« 柴胡加竜骨牡蛎湯へのグチ | Main | 徐脈 »

誤診から学ぶ(1)感冒

病者某某,男,成人,漁民。
患者は生来 身体壮健だったが,ある年の夏の一日,昼飯を食べ終わってすぐに,まだ体の汗が引っ込まない内に魚を捕りに水中へ入った。
家へ帰っても,汗の出はますます多くなった。
此のとき以后は夏冬を問わず,また昼夜を分たずいつも自汗が出るようになった。
曽って多くの方の診治を経て,衛陽不固と辨証されて玉屏風散加竜骨、牡蛎、麻黄根等の止汗薬物を用い,その后 桂枝湯加黄耆も用いて,みな服薬時には効果があったが,しばらくすると又再発した。
某医院では是れを肺結核と疑ったが,X線の透視では心肺はみな正常だった。
それから1年以上になるが,患者の体質はますます悪くなり,已に労動に参加できなくなり, 皮膚は汗水に漬って灰白色を呈し,出汗の甚しい時には汗腺が開いているのが分かるほどである。
汗の出が多くても,口は渇かず,尿量は少い。
出汗の多くは昼から午後にかけてで,午前と夜間は少なく,朝方は一時的に止る。
脈は浮弱,重按すれば無力である。
本証は正に汗が出ていて,[月奏]理が疏松なのに,いきなり水に入ったので,水湿が虚に乗じて営衛の間に侵入し,衛気開合の機能を失わせたのである。
病んでから已に1年以上になるが,まだ臓腑ともに未だ損傷しておらず,脈象はなお浮緩であるから,まさに微発汗して以って営衛を調和させるべきである。
処方:桂枝9,白芍9,炙甘草3,大棗7枚,生姜9g。
朝方目覚めた時に服薬し,30分ほどしてから熱い粥を1碗食べて,薬力を助け,数時間静臥し,風を避ける。
三日目に再診すると,服薬后に全身が温まり,四肢が舒び,汗は已に止っていた。
なお原方加黄耆15gで,前のように服させた,但し粥は省き,2剤を連進させ,ついに全功を獲た。
其の后体は次第に壮健となり,7年になるが未だ再発していない。
  [劉少軒.対桂枝湯治自汗的点滴体会.福建中医薬,1964, (5):35]
按:患者の症は経常自汗出,脈浮弱無力,衛気虚証に似ている。
然し尋ねれば其の病因はまだ汗が出て干かず,[月奏]理が疏松な内に水に入り魚を捕ったために,水湿が虚に乗じて営衛の間に入侵し,衛気の開合功能を失なわせたことであり,実際は表虚傷風,営衛不和の証である。
病程が已に長くとも,脈象はなお浮緩で,臓腑は未だ受損せず,治療はなお微発汗し以って営衛を調和するに宜し,桂枝湯を与えて大効を得た。
※「表虚傷風,営衛不和」の証を「衛陽不固」と誤診したものです。前者は“表虚”ではあるがまだ病邪があり、後者は病邪が無く体質の気虚だけがある。これは「標本虚実辨誤」の一例です。
また桂枝湯加黄耆と桂枝湯の差異についても考えさせられます。
  『中医誤診学』2003年 より

|

« 柴胡加竜骨牡蛎湯へのグチ | Main | 徐脈 »

治験」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 誤診から学ぶ(1)感冒:

« 柴胡加竜骨牡蛎湯へのグチ | Main | 徐脈 »