« 補中益気湯(《脾胃論》) | Main | 天王補心丹(《摂生秘剖》) »

大柴胡湯(《傷寒論》)

『中医治法與方剤』(陳潮祖)の解説は実に明解です。
小柴胡湯証は半表半裏、手少陽三焦経の気鬱津凝から始まって筋膜に影響した病理であり、大柴胡湯証は足少陽胆経の実熱で、疼痛を主とする、と。
[組成]柴胡40 黄芩15 半夏10 生姜15 芍薬15 大棗12 枳実10 大黄10g
[用法]水煎,分3次,温服。
[主治]胆経の実熱にて,寒熱往来,脇肋脹痛,嘔止まず,心下痞硬;或いは心下急痛;或いは協熱下痢; 或いは煩躁して狂の如し、発狂,兼ねて舌紅、苔黄,脈弦数有力。
[証析]寒熱往来,胸脇脹痛,或いは心下急痛,嘔吐不止,是れが本方の主証なり,臓腑辨証をすると,病は少陽胆経に在り;舌紅苔黄,脈弦有力,八綱辨証をすると,胆経実熱に属する。
多くは傷寒の邪が少陽胆経へ伝入して,気鬱化熱,正邪紛争,遂に往来寒熱を呈する;気結不通,血運障碍,水津失調,胆胰(胆嚢と膵臓)の液は壅滞し,遂には脇肋脹痛を呈し,心下痞硬となるか或いは急痛する;胆気が犯胃すれば嘔し,乗脾すれば瀉す。
基本病理:邪入胆経→気鬱、血滞、津凝、液阻、経絡の攣急→胆経実熱。
[病機]胆経実熱。
[治法]清熱利胆法。
[方義]邪が少陽胆経にあると,気、血、津液は壅滞し,気鬱化熱,不通なれば痛証となる,清、疏、通、利によって壅滞は宣通され,疼痛は緩解する。
此の方は柴胡を用いて少陽の気機を疏達し,祛邪して外へ出す,枳実を配伍して行気、破滞、消痞をし,疏通気機の作用を増強している。
黄芩は肝胆の熱を清し,大黄は肝胆の火を瀉す,并せて大黄の利胆通腑の働きを藉りて邪熱下行の路を開く;肝胆は同居するので,胆腑に病があれば,肝臓の疏泄に影響し血行不暢,胆汁壅阻となる,大黄は活血行瘀、利胆通腑の働きで血行は流暢となり、胆汁の流れはスムーズになり、腸道は通調する。
白芍、大棗には柔肝緩急の働きがある,経絡が攣急すると疼痛、嘔吐、下痢となる,此れがあれば柔肝緩急の効能を収める。
佐薬の半夏は辛温燥湿し,生姜は宣散水邪する,其の意は通調津液に在り,脾胃の納運升降の機能を恢復し,調理脾胃の目的を達する。
全体を観れば,すべての薬物の着眼点は通にあり,不通を通すのが,本方の宗旨である。
此の方は胆胃実熱による嘔吐を治療して,療効すこぶる佳し,方剤の構成は完璧である。
胆道疾病は容易に胆気犯胃を起し,胃気が上逆すれば嘔となる。
此の方は柴胡を用いて肝胆の鬱を疏通する,黄芩は肝胆の熱を清す,枳実は胆胃を降泄し,芍薬、大棗は柔肝緩急をする,急迫の勢いを緩め,疏肝、清肝、柔肝を通して,肝胆の機能を犯胃しないように正常化すれば,嘔を止めずとも嘔は止る。
嘔吐とは胃気上逆の現れである,此の方は半夏、生姜を用いて降逆止嘔するのは,胃気不降、濁陰上逆の機理に合うからである。
本方は胃気上逆、胆気犯胃等の機理を考慮しているのみならず,腸道腑気が通調するようにも考慮している。
胃腸は通降下行するのが順である,若し腸道被阻により,腑気が不通となれば,胃気の正常下行に影響し,上逆して嘔を作す,すぐに瀉下して通腑すれば,胃気は下行する。
此の方は大黄を配伍して瀉下通腑をはかる,これは上病治下の法則を表している,即ち"南薫(南からの薫風)を求めんと欲すれば,先ず北窓を開け"の意味である。
此の方は胃気上逆、胆気犯胃、腑気不通の三方面を兼顧しており,胆胃の実熱嘔吐を治す有効な方である。
此の方を用いて熱瀉を治療するのは合理的である。
此の証は肝胆有熱で,疏泄太過が起こり,脾胃に影響して升降失調となったものである。
柴胡、枳実、黄芩の疏肝清熱と,白芍、大棗の柔肝緩急を通して,肝胆の疏泄を正常にすれば,脾胃の升降は恢復し,下痢は自然に止む。
下痢しているのに大黄を用いて蕩熱を瀉下するのには,通因通用(下痢に下剤を用いる)の意味がある。
小柴胡湯と大柴胡湯の二方は少陽病を治す処方である。
それぞれに重点があり,証候から病機、治法、配伍,みな差異がある。
1. 二方の治証には重点がある。
小柴胡湯の所治する証候は半表半裏の手少陽三焦経に重点がある,現れる証はみな少陽三焦の気鬱津凝から始まって筋膜に影響した病理である。
三焦は五臓の道と聯系しており,証候は五臓にまで及び胆経だけには止まらない。
大柴胡湯の所治する証候は足少陽胆経に重点があり,疼痛が主証である。
産生された疼痛のメカニズムは気機鬱結、血流不暢、津液凝滞、胆胰受阻と関係し,不通なれば則ち痛むという病理を特徴とする。
2. 二方には病機、治法の方面で差異がある。
小柴胡湯証の病機は邪在少陽に属し,大柴胡湯証の病機は胆経実熱に属する;小柴胡湯は和解少陽法を示し,大柴胡湯は清熱利胆法を示す。
3. 小柴胡湯は柴胡、黄芩、半夏、生姜を用いて疏解表邪,清泄裏熱,疏暢気機,通調津液を以って邪を祛る; 入参、甘草、大棗は補益元気し以って扶正をなす,表裏同治、寒温共用、補瀉同施、升降并調等の配伍形式を示し,構成は特殊で,和解少陽法の代表方である。
大柴胡湯は黄芩、大黄を用いて行血利胆し,白芍、大棗は柔肝緩急をし,清、疏、通、降の四法を示しており、また配伍の特徴は通にあり,清熱利胆法の代表方である。
[応用]
1《傷寒論》に此の方を用いたものが全部で三条ある:
其の一は"……嘔不止,心下急,鬱鬱微煩者,大柴胡湯を與えて下せば愈える。" 此の条は嘔不止,心下急が主証である。
いわゆる心下急とは,剣突下の急痛を指す。
頗る急性胆嚢炎か或いは胰腺炎の証候に似ている。
此の方には清疏通降の働きがあり,之を用いるのが最適である。
其の二は"傷寒十日して,熱結ぼれて裏に在り,繰り返し往来寒熱すれば,大柴胡湯を與えよ。" で、熱結在裏には,両種の情況がある:
一つは少陽胆腑の熱結で,脇下或いは心下に急痛を呈するのを指す;もう一つは陽明腸道の熱結で,大便秘結を呈するのを指す。
往来寒熱があれば少陽半表半裏の証候である。
故に此の方を用いて外では少陽を解し,内では結熱を瀉す。
其の三は"傷寒にかかり発熱し,汗出ても不解,心下痞硬,嘔吐して下痢する者は,大柴胡湯が之を主る。" で、心下痞硬が大柴胡湯を用いる理由である。
若し但だ嘔吐、下痢だけで,心下は痞だけで硬くなければ,則ち中焦の升降失調に属するから,瀉心湯の類を用いるのがピッタリで,大柴胡湯では宜しくない。
2,《金匱要略》:"之を按じて心下満痛すれば,此れは実である,当に下すべし,大柴胡湯に宜し。"で、之を按じて心下満痛するのは,頗る急性胰腺炎か或いは胆嚢炎の証候に似ている。
3,本方に青黛、山梔、牡丹皮、芒硝等の清肝通腑の品を加えて,肝火上攻して狂証を呈するのを治せば,有効である。
《類聚方広義》に謂く、本方は"狂証,胸脇苦満,心下痞塞,壇中の動が甚しき者を治すには,鉄粉を加えて,奇効がある。"
4, 《証治匯補》は此の方を用いて"地道不通の呃逆を治した。"地道不通とは大便秘結を指す。呃逆に便秘を兼ねる, 顕(あき)らかに実熱である,此の方には瀉熱通腑の働きがある;呃逆とは筋膜痙攣の象で,方中の白芍、大棗には柔肝緩急作用があるから,此れを投じるのが大変宜しい。
5,古今に応用された本方の経験を要約すれば,凡そ肝火上攻の頭痛、猝中風、耳鳴、耳聾、目生雲翳 或いは赤眼疼痛、発狂、驚悸、脇肋の痞硬痛、及び胆胃不和にして嘔吐不止、心下急痛、協(挾)熱下痢等の証を呈し,口苦、舌紅、苔黄、脈弦数を兼ねれば,本方を応用すべきである。
6,臨床報道: 加減大柴胡湯で急性胰腺炎85例を治療している。
本方には柴胡、黄芩、大黄(后下)各15g,白芍12g,半夏、枳実、生姜各10g が含まれているが,老年及び児童には酌減せよ。
発熱を兼ねれば 金銀花、蒲公英、梔子を加える; 便秘すれば 玄明粉(冲・最後に入れる)を加える;嘔吐すれば 代赭石、竹茹を加える; 腹脹すれば 川朴、莱菔子を加える;黄疽があれば 茵陳、胆草を加える;蛔を吐けば 檳榔、使君子、苦楝根皮を加える;瘀血を夾めば 鬱金、丹参、桃仁を加える; 腹痛劇烈なら 延胡索、木香、川楝子を加える。
病案1: 1976年秋,学生と私の故郷の宜賓県、高場区の"オープン講座"へ行った。
年の頃は40歳程の魏と名乗る農民が医院へ受診しにきた,手に持っていた紙包を机の上に置き,開くと,全て小銅貨の破片だった。
どうしたのかと問えば,此れはしばらく前に咬み碎いた銅銭ですと。
何のために咬んだのかと聞くと,患者が云うには、腹中が絞痛してもう数年になるが,数日から十日毎に腹中が刀で切られるように絞痛し,銅銭を咬んで我慢していると漸く痛みが止る,別に他に病いは無い。
側にいた学生がどのように辨証しますか?と問うた。
これでは辨証出来ないように見えるが,実際にはちゃんとした辨証理由があると余は云った,毎回絞痛が来ると銅銭を咬み碎かないと痛みが止らないという事がヒントです。
此の証は痛む前はすべて正常だし、痛みの后も又すべてが正常である,此れは外邪の感受でもなく,また器質性病変でもないことを示している,だから是れは機能性疾病である,力いっぱい咬んで痛みが止るのは,経脈の攣急によるからに違いない。
此の証の治療は,柔肝緩急である,理由は肝木克土が病機だから。
其の舌は紅く苔黄,病性は熱に偏っている,よって大柴胡湯加甘草と処方を書いた。
1978年の夏休みに帰郷する時,高場区を通ったが,患者は上方を服した后已に一年余になるが発作は無かった。
病案2: 1975年に余と金匱教研究室の邓明仲先生が招待されて四川農学院へ行き講義した,獣医系の主任である王天益先生が云うには あるチベット族の学生が水土が合わなかったのか,嘔吐が止まらなくなり,始業から今まで既に2ケ月を越えていると,邓明仲先生と余が診ることになった。
体質は壮実,他に病はない。邓明仲先生が私に治療方案を提出しなさいというので,余は此の証は肝木克土で,胃部が痙攣している,それで嘔吐が止まないのだから,大柴胡湯を用いると宜いと云った。
邓氏はそれに芦根を加えたらどうかと云うので,此の方に甘草、芦根を書き加えた。
当晩の10時に服薬し,次の日の朝食にはもう吐かなかった! 2ケ月の疾が,一剤で愈えた,若し中医ではとても治せないと云うなら,それは偏見であり誤解だ。
[加減]
1加減大柴胡湯(験方)
柴胡・黄芩・半夏・生姜・枳殻・木香・川楝子・延胡索・大黄10g。用法:大黄后下,水煎服。
気滞型胆嚢炎を治す。
右脇脹痛, 嗳気すれば舒びる,胸悶納呆(食欲不振),反復発作,明らかな発熱と黄疸は無く,苔薄、脈弦。
清胆行気の法である。
2,清胆行気湯(天津南開医院方)
柴胡・黄芩・半夏・木香・鬱金・大黄(后下)・枳殻・香附10 白芍15g。水煎服。
気滞型胆嚢炎を治す。
脇肋脹痛し或いは絞痛,或いは竄痛,性急易怒,口苦、咽干、頭暈、頭痛,不思飲食,舌尖微紅,舌苔薄白 或いは微黄,脈弦。
清胆行気の法である。
3,加味大柴胡湯(験方)
柴胡15g,黄芩・半夏・生姜12g,白芍30 大棗・枳実10g,大黄(后下)10〜15 桃仁・赤芍12g。水煎服。
胆経実熱、気滞血瘀で経水が丁度ぶつかったのを治す。
熱入血室,腰脇及び少腹満痛。
疏肝活血,清熱利胆の法である。血瘀に偏った加減法である。
4,茵陳柴胡湯(験方)
茵陳30 柴胡・山梔12 黄芩・大黄(后下)・芒硝(冲)10 枳殻・青皮・陳皮6 木香10g。水煎服。
湿熱型胆嚢炎、胆石証を治す。
右脇絞痛,口苦納呆,高熱畏寒,大便秘結,小便短赤,或いは黄疽を伴い,舌苔黄膩,脈弦滑数。
清熱利胆,疏肝理気の法である。
5,清胆利湿湯(天津南開医院方)
柴胡10〜15 黄芩、半夏、木香、鬱金、大黄(后下)、車前仁、木通、梔子各10 茵陳15g。水煎服。
湿熱型胆嚢炎 及び胆石証を治す。
脇肋脹痛,口苦咽干,頭暈,不思飲食,寒熱往来,或いは目黄、身黄がある,黄色は橘子色の如く,小便黄濁,大便秘結,舌紅苔黄膩,脈弦滑或いは滑数。
清熱利湿の法である。
以上は湿が偏勝した時の加減法である。若し身目倶に黄なら,茵陳は30gまで増やす。
6,柴胡陥胸湯(験方)
柴胡12 半夏・黄芩・広木香・鬱金・枳実10 黄連6 熟大黄・玄明粉(冲服)10 白芍30g。水煎服。
急性胆嚢炎,或いは慢性胆嚢炎の急性発作を治す。
右上腹痛み拒按,大便秘結,舌苔黄膩,脈弦有力。
清熱利胆の法である。
7,清胆瀉火湯(天津南開医院方)
柴胡・黄芩・半夏・木香・鬱金・大黄(后下)・芒硝(冲)15 梔子・胆草10 茵陳30g。
熱重なら板藍根、金銀花、連翹を加える; 便秘なら大黄、芒硝を重用し,厚朴を加える;疼重すれば川棟子、延胡索を加える;嘔吐すれば竹茹を加える; 食欲不振には藿香、佩蘭、山楂を加える;瘀血なら桃仁、当帰、赤芍を加える。水煎服。
実火型胆嚢炎を治す。
脇肋持続脹痛,口苦、咽干、頭暈,不思飲食,寒熱往来,或いは目黄、身黄は橘子色の如し,小便黄濁,大便秘結,腹脹して満,舌紅或いは絳,苔黄燥,或いは芒刺あり,脈弦滑数。
清胆瀉火の法である。

|

« 補中益気湯(《脾胃論》) | Main | 天王補心丹(《摂生秘剖》) »

優良処方データーベース」カテゴリの記事

古典」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 大柴胡湯(《傷寒論》):

« 補中益気湯(《脾胃論》) | Main | 天王補心丹(《摂生秘剖》) »