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心包=大脳皮膜説

『中医臨床』v37-3 通巻146号の中の「成都視察レポート」で陳潮祖老中医を訪ねたことが報告してあります。
陳潮祖といえば『中医治法与方剤』という著作が有名です。
その第5刷が出版されたというので亜東書店から早速買いました。
そこには臓腑病機についての詳しい病変図が載っており、“病機”ということを強くアピールしておられます。
この図だけでもたいしたものですが、他にも色々と斬新な説が載っているようです。
そのひとつに「心包=大脳皮膜説」があります。
「心包とは心の外包を指すものではなく、脳の外側を包み保護する膜を指している」
「少陽三焦の筋膜とは脳筋・脳膜の延展してきたものであり、手厥陰心包と手少陽三焦は表裏をなす」というものです。
こんな大胆な説は容易には納得がいきません。
これについては17年前にもnifty kampoforumで議論したことがありました。
それで今度もちょっと頭を悩ましたのですが、私も少しは進歩したのかネットで気の休まる記事を見つけて「さもあろう」と結論が出ました。
ネットの記事とは、「東洋医学概説」長濱善夫、著、創元社、1961年 に出てくるという
「心を包むと書かれていることから、現代的に解釈すると心臓を栄養している冠状動脈ではないかとか心臓を保護している膜(まく)ではないかとか色々なことが言われていますが、そんな解釈は不毛です。心包はあくまで心包で、そのまま理解するのが最良です。」の説明です。
中医学の理論とは、科学そのものではなく理論なのですから!

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芍薬と排膿

排膿散に芍薬が入っているのは何故か?
排膿散は《金匱要略 瘡癰腸癰浸淫病》に出てくる処方ですが、方は有っても証が無いので理解が困難です。
排膿散方《金匱要略》(枳実十六枚 芍薬六分 桔梗二分 鶏子黄一枚)
私はかねがね排膿の意味と芍薬とが結びつかなくて、この処方に手が出ませんでした。
このたび『中薬の配合』丁光迪編著、小金井信宏訳 の「蝕瘡消腫」の項を読んでいたら、烏梅・芍薬・敗醤草・地楡・明礬・酢などに蝕瘡消腫の作用があると書かれており、アッと驚きました。
烏梅や敗醤草なら分かりますが、そこに芍薬が加わるとは知らなんだ。
その解説が、李時珍は「烏梅には、酸味による収斂作用の結果として、悪瘡や弩肉を治療する作用がある。」とある。
調べてみると『本草綱目』の原文は、次のようです。
 時珍曰∶烏梅、白梅所主諸病,皆取其酸収之義。其蝕悪瘡肉,雖是酸収,却有物理之妙。
何故、酸収と蝕瘡消腫の作用が結びつくのか?
「物理之妙」とは何なのか?
また鶏子黄(卵黄)を加える事には化膿を促進させるという意味が考えられる。
即ち悪瘡を早く解消するために「鶏子黄で補血し、芍薬で利血(膿は血肉の所化也)し、枳実で導水(消腫)し、桔梗で排膿する」という手順か?
それなら理解することができる。
いきなり「酸収には蝕瘡排膿の作用がある」と云われると面食らう。
排膿散は歯肉炎や霰粒腫への応用もさりながら、腸癰から大腸癌へと想いが及ぶのである。
1.《金匱要略心典》:枳実苦寒,除熱破滞為君,得芍薬則通血,得桔梗則利気,而尤頼鶏子黄之甘潤,以為排膿化毒之本也。
2.《古方選注》:排,斥也;膿,血肉所化也。枳実、赤芍佐以桔梗,直从大腸泄気破血,斥逐其膿。
3.《金匱要略釈義》:夫気行則水行,水行則膿尽,故排膿必用桔梗開利其気以行其水,并佐枳殻為之助;因膿由血化,故兼利血,而用芍薬;唯血既腐化而成膿,則去血必多,爰一面排膿以去其気分之実,而用鶏子黄以補其血分之虚。
  4.《金匱要略方論集注》:是方芍薬行血分之滞而不傷陰,桔梗利気分之結而不損陽,枳実導水以消腫,鶏子黄調胃以護心安神。尤為排膿之良剤也。

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紫雲膏の蜜蝋について2

以前の記事「紫雲膏の蜜蝋について」において、蜜蝋は軟膏基材どころか主薬ではないかと書きました。
そこにはハッキリと「蜜蝋具有収渋,斂瘡,生肌,止痛,調理的功効。外用于潰瘍不斂,臁瘡糜爛,創傷,焼、烫傷。」とも書かれていましたが、目は文字面をうわ滑りしていただけで読みが浅かった。
このたび『中薬の配合』丁光迪編著、小金井信宏訳 の「淡以斂嗇」の項を読んでいたら、黄蝋の嗇性・収斂作用には「毒を駆除解消したり潰瘍を癒合させる生肌作用や排膿托裏作用がある」と書かれています。
その上ご丁寧に「まだ膿が生じていない段階にも、膿や液が漏出している時期にも」と。
ややっ!斂嗇とは単に収斂だけでなく、排膿生肌にまでも意味していたのか。
やはり蜜蝋は紫根や当帰にまさる主薬だったのですね。

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遺尿(夜尿症)のまとめ

かつて「夜尿症 遺尿」に於いて四つの原因を挙げた。
(1)下元虚寒,腎気不足,
膀胱を温養することが出来ないと,膀胱の気化功能が失調して,閉蔵失調を起こし,水道を制約する事が出来ずに,遺尿となる;
(2)脾肺が気虚すると,膀胱は失約となり,小便自遺 或いは睡中に小便自出となる;
(3)肝経湿熱で,火熱が内迫すれば,遺尿となる;
(4)もし痰湿内蘊があれば,入睡后に昏睡状態(沈迷不醒)になり, いくら呼んでも応えず,遺尿する。
わが国では八味丸・六味丸・小建中湯・白虎加人参湯・葛根湯などがよく用いられている。
八味丸・六味丸は腎虚との見立てから、小建中湯は脾虚との見立てから、白虎加人参湯・葛根湯は意味不明。
中医学ではその他に肝経鬱熱による加味丹梔逍遥散や、湿熱による加減益胃湯の例も報告がある。
また「五苓散の解明」では(2)と関連する“気化不利”の例として五苓散加減を挙げた。
『わかる・使える漢方方剤学 (経方篇1)』小金井信宏著に於いても、同じく気化不利を病機とする例が挙げられていました。
脾虚湿困・気化失司と弁証し、五苓散+益智で治療しています。
気化不利をもう少し詳しく述べれば、
(1)尿を生成するための気化
(2)生成した尿を濃縮するための気化
があり、遺尿は(2)の段階での気化失司になります。
即ち睡眠中の縮尿ホルモンとの関連です。
注意しなければならないのは高学年生や成人の遺尿です。
これは「疏泄太過による小便失禁」になります。
病機は「陰血不足,肝木失養,疏泄太過」で芍薬甘草湯が選ばれるでしょう。

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尿路結石は脾虚が本か、腎陰虚が本か?

『わかる・使える漢方方剤学 (経方篇1)』で著者の小金井信宏氏が披露する知識の広さには驚嘆するばかりです。
それは本の末尾に挙げてある参考文献の多さと質の高さを見ても分かるのだが、まったくビックリ仰天だ。
この度は「尿路結石・石淋」についての解説で「目から鱗」だった。
一般の中医学書では、尿路結石の成因は「腎水虧虚, 膀胱熱結,虚火煉灼,廃渣結聚」となっている。
つまり腎陰虧虚が前提である。
たしかに結石という結果を見れば、湯沸しのヤカンの底に溜まった滓の集積物に似ている。
しかし小金井氏は、結石化するのは「膀胱の気化不利」によって湿熱が生じるからではあるが、基礎に脾虚があり、脾の気化失調があることを指摘している。
脾虚を本とするか、腎陰虚を本とするかによって治療法は大きく分かれる。
たとえば有名な石葦散《証治彙補》は「石葦 冬葵子 瞿麦 滑石 車前子」の構成からなるが、みな膀胱湿熱に対応する。
腎陰虚を考慮すれば、六味地黄丸+石葦散となる。
いっぽう脾虚を本とすれば五苓散が挙げられ、五苓散+海金砂・金銭草・冬葵子などとなる。
(桂枝は肉桂に変え、温陽化気利水の作用とする)
果たしてどちらがより良い効果をもたらすものか追試実験が待たれる。

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