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喉源性咳嗽

以前「かかりがけの風邪に六味湯加味」という記事を書きました。
そこで干祖望教授(南京中医学院)の唱える喉源性咳嗽について紹介しました。
喉源性咳嗽の主な特点は「喉頭奇痒、咳嗽、咽部には痰が貼り附いた感じかあり咽干する事である。一般の咳嗽なら咳の后は喉がすっきりし舒暢感があるのだが、この喉源性咳嗽は咳をすればするほど痒さは止まらなくなる点で異なる。」と書きましたが、実際には私自身がしっかりと認識していませんでした。
今回はそれを再認識したので、この重大な知識を更に改めて紹介します。
喉痒咳嗽2个月(四川省楽山市人民医院中医研究室 余国俊)
女患,35歳,1991年11月23日初診。
慢性咽炎の宿患があり,久治するも治癒せず、平時は咽喉が干渋し,微咳がある。
2个月前に重い感冒にかかり劇烈な咳嗽を発し,7日間入院して中西薬の配合にて治療した。
すると全身症状は基本的に消失したが咳嗽だけは軽減しなかった。
そこで退院後に中薬を服用した。
先ず金沸草散を数剤服したが,咳嗽は反って加重した。
継いで止嗽散、清燥救肺湯、沙参麦冬湯等を10余剤ずつ服したが,やはり効かなかった。
現症:咽喉干渋,何時でも発痒し,痒くなると咳こみ,咳をすればするほど烈しくなり,気促面紅,涕泣(鼻水と涙)が倶に出て,連咳は止まなくなる。
痰は少ないか極めて咯出し難い。
昼重く夜軽い。
いったん入睡すれば咳で目醒めることは少いが,次の朝起床后には又劇しく咳こんで止まらない。
食欲はあり,舌質は淡で潤いが無い,脈象には異常が無い。
つくづくと考慮するに風燥が津液を傷つけ,咽喉が濡養を失した“喉源性咳嗽”である。
病歴は2个月で,脈には浮象が無いと雖も,病因である虚浮之邪はなお残っている。
治療方法は[示去]風潤燥が宜しい。
試みに喉科の六味湯加味を投ずる:
荊芥、防風、桔梗、生甘草、薄荷葉、白僵蚕、白馬勃、射干、蝉衣各6g,木蝴蝶15g,鮮梨皮50g,3剤。
二診:喉痒[ロ倉]咳は稍減り,咯痰も前よりは爽利となったが,咽喉は干く。
薬液を飲んだ時は暫らく濡れているが,しばらくすると又干渋となる。
そこで養陰清肺湯をこれに合方して,[示去]風潤燥,養陰生津を図る:
(荊芥、桔梗、生甘草、白僵蚕、蝉衣、丹皮、川貝粉(呑服)2 生地、天冬、麦冬、白芍、木蝴蝶5 柿餅10 鮮梨皮16)
服すること3剤にして,咽喉干燥、発痒、[ロ倉]咳は均しく減少した。
10剤まで服すると基本的に消失したが,まだ朝起きの干咳が幾声か残り,少し許りの粘痰が咳出する。
改めて六和湯合参苓白朮散加減を以って善后とする。
【研修生甲の質問】本例の喉痒[ロ倉]咳は,風燥傷津液の証です。
故に薬性が温燥に偏った金沸草散を数剤用いた后に咳嗽が加重したのは容易に理解できます。
ただ止嗽散、清燥救肺湯、沙参麦冬湯等の10余剤に改用しても効かなかったのは好く理解できません。
止嗽散は温潤平和で,寒熱に偏らないし,疏風[示去]痰,宣肺止咳,頗る新久の咳嗽に適しているのに,療効が無かった。
また清燥救肺湯は宣肺降逆,清燥潤肺であるし;沙参麦冬湯は甘寒生津,清養肺胃の効果がある。
此の方薬は風燥傷津液の病機には完全には適合しないが,そう間違いでもないのではないですか。
【老師の答え】本例の喉痒[ロ倉]咳は,其の病名を“喉源性咳嗽”といいます。
名前から考えると,其の咳嗽の根源と主要病位は咽喉部に在り,肺ではない。
其の主要症侯は:咽喉干燥、発痒,痒いので咳をし,咳すればするほど[ロ倉]が持続する。
これは病位が肺や其の他の臓腑に在る一般性咳嗽とは特徴性症侯が異なる。
知っての通り,咳嗽とは人体の一種の自我保護反応であり,咳嗽を通して呼吸道にある異物や病理産物を排除するので,暫時は呼吸道の通暢を恢復する。
だから咳嗽の后では,患者の多くは一種の軽松舒適な感覚がするものだ。
但だ喉源性咳嗽はそうではなく,咳すればするほど悪くなる。
咳すれば咽喉が干渋発痒するという悪循環である。
私も以前には此れ等の咳嗽の治療に,ただ治肺をのみ固持して止嗽散、清燥救肺湯、沙参麦冬湯等を用いて無効だったのみか,病人からは逆恨みされたものです。
当代の喉科名医である干祖望老先生は60年の経験から曰く,本病を一般の咳嗽と混同しているから満足な効果が得られないのだ。
何故なら治すべき所は無辜の肺ではなく喉の病巣である”。
【研修生乙の質問】咽喉は肺系に属するゆえ,肺を治すことは即ち間接には咽喉を治すことになりませんか?
【老師の答え】確かに“咽喉は肺系に属する”に違いありません。
咽は地気を主り,脾胃に属す(食道に通ずる);喉は天気を主り,肺に属す(気管に通ずる)。
肺を治せば間接的には喉を治す事にもなるが,喉にとっては宣発するのは宜しいが,肺気を粛降する必要はない。
知っての通り,一般の咳嗽とは肺が宣粛の機能を失って,肺気が上逆するのであるから,宣発したり粛降したりする肺気の方薬である金沸草散、杳蘇散、止嗽散等を選用する。
しかしこれらの方薬中の粛肺降気、化痰止咳の品,たとえば旋復花、半夏、杏仁、紫[艸/宛]、百部、款冬花等は,喉源性咳嗽に用いるのは不適当である。
何故不適かといえば喉源性咳嗽の主要病機は風燥傷津液,咽喉失濡養であり,肺気不降という病機ではないからである。
干祖望老先生の所説は,“凡そ一切の慢性咽炎の主症は咽部の干燥である。其の干燥は,液が咽を養わず,津が喉を濡らさないからである。干は燥を生じ,燥は風を生じ,風は痒を生じ,痒が本病を醸成するのが,其の一である。‘諸痛瘡痒は,倶に心火に属す’。干は燥を生じ,燥は火を生じ,火は痒を生ずる,これがもう一つの理由である。これによって慢性咽炎が喉源性咳嗽を起こすといえる”。
此れより喉源性咳嗽と肺には一定の関系があるが,一般の咳嗽とは病位も病機も違う。
【研修生丙の質問】喉源性咳嗽を治療する代表方剤は何ですか?
【老師の答え】養陰清肺湯です。此の方剤は喉科専著(重楼玉鑰)に載っており,元は陰虚白喉(ジフテリヤ)を治療する方剤です。
此の方は養津生津の力が頗る大きいので,喉源性咳嗽の治療に借用するのです。
方中の増液湯(生地、麦冬、玄参)は,潤肺および滋腎し,金水を相生せしめて,泉源を竭れさせぬ;
又芍薬甘草湯(白芍、甘草)は,脾陰を滋養し,脾気の精を散じて,肺へと上帰させ,咽へと注ぎ,又能く緩急解痙して,[ロ倉]咳を減軽する。
此の外に,方中の丹皮は凉営を,貝母は化痰を,薄荷は散結をする。
前に揚げられた清燥救肺湯、沙参麦冬湯も亦養陰生津之方ですから,有効でなければなりませんが、よく加減しなければ療効は養陰清肺湯ほどにはなりません。
本病の喉痒[ロ倉]咳の多くは外感誘発に因り重くなり,慢性化するが,亦往往にして浮邪を兼ね夾む,所以に本方を使用する時は,多くは六味湯(荊芥、防風、桔梗、甘草、白僵蚕、薄荷)を合用するか,或いは六味湯加味を先用して,浮邪が掃蕩された后に,再び養陰清肺湯を用いると良い。
【研修生甲の質問】六味湯は風寒喉痺を治療する処方ですから,風燥で傷津液して、咽喉失濡養之証に用いて効があるとは理解できません。
【老師の答え】若し是れが真に風寒喉痺なら,六味湯に辛温薬を加えればすぐにが散寒開痺してくれます。
本方は《喉科秘旨》に載っており,喉証の初起を治し,咽の紅白どちらにでも,加減応用ができます。
方中の6味薬については:荊芥は辛微温。[示去]風解表;
防風は辛甘微温,[示去]風解痙;
桔梗は苦平,[示去]痰利咽;
生甘草は甘平,清火解毒;
白僵蚕は咸辛平,[示去]風散結;
薄荷は辛凉,疏風散熱。
綜合すれば,全方薬の性は和(おだやか)で,寒熱に偏らず,能く疏風[示去]痰し,散結利咽に働く。
故に風寒、風熱、風燥,どれにも皆加減して応用できます。
如し風寒なら蘇葉、細辛を加え,風熱なら翹荷湯を合せ,風燥なら養陰清肺湯を合せる等します。
喉痒咳嗽2个月 より

※「肝火犯肺の咳嗽」で書いた'家族の風邪'はどうも「肝火ではなく喉源性咳嗽」に訂正しなければならないようだ。

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