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小建中湯(《傷寒論》)

小建中湯は子供の腹痛に使えることは一般に知られていますが、本当はすごい薬効があるのですよ!
『中医治法與方剤』(陳潮祖)より引用紹介します。
[組成] 桂枝15 芍薬30 生姜15 炙甘草10g 大棗12枚
[用法] 水煎,湯成,去渣,納飴糖60g 再加熱使其溶化,温服,1日3次。
[主治] 中焦が虚寒し,脾虚肝乗となり,腹部が攣痛して,温を喜び按を喜ぶ,面色は無華,舌質は淡嫩,脈象は弦渋である。
[証析] 此の方は腹痛を主証とする,中焦虚寒で,脾虚肝乗が機理である。
腹痛し冷す事を喜ぶのは熱で,温めることを喜ぶのは寒である; 拒按は実で,喜按は虚である。
腹痛して喜温喜按とは,虚寒の現象であり,肝木侮土と辨証する根拠である。
按摩を通して疼痛が暫時緩解するのは,内臓の実質性病変ではなく経隧の柔和性が失なわれた為の痙攣性疼痛である事を証明している。
この病変機理を云えば標は脾に在り、本は肝に在る,肝木侮土と称する。
[病機] 中焦虚寒,肝木侮土。
[治法] 温中補虚,柔肝緩急法。
[方義] 中焦虚寒,肝木侮土,治は温中補虚して中陽を建て,柔肝緩急して攣急を解するに宜し。
本方は桂枝湯の芍薬を倍にし飴糖を加えた組成である。
方中の桂枝、生姜、甘草、大棗は辛甘化陽,温中補虚である; 芍薬、甘草、大棗、飴糖は酸甘化陰,柔肝緩急,共に温中補虚,柔肝緩急の効がある。
上述の解釈は腹痛の機理に限っているが,此の方の作用は調理肝脾だけに限らず,陰陽を調理する功もある。
方中の桂枝、生姜、甘草、大棗は補気温陽;芍薬、飴糖は補血益陰する,気血を双補するとは,営衛陰陽の調理でもある。
肺脾が主るのは衛と気,心肝が主るのは営と血である,故に心脾、肝脾、心肺同病,或いは心陰心陽両虚の証候に用いることが出来, 陰陽調理の法である。
此の方を陰陽両虚と解釈する根拠は何に在るや?
根拠は二つある:
①其の所治するところは皆 陰陽不和である。
②此の方は桂枝湯加味から成る,桂枝湯には調和営衛の功があり,営は陰,衛は陽,営衛を和すとは即ち気血を和すことであり,気血が和せば即ち陰陽は和す。
故に桂枝湯は外証で使えば解肌和営衛となり,内証で使えば化気調陰陽となる,ただ病位に表裏の違いがあるだけである。
此の方は桂枝湯倍芍薬、加飴糖から成り,陰陽を調和するようになっている。
営衛不和の機理については曽つて仲景が明確に営弱衛強に因ると指摘している。
治療の際には着眼点を衛不強,営不弱とすれば,営衛は和諧を得る。
桂枝湯が所治する営衛不和は,病位が表に在る,着眼点は外邪が加わった為の衛強にある,故に桂枝、生姜の辛を用いて外邪を散ず,邪が去れば衛不強となる!
此の方の所治する陰陽不和は,病位が裏に在る,着眼点は内傷虚損した為の営陰不足にある,故に芍薬を倍にし、飴糖を加えて補陰力を増強し,陰が充つれば則ち陰陽は和す!
同じようでも同じではない,学ぶ者は留意すべし。
[応用]
1.原著に説く:"傷寒,陽脈渋,陰脈弦,法当に腹中急痛すべし,先ず小建中湯を與え,瘥えずば,小柴胡湯が之を主る。"
本方と小柴胡湯が同じ一条に出てくる,その意は腹痛が肝脾不和に因るからある。
故に先ず本方を以って肝脾を調理して,寒より治してみる。若し効かなければ,再び小柴胡湯を用いて胆胃を調和し,熱より治す。(此の条は肝脾不和を指す)
又説く:"傷寒二三日して,心中悸して煩すれば,小建中湯が之を主る。"
表証を未だ汗下を経ていないのに心悸して煩するというのは,素体が虚弱なため,ひとたび外感を経ると,すぐに陰陽両虚の証を現したものに相違ない。
心悸とは陽気が已に衰微した象,心煩とは営陰が已に弱く,心脈が攣急している徴候である,故に此の方を用いて陰陽を調理して,攣急を解する。(此の条は心陰心陽両虚を指摘している)
2.《金匱要略》に此の方を用いたのが3条ある
一条は虚労篇に: "虚労による裏急で,悸、衄、腹中痛み、夢に遺精し, 四肢酸疼,手足煩熱,咽干口燥する"等の証を治す。
此れは陰陽両虚で,肝心、肝肺、肝脾、肝腎が同時に病んでいる事を示している。
五臓の経隧は均しく肝系の筋膜から構成されている。
陰血が不足して,経隧が濡導を失い痙攣すると,心悸が現れる,肺が犯されれば衄となり,脾が乗じられれば腹中痛み,精隧が攣急(疏泄太過)すれば遺精となる;陰陽が失調し,陰弱となれば制陽する能わず,陽熱が偏勝すれば,咽干口燥となり,手足煩熱を呈する。
本方を用いて陰陽を調理すれば,柔肝緩急するを以て,諸証は愈やされる。(此の条は本方が五臓の病変を治せる事を指摘している)
二条目は"黄疸病篇"の治で"男子黄で,小便が自利している虚労には小建中湯を與えよ。"
発黄の多くは湿に因る,因湿発黄は,小便不利するものである,故に《傷寒論》は説く:"小便自利すれば発黄はしない。"
此の証は小便自利するから,一般の湿熱ではない,是れは気血虚損による虚黄である,故に此の補脾建中,陰陽双補を用いるのが宜しい。
"小便自利"が此の証の鑑別点で虚黄の要点である。(此の条は気血の虚を補うには中焦より論治すべしと示している)
三つ目は婦人雑病篇にある: "婦人腹痛すれば,小建中湯が之を主る。"
石頑は説く: "小建中湯は専ら風木勝脾の腹痛を主る。"
其の腹痛の機理は仍ち肝脾不和である,若し是れが経期が過ぎた后に,小腹疼痛となれば,是れは血虚脈攣が起こったからである。
以上引用した五条は三条が腹痛の治療で,本方が腹痛治療の主であると説明し,結局其の腹痛の機は,みな経隧の痙攣によって引き起されていると云う。
3,《千金》芍薬湯(即ち本方)は産后の少腹痛に苦しむのを治す。
建中と言わず芍薬と名づけたのは,芍薬が痙攣性疼痛を治す要薬であるからだ。
産后の失血から導かれる血虚があると,血虚では養筋できないから,経脈が攣急して痛む,此の方を用いて柔肝緩急すれば,痛みは自然に止む。
甘草、大棗、飴糖にはみな緩急止痛作用があり,"肝は急を苦しむ,急ぎ甘を食し以って之を緩めよ"という法則の通りである。
又 此の方は子宮収縮痛にも応用される。
4,《蘇沈良方》は説く: "此の薬は腹痛を治すこと神の如し" とはそれが痙攣性疼痛だからである。
綜合すると,本方の所治は二方面を改変する。
一、経脈の攣急,これは組織構造的な病理改変である。
二、陰陽両虚,これは基礎物質的な病理改変である。
[加減] 人参建中湯(《景嶽全書,古方八陣》)本方に人参を加え,虚労自汗を治す。
※小建中湯を中焦虚寒・脾虚肝乗の腹痛に使うだけでなく、五臓の陰陽気血すべてが虚した“虚労”にも使える事を忘れてはならない。熱中症やその他の緊急に点滴を必要とする場合などに効果を発揮するのではなかろうか。

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