきた,是れは陰損及陽,陰(血)陽(気)両虚の証である。
《内経》に説く,“年四十なれば陰気は自半となり,起居衰える”。
一般に云われているが,人は40歳前后にもなれば,人体の陰血と陽気はみな虚衰し始め,生機は次第に減退する。
特に女人では,七七(49歳)前后になると,多くは腎気は虚衰し,冲任虧損となり,天癸が竭きれば,地道は通ぜず,月経が断絶する。
本患者の初病の時は正に七七の際に属し,加えて長期に亘って経漏は止らず,陰血は損耗している。
陰虚すれば則ち熱する,故に初起には五心煩熱・頭面升火の症があった。
此の種の熱象は虚熱である,乃ち陰血が虚損して不足すると,陽気は相対して亢盛したためである。
陰血の耗傷が過多になると,則ち陽気は必然的に虚乏する。
陽は陰を宅とし,陰は陽を根とし,陰陽は互いに生養する事を前提としている。
陰虚が甚しくなると,必ずや陽気を生ずる源が無くなり,継いで陽気の虚の情況が出現する,是れは陰損及陽であり,陰陽両虚の証である。
頭暈目眩が出現する訳は,一つには血虚気弱のために,上へ升って頭を濡養できないからである;二つには腎陰腎陽の虧損で,精髄が充足しないからである。
盖し腎は骨を主り髄を生ずる,脳は髄海なり。
髄海が有余なれば則ち軽勁多力にして,自ら制御できる;髄海が不足すれば則ち脳転耳鳴し,脛酸眩冒となり,目は見る所無し”。(《霊枢·海論篇》)
故に此の証の治療時の,既要は“壮水を主にして,以って精血を生ず”,又は“益火を原として,以って陽気を生ず”。《医学会心録》
陰陽を并せ補えば,既に陰中に陽を生じ,又陽中に陰を生ずる。
処方中に用いる当帰・白芍・生地・山薬で陰血の虚を滋養し;仙茅・仙霊脾・巴戟天で陽気の弱さを扶助し;寄生・川断・狗脊で肝腎を補い,筋骨を強め以って生髄益脳をし;益智仁は山薬と合さって,脾腎の陽を益し陰液を収摂する功があり,脾腎陽虚で陰液不摂の証に対して最も宜しい。
此の方を綜観すれば補陰しても傷陽せず,助陽しても灼陰せず,陰陽を并補して,持ちつ持たれつである。
二仙湯の原方には知母・黄柏がある,此の証には已に内熱の象が無い,故に之を去るのは,其の苦寒の性が,陽気に碍るのを恐れるからである。

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