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奔豚とパニック障害

昇陥湯、補中益気湯を使うときの注意」に挙げた例は、胸に痰淤が貯留し胸悶痛を起こしている患者に瓜呂・枳実などの瀉剤を投与し、大気下陥を引き起こさせ呼吸困難・危篤状態にさせるという誤診をしたものを救うために、「昇陥湯と丹参飲」を合方して呼吸衰弱から回復させた。
だが昇陥が行過ぎて“提脱”を起こさせてしまった。
“提脱”とは「臍の下が動き、時々気が心臓に上がってきて、心悸を催す」いわゆる“奔豚”を起こしたのである。
これは腎気という根が無いのに昇提させ過ぎたから「腎気浮動、衝脈不安」となったのである。
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さて、ここでハタと気がついた。
パニック障害という病気と“奔豚”との類似である。
以前相談を受けたことのあるパニック症の患者さんの呈した「心悸・不安」の症状は“提脱”の結果とよく似ている。
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使う処方は温氏奔豚湯で、これは『金匱要略』のそれとは同名異質なものである。
(附子、肉桂、沈香、砂仁、山薬、茯苓、沢瀉、牛膝、人参、炙甘草)
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以下に『名中医李可Dr.の急病重病難病臨床事例と理論』から引用する。
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本方剤は干姜を去った人参四逆湯と、白朮を去った桂附理中湯と、熟地黄、丹皮、山茱萸肉を去った桂附八味丸との合方に沈香、砂仁、牛膝を加味してできたものであり、純陽益火、危篤症状救済の療法である。
温熱霊動、上下を貫き、12経絡の表裏内外に繋がっている。
先天的命門真火を温養し、衰亡から元陽を救い、厥脱する元気を固める効能がある。
補火生土、化湿醒脾、補土制水を通して、水腫を解消する。
納気平喘、衝脈滋養、引火帰原、奔豚制伏の効果がある。
五臓における寒積を解消し、六腑に固まった冷えを追放し、骨脈における寒痹を除き、沈寒痼冷を破り、散寒行気を通して痛みを止める。
性が辛熱、乾燥な薬に性が潤な山薬を多く入れて、健脾、和胃と益肺を図ると同時に、補腎強精益陰の薬をも入れて滋陰配陽を行うことによって火の元を強化して陰翳を解消する。
原方に剤量を明記しなかったが私は臨床経験を踏まえて、その剤量を以下のように定めた。
君薬の附子は軽症の場合は10g投与して温養を行う。
重病にして陽が衰えた場合は15~30g、急病、危篤症状の場合は100~200g、破陰救陽を図る。
山薬を30g、紅参を10g(平剤)(暴脱を救急する場合は30g)、山茱萸肉を90~210g加味する。
灸甘草の平剤は附子の二倍であり、附子を破格の剤量で投与した場合は60gにする。
肉桂の平剤を10g、火不帰原の場合は剤量を小さくする(3g投与する。皮を取って、粉にして粟と一緒に蒸して丸薬にして先に飲む)。
沈香、砂仁を3~5g(量が小さめ)使う。
その他の薬は症状に即して剤量を決める。
煎服法は以下の通りである。
小剤の場合は冷水を1500ml入れて、とろ火で600ml煎じ取り、三回に分けて飲む。
大剤の場合は冷水を2500ml入れて、とろ火で750ml煎じ取り、昼間に三回、夜一回服用する。
上に仮熱があるので薬を冷ましてから飲むことで上焦に渡る。
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原方は肝脾腎の三陰寒症、奔豚気、寒霍乱、脘腹絞痛、気上衝逆、吐瀉、四肢厥逆、痛厥、寒疝、水腫、腹脹などの病気を主治する。
本方剤を使うポイントは奔豚の意に基づく厥気上攻を主症とする。
奔豚とは発作的疾病であり、衝脈の病変に属する。
衝脈は血海であり、その脈が小腹より起こり、腹に沿って上へ行き、咽に集まる。
肝腎と陽明に隷属する。
腎陽が衰えて、肝寒凝滞、寒飲内停の場合は衝脈はあるべきところに安住できず飲邪を挟んで上逆して奔走して本証となる。
発作の際に患者は冷気が少腹から胸、咽ヘアタックし、喘息して息苦しく、死ぬほどつらい。
しかも、発作が起こったり止まったりする。
発作したときは死ぬぼどつらいが、発作が止まったら、衝撃が収まり、通常通りになるというのは『金匱』記された様子とそつくりである。
方剤における肉桂、沈香は肝心に直入して、沈寒痼冷を破り、温中降逆を行う効果があり、奔豚を治療する要薬なので、投与すると治る。
私は本方剤を34年間にわたって使ってきた。
臨床に際して、加減変通をすることで応用範囲を広めた。
沈寒冷などの持病や怪異病には即効性がある。
特に重病や危篤症状には起死回生の効果がある。

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