帯状疱疹合併症
私の父が生前、顔面の帯状疱疹を患ったことがあります。
その惨状はひどいものでした。
漢方を信じていなかったため医治にのみ頼ったので、私が助言した頃には既に後遺神経痛になっていました。
遅蒔きながら幾つか処方を使いましたが後遺症は難治でした。
後悔の思いで以下の症例を読みました。
李某某,女,70歳, 武漢藉。
初診(2006.01.10):左側頭面に疱疹が出来て疼痛あり、すでに10日になる。
また続いて面瘫(顔面麻痺)も併発して2日になる。
10日前に疲れからか左側頭面部に小紅疹が現れ、継いで水疱が出現した。
灼熱刺痛を覚えて他院に診治したが効果は佳くなかった。
2日前から口眼喎斜が出現し、心煩易怒,目脹耳鳴,失眠多夢を伴い、食欲不振で大便が干結し小便が黄色い。
既往として高血圧の病史がある。
神志清楚で言語にはやや清晰流暢を欠き、語声がやや重濁している;
面目は紅赤で口眼が右側へ歪向し、左眼は閉合不能で、口角から流涎している。
左側額部、顳(こめかみ)部、耳部に軽度の紅腫があり、群集した疱疹が上布している。
耳后の淋巴結は腫大し、舌質紅く、苔黄、脈弦緊である。
中医診断は蛇串瘡に中風を合并しているものである;
西医診断は帯状疱疹に面瘫を合并し、耳痛及び外耳道疱疹の三聯綜合症(Ramsey-Hunt綜合症)である。
陰虚陽亢,肝胆風火循経上擾,阻滞経絡,気血不通の証に属する。
清泄肝胆風火,佐以活血通絡,平肝熄風を治法とする。
処方:
(1)清肝飲(程淳夫の経験方)加減
(青蒿・柴胡・黄芩・夏枯草・丹皮・川楝子・刺蒺藜・玄胡・鬱金・白僵蚕・橘葉3 大青葉・板藍根5 珍珠母10 天麻2)55
(2)隔日に1回、梅花針で皮損周囲及び阿是穴を叩刺する。
労累を避けて休息し、清淡なものを飲食し、辛辣動風の品を避けるよう注意した。
復診:疱疹は干涸結痂し疼痛は減軽し、面目の紅赤も減退し、口眼喎斜も稍改善があった。
上方から丹皮,大青葉、板藍根、夏枯草等の清熱解毒凉血の品を去り、鶏血藤、伸筋草、地竜を加えて活血通絡の功を増強した。
三診:患処の皮損は已に愈え、僅かに沈斑の色を留めている。
疼痛は基本的に消失し、口眼喎斜もコントロールされて来た。
舌は淡紅,苔は薄黄,脈は弦緩となった。
此れは肝胆の風火が平息したからである。
故に上方から清肝飲を去り、当帰5、赤白芍各5、生熟地各7gを加え養血柔肝,滋陰活血する。
1月后には完全に康復していた。
【体会】
患者は年老にして体弱く、高血圧を患っているのは素本が肝陽偏亢なところへ復た労累に因って陰血を内耗し陰虚陽亢となり、肝胆の風火が循経して頭面へと上擾したため面目紅赤となり、眼脹耳鳴や皮疹惞紅が現れたのである;
肝陽亢盛となれば心煩易怒や便干尿黄となる;
肝木が脾土に乗じれば食欲不振になる;
脾が健運を失し、水湿が肌膚へと外溢する故に疱疹が出現する;
肝胆の風火が経絡に阻滞し気血が不通になれば、軽ければ疼痛となり、重ければ口眼喎斜となる;
舌紅く苔黄、脈が弦なのは肝旺だからで、脈が緊なのは痛みがあるからである。
舌脈証を綜観すれば此れは肝胆の風火が旺盛のあまり循経して頭面へと上擾し、肌膚の経絡が阻滞し、気血の運行が不暢となったからである。
治には肝胆の風火を清泄するのを主とし、活血通絡を佐とし、以て平肝熄風をする。
初めに清肝飲(青蒿、柴胡、黄芩、夏枯草、丹皮、橘葉、川楝子)で肝胆の風火を清泄し;
玄胡、鬱金を加えて活血化瘀止痛をする;
大青葉、板藍根は清熱凉血解毒であり;
白僵蚕、天麻、珍珠母は平肝熄風である。
補助として梅花針で局部を叩刺させれば活血通絡となり、宛陳莝(鬱結した水液廃物)を去る意となる。
火毒の邪が漸退するのを待ち、丹皮、板藍根、大青葉、夏枯草等の清熱解毒凉血の品を去る。
苦寒太過が経絡を凝滞させ、気血の運行が不利となるのを防ぐために、鶏血藤、伸筋草、地竜を加えて活血通絡の功を増強する。
三診時は肝胆の風火が平熄したので清肝飲を去り、当帰、赤白芍、生熟地を加えて養血柔肝・滋陰活血して善后とする。
(当帰・赤白芍・生熟地・刺蒺藜・延胡索・鬱金・白僵蚕3 大青葉・板藍根5 珍珠母10 天麻2)55
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