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肺痿について

織部 和宏(織部内科クリニック 大分市)は『漢方と診療 No.26』で「頑固な咳と漢方療法」と題して“肺中冷”の肺痿の場合があると報告しています。
『金匱要略』肺痿肺癰欬嗽上気病篇には「肺痿,涎沫を吐して咳せざるは,その人渇せず,必ず遺尿し,小便数なり。然るゆえんは上虚して下を制すること能わざるをもっての故なり。これ肺中冷たり。必ず眩し涎唾多し。甘草乾姜湯をもってこれを温む」とあります。
しかし氏は次のように疑問も呈しています。
原文には「涎沫を吐しても欬せざる者」とはなっているものの,過去の私の経験より咳は出ることがけっこうある。‥‥‥とはいうものの,さて肺中冷は肺痿の一種とみなしてよいのだろうか。なぜならば同書の定義に「熱上焦に在れば咳により肺痿となす」とあり,そうなった原因としては「あるいは汗出づるにより,あるいは嘔吐するにより,あるいは消渇,小便利すること数なるにより,(中略)重ねて津液を亡す」とあるので,細菌感染等による実熱ではなくて,種々の原因で津液を失ったことによる虚熱で燥の状態にあると思えるからである。
 一方,肺中冷は肺の虚寒状態と考えられるので,定義とは違うように思えるが,臨床上は肺中冷が肺痿であるかどうかは問題ではないといったら識者に怒られるかもしれないが,要はこのような病態に対して甘草乾姜湯で体の中を温めてやれば改善するということである。
これは「肺中冷でも咳が出るのではないか?」という疑問と、もうひとつは肺中冷が肺痿だと云っておきながら「熱上焦に在れば咳により肺痿となす」というのとは矛盾するという疑問の提供です。
まったく、これには参りました。
かねてから私も肺痿については謎でした。
そこで調べてみますと、『中医証候鑑別診断学(2版)』には次のように5つの肺痿が挙げられています。
1 厥陰上熱下寒陰虚証‥‥‥久病陰損及陽,肺虚有寒,気不化津‥‥‥甘草干姜湯
2 陰虚津虧証‥‥‥邪熱蘊肺,肺津大傷‥‥‥麦門冬湯
3 血熱化燥証‥‥‥熱灼傷陰,津液不布‥‥‥清燥救肺湯
4 陽虚痰凝証‥‥‥肺虚有寒,気不化津,津反為痰涎,肺失濡養,漸至枯萎‥‥‥温肺湯合加味理中湯
5 燥傷肺胃証‥‥‥燥熱内蘊,胃陰受損,津液不能上輸于肺,肺熱消爍,清粛失司‥‥‥麦門冬湯合清燥救肺湯
これで分かるようになりました。
「肺痿」といっても一種類ではなく、何種類もあるのです。
それで織部氏のような疑問が生じたのです。
実際の臨床では「虚寒肺痿」は希少で「涎沫を吐して咳せざる」となります。
多く見られるのは「虚熱肺痿」になろうかと思います。
織部氏は甘草乾姜湯の方意も中に含まれている人参湯を処方して1 カ月以上続く咳を治したのは幸いだった。
※だがこの症例は「肺痿の肺中冷証」でもなく、「陰損及陽」の甘草干姜湯証でもなかったでしょう。

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