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グチ解禁

昭和30年代の事です、街中に小さな薬房がありました。
ちょっとした軽い病いから難病に至るまで色々な病気の人々が密かに尋ねてきました。
店主は漢方一筋の頑固な老人でした。
それぞれの人にかなり高価な漢方薬を処方して渡していました。
保健所へ告発すれば咎められるもぐりの販売行為です。
当時ようやく漢方に興味を持ち始めた私は独学で本を漁っていました。
少しでも知識が欲しくて、ある日その店を訪れました。
店内には神農様の神棚があり、その前には数本のお酒が包装のまま供えられていました。
おそらくそれは病気が良くなった患者さんからのお礼なのでしょう。
私は漢方談義をするつもりで入ったのですが「息子にさえ教えてないのに赤の他人にどうして教えられるか」とにべも無く断られました。
当然です、長年苦労して身に付けたノウハウですから無理もありません。
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卜庵先生こと荒木性次氏が弟子を従えて全国行脚で薬草を採集して歩いたのもその頃です。
氏のように純粋に漢方が好きで好きでならない粋人があちこちに居たのです。
当地にも匿名の奇特人がいて、こっそりと相談者に漢方処方を書いた“こより”を安いお金で渡していたそうです。
需要があればこそ彼等の出番があったわけです。
“こより”を貰った人は近くの薬店へ持ち込むと、店の主人は処方通りの薬を揃えて分包してくれます。
これは調剤ではなく、個別品の混合販売です。
又そういう機会に恵まれない人は「おみくじ漢方」に頼っていました。
特殊なお寺ですが、民間薬的な処方の組み合わせのパターンを書いたおみくじを出していたものです。
お賽銭と引き換えに、それをお寺から貰って薬店へ持ち込むのです。
病院から見放された人には神仏や迷信しか頼るものが無かったのでしょう。
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現在の薬事法では、漢方薬は医師による処方箋に基づいて薬局で調剤されるものというのが建前です。
しかし医師による処方箋の殆どは既成の漢方エキス剤です。
薬草を処方する医師も僅かばかり居られますが、患者さんにとっては狭き門ですし、その医師もピンからキリまであります。
漢方相談薬局へ行けば漢方エキス剤や薬局製剤漢方212方だけしかなく、212方は漢方エキス剤と殆どが重複しています。
これではとうてい多くの病気に対処できない事は明らかです。
そこで医師の処方箋を用いないで自分で調べて処方を決め、個々に薬局・薬房で買い揃えるという最後の手段になります。
しかし相談をかける薬剤師も又ピンからキリまでで、なかなか信頼できる人には会い当たらないものです。
ネットで調べると色々と無数の回答が出てきて、どれが真実なのか素人にはなかなか判断できません。
私の立場も、お客さんから処方の相談を受けて原料を揃えて販売するという立場です。
ですが、私としては長年研鑽を積んだつもりでも、健康保険を使う医師には敵いません。
健康保険で薬を貰う習慣がある大衆を相手に、実費で対抗するには余程の特効を示さなければ買ってくれません。
はやらない漢方相談薬局の親父が年甲斐もなくインターネットに活路を求めているのはそういういう訳です。
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それにしても嘆かわしいのは我が富山県の実情です。
世間では富山といえば薬都としての名声があります。
しかしそれは売薬というシステムだけで、漢方とは関係がありません。
全国でも最初に富山大学に付属研究所・和漢医薬学総合研究所が設立されたという事は余りにも有名です。
それが国立であることを県民は誇りに思っています。
また富山大学附属病院には和漢診療科というものがあり、設立当初は珍しいので全国からの受診申し込みが殺到し、何ヶ月も前から予約しないと診て貰えませんでした。
しかし医薬分業で処方箋が100%院外へ出た現在、それを受け付けている我々調剤薬局からは内情のお粗末さが見えてきます。
同じ処方を何ヶ月間も、ひどい時には何年間も続けて出されたり、病状と処方が合っていなかったりします。
病院の医師達は忙しさにかまけて勉強をしていないのではないかと疑いも出ます。
これだけ情報化の時代なのに、古い漢方処方ばかりで進歩の様子が見られません。
また和漢診療から派遣された弟子達があちこちの病院で拠点を作っていますが、彼等にも古い革を破る進歩が見られません。
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同じ事は薬店・薬局にも云えます。
以前は数えられないほど薬草を扱う店がありましたが、今は5指にも及ばない。
店舗別の売上高を見れば、その激減に問屋も潰れそうです。
薬草を扱っていた薬局の多くは延命のために調剤薬局に変わりました。
市民は漢方薬どころか民間薬でさえどこで買えるのか知らなくなりました。
問屋のセールスが「氷見だけです、頼れるのは。」とお世辞を云ってくれますが、。

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