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炙甘草湯(《傷寒論》)

[組成] 炙甘草20 桂枝(去皮)・生姜15 大棗30枚 生地黄80 人参・阿膠・麻子仁10 麦冬40
[用法] 加酒60g,和水煎薬,湯成,去渣,内膠烊化,分3次,温服,1日量。
[主治] 脈結代,心動悸。
[証析] 脈が暫く停るのを,結脈と称する; 停るのが規則的だと, 代脈と称する。
この種の脈象は,心病に因り曰久しくなれば不治となる,血気が虚衰すると,脈気は続かず,脈管は時々痙攣する。
心動悸とは心慌難受,動悸不安を指し,陽気不足で,血行を鼓動できず,営血は虧損し,心体を充養できなくなる。
まとめれば,此の証の基本病理は気血陰陽の虚損で,脈管が時々攣急する事である。
前者(結脈)は基礎物質による病変で,后者(代脈)は組織構造による病変である。
西医は伝導阻滞と称し,心脈と連接する竇房結(洞房結節)、竇室結(洞結節)、房室束の病変に属する。
[病機] 陰陽が両虚となり,脈が攣急する。
[治法] 陰陽を双補するため,甘薬で緩急する法をとる。
[方義] 此の証の治療には,陰血を補益し心体を養い,陽気を温補し心用を回復し,経脈を舒緩し攣急を解かねばならず,そうして初めて陰陽両虚と経脈攣急の病理を兼顧改変できる。
此の方には養血滋陰の薬物が多く含まれ,中でも生地黄の用量は他薬の数倍もある,あたかも君薬かと思わせるが,さにあらず,甘草こそが当然主薬である。
甘草には,補血の功効は無いし,益気力もまた人参には遠く及ばないのに,どうして主薬なのか?
甘草には"通経脈,利血気"(《名医別録》)の作用がある。
通経脈と利血気の理とは,此の薬の舒緩経脈の作用と関係がある。
《素問,調経論》説:"五臓の道は,皆経絡から出て,血気を行らす。" 脈が結代するのは,心機能の異常である,脈隧が正常に伝導ができなければ,血気も正常な流通はできない。
大量の甘味である甘草、大棗を用いて其の急を緩めれば,心機能は恢復して正常となり,脈隧は抽掣せず,気血の運行は自然となる,故に是れは脈律を恢復する鍵になる薬物である。
復た桂枝、清酒を用いて心陽を振奮し,内栄の血を暢旺にし;生姜の辛温にして散なるは,衛外の気を通調する;人参は元気を大補し,其の心気の虚を治す;生地黄、阿膠は営血を滋補し,其の営血の損を療す;麦冬、麻子仁は生津潤燥して,其の陰津の耗を補う,補虚と通脈の并用となった配伍形式である。
心体が養を得れば, 心用は宣を得,気血は通調し,脈道は舒和し,脈結心悸は初めて正常に恢復する。
此の方の又の名が復脈湯であるのは,脈律を糾正して目的を達したいことを説明している。
此の方の学習にあたり,四点に注意しなければならない:
1,此の方には滋陰の薬物が大変多く,用量は通常の益気温陽薬の2倍以上もあるが,呉鞠通の加減復脈湯及び一甲復脈等の方ではどれも此の方から陽薬を減去しており,滋補心陰方の鼻祖となり,滋補心陰法の先駆となった。
2,虚証の多くは滞を夾むので,古人は配方に注意して補中に通を配した,方中の桂枝、生姜、清酒を用いたのは,即ち補中寓通の法である。
3,五臓の経絡は肝系の筋膜より構成され,筋膜が病めば,攣急、松弛、破損、硬化など数種の病変となるが, 中でも攣急は最も多い。
筋膜攣急を治療するには甘薬を多用する,故に《素問,臓気法時論》は説く: "肝が急を苦しめば,急ぎ甘を食し以って之を緩めよ。"
仲景は筋脈攣急の治療に,常に趣旨に準じて甘薬を用いて攣急を緩めている。
如えば橘皮竹茹湯が哕逆(シャックリ)を治すのに,甘草を六両まで用いて,それで胃腑の急を緩めており;芍薬甘草湯が両脚拘攣を治すのに,甘草を四両まで用いて,それで筋脈の急を緩めている;甘草瀉心湯が日に下利すること数十行,腹中雷鳴し、干嘔するのを治すのに,甘草を四両まで用いて,それで胃腸の急を緩め;甘草干姜湯が煩躁吐逆を治すのに,甘草を四両まで用いて,それで胃腸の急を緩め;桂枝人参湯が協熱下利を治すのに,甘草を四両まで用いて,それで腸道の急を緩め;此の方は脈結代、心動悸を治すのに,やはり甘草を四両まで用いているのは,心脈の急を緩めるためである。
仲景の方は,大棗を十二枚と多用しているが,此の方では三十枚まで用いて,これもやはり甘を以って緩急するという意味である。
本方が用いる甘草について,傷寒注家はみな補益心気と解釈をしているが,それでは未だ此の薬の本当の用途にはなっていない。
もしただ心気を補うだけなら,人参の方が良いだろうに,何で甘草を重用するのか。
4,脈結代,心動悸,これらは慢性病だから,此の方を少なくとも10剤以上服用して始めて効果がでる。
三尺の厚さの冰は,一日の寒では出来ないように,新病のように簡単には効果がでない。
此の方が重用する生地黄、麦冬は,益陰増液をし,ちょうど血液濃度を稀釈するように,血行を良くして,心臓の伝導作用を恢復する。
[応用] 凡そ気血が共に虚した脈結代,心動悸なら,此の方が用いられる。
余の姉の継美は,年齢が古稀を超えてから,1990年に心臓病に患り省の医院で治療をしたが,また腎機能障害も重く,医院では病危通知を出していた,余が往って視ると,心律不斉で,脈は37回/毎分,遂に此の方を書いて持たせ,服すること10剤で,心律は完全に正常になった。
李某,歳は還暦を過ぎてから,時々心悸を感じて,余に治を求めた,脈律不斉で,脈は24回/毎分,此の方を書いて持たせ,連服すること8剤にして心律は正常になった。
   『中医治法與方剤』(陳潮祖)より
※炙甘草湯の主薬は甘草で、最多量の生地黄は臣薬に止まり、しかも甘草の作用が「補益心気」ではなく「甘以緩急」であるとは!

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