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半夏厚朴湯(《金匱要略》)

[組成] 半夏・厚朴15 茯苓20 生姜25 蘇葉10g
[用法] 水煎,去渣,分4次服,1日量。
[主治] 気結による津凝が,三焦を阻止し,咽中に物ありて阻むが如く,吐けども出ず,咽めども下らず;或いは胸満喘急し;或いは咳し; 或いは嘔き;或いは胸脇が痛み,苔白膩,脈弦緩,或いは弦滑。
[証析] 此の方が治す諸証は,肺脾肝の三臓が機能失調となり,気鬱による津凝が,少陽三焦を阻止した病変である。
咽中に物ありて阻むが如く,吐けども出ず,呑めども下らずとは,此の物が阻止するのは咽部の膜腠間であり食道と気道内ではない事を説明している。
上述の証候を形成する原因は,気滞、血瘀、痰凝、湿阻に外ならず,気鬱津凝の証である。
少陽三焦における津気の運行は,全て肺気の宣降,脾気の転輸,肝気の疏調,腎陽の気化による。
今 情志不暢に因り,肝気鬱結,肺脾気滞のため,津液を輸布する能わず,津液が凝聚し,衛気は少陽三焦の半表半裏より咽喉に逆行し,遂に咽中に物ありて阻むが如くなったものである。
三焦の津気の阻滞部位が異なれば証候も異なる。
胸満、喘急、咳嗽,は上焦肺系の壅;悪心嘔吐は,中焦脾胃の壅;胸脇攻撑作痛は,肝経絡の壅である。
これより上述の種々の証は,みな三焦の気鬱津凝,阻滞不通によるものである。
つまり津気の鬱結は,肺脾肝の三臓の機能失調と関係がある。
[病機] 気鬱津凝,阻于三焦。
[治法] 調気行津,祛痰降逆法。
[方義] 気鬱による津凝が,三焦を阻めば,調気行津を法とし,其の窒塞を開き,祛痰降逆して,下行せしむ。
故に本方は半夏を主薬とし,運脾輸津,降逆行涎する;輔の生姜は温胃行津,茯苓は淡滲利湿,三味は専ら三焦が津液凝聚して阻まれたのに対する。
水液が三焦に壅滞するとは,実は津随気鬱に因るものゆえ,若し只行津するだけで調気をしなければ,滞気は通る事が出来ない。
故に厚朴で下気寛中して,其の逆満を治し;蘇葉の芳香で開鬱し,兼ねて肺肝を理す,両薬物が相輔相成して,互いを補完し, 気機調暢を促し,逆降津行すれば諸証は自然と解ける。
此の方の配伍には以下幾つかの特徴がある:
1,通調津液を主とし,疏暢気機を輔とする。
此の方は除湿が主で,理気法は割り込みです。
全方は五薬で,半夏、生姜、茯苓はみな運脾輸津系の品で,調気の厚朴、蘇葉の二薬にも醒脾化湿作用があるゆえ,除湿こそが主要目的である。
割り込みの理気法は津気間の因果関系を説明しており,啓発するところがある。
2,治中が主で,上下を兼顧している。
此の方は調気を論ぜず、行津ばかりということは中焦の脾胃を治すことが主で,上下を兼顧するという構造になっている。
厚朴、蘇葉はみな能く暢気醒脾し,一升と一降,能く中焦の気機を舒暢させる; 蘇葉は又能く上焦では宣発肺気をし,下焦では疏達肝気をし,表の衛気が宣発されれば,内鬱にはならないという,三焦并治の構造である。
半夏、生姜、茯苓は散水和脾をし,能く脾運を恢復させる,重用している生姜は,又能く蘇葉と合さり宣発肺衛をし,水津を外布させる;茯苓と合さり開源截流し,湿濁を下行させるという,三焦并治の構造である。
此の方の薬は僅か5味だが調気には肺、脾、肝を考慮し,行津には肺、脾を考慮しており,構想は綿密で,学習するには誠に模範的である。
3,調気は降が主で,降中に宣がある; 行津による燥湿で、芳化が主で,辛淡が兼用である。
三焦気滞の証候が上部にある事から,気機が鬱して不宣,逆して不降であるのは明らかである。
此の方の厚朴、蘇葉はみな能く降気して逆気を下行させる; 蘇葉は又能く宣暢気機して衛気を出表させる,薬僅かに二味なれど,却って能く気機の升降出入を恢復させる。
半夏は燥湿運脾を,生姜は温胃散水を,蘇葉、厚朴は芳香化湿を,みな脾運恢復のためである;蘇葉、生姜の辛は,肺気を宣発し,腠理を開泄し,表に津を分布する;茯苓の淡は,滲利水湿,導湿下行と,将に宣肺、燥湿、芳化、淡滲と合さった,発汗、利水融合の一方である,治湿の諸方が今だに固定観念から脱していないのには,慨嘆するばかりです。
[応用] 《金匱要略》此の方の原治は:"婦人咽中に炙臠有るが如し。"
后世の医家は気鬱津凝,阻于三焦の各種病変に多用している。
《三因極一病証方論》の大七気湯(即ち本方)の"治心腹脹満,傍衝両脇,上塞咽喉,如有炙臠,口咽不下。"とは本方が肝脾の気鬱痰滞を治せる事を説明している。
《易簡方》の四七湯(即本方)の治は"中脘痞満,気不舒快;或いは痰涎壅盛,上気喘急;或いは嘔吐悪心;婦人悪阻,尤も之を服すに宜し。"
《医方口訣集》本方の治に謂く"諸気不調にして作痛し,或いは手足疼痛し,或いは腹膈掣痛して忍ぶべからず,或いは小便短渋して淋の如き者。"
《幼科心法要訣》本方の治に謂く"癲疾。"
上述を綜合すれば,此の方の所治は,部位は上中下三焦に及び,基本病理はみな気鬱湿滞である,もし三焦から分析しなければ,此の方を上手に運用することは出来ない。
若し麻黄附子細辛湯と合用すれば,療効は更に佳いだろう。
[加減]
1,紫蘇散(《太平聖恵方》)本方加枳殻、柴胡、檳榔、桂心。水煎服。
気鬱不舒,胸膈煩悶,痰壅して食下らざるを治す。
これは気滞に偏した加法である。
2,四七湯(《瑞竹堂経験方》)本方加香附、甘草、琥珀末。水煎服。
婦女の小便不順で, 甚しければ陰戸が疼痛するのを治す。
肝気鬱結して,疏泄が失常すれば,小便不利となるとの説明で,甘草を加えれば,腎系経絡の攣急を緩解できるのは周知の事である。
3,加味四七湯(《中医婦科治療学》)本方去生姜,加白芷、木香、建菖蒲。水煎服。
白帯稠黏,中脘悶,平日痰多,或いは気喘,嘔吐悪心あるを治す。
行気と芳香化湿作用を強くしている。
   『中医治法與方剤』(陳潮祖)より
※日本の添付文書には「気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症。不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症。」とあるが、上記からはどこにも不安神経症の如き単語は出てこない。
またネットの別の解説では「半夏厚朴湯は、気の滞りを改善する気剤の中の代表的な漢方薬です。抑うつ気分や不安症状に対して用いられることの多い漢方薬です。うつ病や不安障害などでよく使われる漢方薬です。」とか、ヒステリー球やストレスとかの言葉も使われており、いかにも半夏厚朴湯が気血水の「気」に属する方剤であるかのように説明されています。
しかし本文では「此の方は除湿が主で,理気法は割り込みです。」「此の方は調気を論ぜず、行津ばかり」と繰り返しているように、気鬱よりも津凝を主眼とし、はっきりと発汗、利水融合の一方であり、三焦からの観点が無ければ正確な理解は出来ないと云っています。

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