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四逆散は少陰方である

四逆散について、今日の日本漢方では「構成からみると柴胡剤に分類され少陽病期に適応します。
小柴胡湯証と大柴胡湯証の中間ぐらいに位置し、体力的には充実している人に用います。」のように認識されています。
和田東郭の『蕉窓方意解』にも「大柴胡湯の変方にて、‥‥‥熱実すること少なきゆえ、大黄、黄芩を用いず」とあり、根拠のひとつになっています。

  (ただし森立之の『傷寒論攷注』では四逆散を少陰経証と認識しているそうです)

しかし四逆散は柴胡剤といっても《傷寒論 》318条の少陰病に記載されている処方であり、決して少陽病の処方ではありません。

古来から“四逆(四肢の厥逆・厥冷)”の称については色々といわれてきました。
そして苦し紛れに出されたのが“厥冷”に対する“熱厥”という概念です。
即ち「体の内部に熱結があるために、それより末梢の手足が冷えている」という曖昧な考えです。

※ 中医学でいう熱厥は《衛生宝鑑·厥逆》によれば「熱邪亢盛による手足厥冷」のことで、白虎湯・大承気湯・双解散(防風通聖散)・凉膈散などを対象としており、四逆散は含まれません。

四逆散が少陰病に出てくる訳について次の根拠がありましたので報告します。

まず《霊枢·本蔵》には「腎が三焦・膀胱と合する」事について述べられています。
「腎合三焦膀胱,三焦膀胱者,腠理毫毛其応」
そして三焦・膀胱は腠理とつながっているとなっています。
《金匱·蔵府経絡先后病脈証第一》には「とは三焦を通して元真と会う処で、血気の注ぐ所です。
またとは皮膚の紋理を蔵府としている意味です。」とあります。
これより腎が水を主る功能は膀胱及び三焦を通じて腠理毫毛へとつながる事が分かります。

そこで《傷寒論 》318条を見てみますと、
「少陰病,四逆,其人或咳,或悸,或小便不利,或腹中痛,或泄利下重者,四逆散主之」

この条文の「或いは」の証は太陽病96条の小柴胡湯の条文と似ています。

傷寒五六日,中風,往来寒熱,胸脇苦満,嘿嘿不欲飲食,心煩喜嘔,或胸中煩而不嘔,或渇,或腹中痛,或脇下痞鞕,或心下悸、小便不利,或不渇、身有微熱,或咳者,小柴胡湯主之。

それ故に従来から四逆散は少陽病の処方であると云われてきました。
しかし咳・悸・小便不利・腹中痛・泄利下重 のどこに熱厥の熱があるというのでしょうか?
どれもみな少陰病のものばかりで、少陽病などは見て取れません。

四逆とは少陰の通路障碍のため原気が陰から陽へと出ることが出来ない事である。
少阴の気が三焦へと暢達出来なければ三焦は働かず、水停が起こる。
上焦では咳や悸となり、中焦では腹中痛や泄利下重となり、下焦では小便不利となる。

まして「方後に加減方として、咳には加五味子、乾姜、下痢し動悸するものには桂枝、小便不利の者には加茯苓、腹中痛む者には加附子」と記されています。
やはり熱厥ではなく、単なる厥冷に違いありません。
病機は裏の少陰にあり、柴胡は前面を走り少陰の気を三焦へと通行させ,枳実は三陰積滞の気を行らせ,芍薬は三陰鬱結の血を行らせる。
かくして少陰の枢機が転起すれば腎水は三焦の働きを得て宣通することが出来る。

《範中林六経辨証医案》
肖××,女,36歳。四川広漢県某小学教員。
【病史】小便不暢なること已に十余年,重い時には尿黄となりて窘迫し,思うようには出ない。
尿道は灼痛し,淋漓して尽きず。
多方の検査や治療をしたけれど,療効は顕れず。

1960年8月来診。
【診治】毎昼夜 小便すること数十次,量は極めて少なく,時には僅か数滴にして,渋痛し,腰及び小腹も亦疼痛を覚える。
下陰は糜爛し,白帯多し;四肢は温まらず;舌尖辺は紅く,苔は白滑である。
此れは少陰の陽鬱,気機不利を示す。
治法は気機を宣通し,化陰通腑するに宜し。

四逆散加味が之を主る。
処方
(柴胡・白芍・枳実24 甘草9 桔梗・茯苓30) 四剤

別に自制の九成丹を下陰患部に塗る。
服した后,小便は通利し,諸証は悉く解した。
下陰の糜爛も已に好転している。

‥‥‥
※ とはいえ、このような四逆散の少陰方説は中医学でも異説のものです。
大抵の中医学書では四逆散は少陽方説を支持しています。
それは《傷寒論 》を病気の流れから読む場合と、処方を構成生薬から見た場合の違いから起こる事です。

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