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小青竜湯(《傷寒論》)

[組成] 麻黄・桂枝・芍薬・甘草10 半夏・干姜15 細辛・五味子6
[用法] 水煎,分三次,温服。
[主治] 肺が宣降を失い,寒飲が内停している。
①悪寒と発熱があり,無汗で,咳嗽や気喘があり,痰が多くて それが清稀である,苔は潤滑で,渇せず飲みたくない,脈は浮緊。
②痰飲による喘咳で,平臥不能で,表証の無き者。
③肢体が重いし痛い,肌膚が悉く腫れる者。
[証析] 喘咳痰稀が本方の主証である;肺失宣降,水飲内停は,此の証の病機で;其の他の脈証は辨証の一部である。
《素問,咳論》に謂く:"皮毛は肺の合也。皮毛が先ず邪気を受けるのは,邪気は其の合から入るからである。寒飲食が胃に入り,肺脈を上って肺に至れば肺寒となる,肺寒になれば外内合邪となり,長く客することになる,それが肺咳である。"
小青竜湯証とこの咳論の所述とは丁度一致する,其の病理は内傷外感の両方面に及ぶ:
①脾肺虚寒,脾寒となれば散精帰肺する能わず,肺寒となれば敷布津液する能わず,津液は凝結して飲となり,肺に壅阻すると,肺気は宣降を失調し,咳逆倚息して臥すことが出来ない支飲となる; 或いは肺失宣降に因って,津凝は敷布されず,水液の流行は,四肢に帰し,身体疼重する溢飲となる。
②素体が脾肺虚寒であると,一旦 風寒束表となれば,たちまち肺気の宣降や,水津の敷運に影響して,外寒内飲の機序を呈する。其の証は悪寒発熱,無汗の風寒外束となり,営衛の運行が阻まれた表証となる。風寒が外束し,肺気が鬱して不宣となり,逆して降らなければ,遂には喘咳を生ずる;津液の敷布や,水道の通調に影響すれば,遂には痰多清稀となる。痰稀は脾胃虚寒による津液の輸布不能や 腎陽不足による化気行水不能と関連している。
[病機] 肺失宣降,寒飲内停。
[治法] 宣肺降逆,温化水飲法。
[方義] 肺失宣降し,寒飲が内停すれば,治法は宣肺降逆,温化水飲すべきである。
方中の麻黄には宣降肺気,発汗解表,利尿行水の三大効能が有る;桂枝にも温通血脈,解肌発汗,温腎化気の三大作用が有る。
両薬は相い伍して,発汗解表、通調営衛、降気行津の効能が有り,正に肺失宣降、気逆水停の機序と合う,故に主薬である。
水飲内停に,麻黄、桂枝が有り宣上温下しても,若し温運中焦しなければ,仍お消除不能である,故に半夏の燥湿,干姜の温脾を配して,脾には能く輸津し,肺には能く布津し,腎には能く化気せしめれば,津は行りて阻むもの無く水飲は除かれる。
細辛、五味子の配伍は降逆下気,芍薬、甘草の配伍は柔肝緩急で,気道攣急と肺気上逆による喘咳のための専用である。
此の方の八薬が同用されると,能く致病原因を消除し,五臓の機能を調理し,気血津液を流通させ,気道の痙攣を緩解する,故に宣肺降逆、温化水飲に有効な名方である。
此の方の学習にあたり,4つの疑点を明確にし,1つのキーポイントを掌握しなければならない。
1.《傷寒論》の条文と本方に麻桂が配されていることから其の組方機序を分析すれば,是れは表寒裏飲の治療方であり,解表滌飲の法である事が分かる。
今 肺失宣降、水飲内停と分析された此の証の機序には宣降肺気、温化水飲の治法が認められる。
これは仲景の原意と符合するか否か?
知られているように《傷寒論》に所載されている条文には表寒証候があるが,《金匱要略》に所用されている三条には表証を言及するものが一条も無い,だから本方は表寒の為にのみ設けられたものではない,只 表寒裏飲と分析するだけでは不十分なのではないか,肺脾虚寒による、津気失調と説明される致病機序もあるとした方が,病変の本質を示すのではないか。
2.此の方証の病位は主に肺に在るが,心脾肝腎等の臓にも関連しているとも方義から分析できる,是れはこじつけだろうか?
余は此の方の所治する病位は肺に在るのは尤だが,ただ気失宣降,血運不利,水飲内停,気道攣急の四方面の病理変化にも及んでいると思う。
衛気の運行は肺に関し,営血の運行は心に関し,水津の運行は肺脾腎に関し,気道の痙攣は肝に関する。
此の方は治肺を主とするが,別に桂枝は兼調心営,通利血脈,兼温腎陽,増強気化をする; 干姜は兼温脾陽,恢復脾運をする;芍甘は柔肝緩急,緩其痙攣をし,上述の解釈は此の証の機序と一致する。
肺系からの分析だけで,《金匱要略》が本方を用いて婦人吐涎を治療すると解釈するのは難かしい。
3.此の方に配伍されている芍薬の理について,ある方書は諸薬の燥を制すると謂い,或いは養血調営と謂い,人によって言うことが異なり一致しません。
今 此の薬と甘草が痙攣を緩解して止咳平喘の目的を達すると謂うのは,実際に合うのではありませんか?
余は芍薬甘草の配伍は,痙攣を緩解するためだと思う。
仲景の方を綜観すると,芍薬は各種の痙攣病変の治療に常用している。
四肢の拘攣疼痛を緩解する芍薬甘草湯; 胸脇疼痛を治す四逆散、大柴胡湯; 腹中疼痛を治療する当帰芍薬散、小建中湯;上焦の喘咳を治す小青竜湯;下焦の小便不利を治す真武湯,どれにも芍薬が有る。
上述の各証から帰納されるのは二つの事である:一つは経脈攣急に因る痛みで,一つは経脈攣急が引起した気道や水道の不利であり,どれも肝系の筋膜と関係している。
芍薬、甘草は柔肝緩急の品で,善く経脈の痙攣を解き五臓の気血津液の運行を妨げないようにし,柔肝緩急を通して五臓の病変を治す,本方に二薬を配伍して気管の攣急を緩めると,気道が緩舒となり,喘咳が平治する。
4.此の方には利水薬物を専用していないのに,どうして水飲内停を治すことが出来るのか?
《傷寒論》は此の方の所治証候を,"心下有水気"と指し示している;其れは諸証が水飲が三焦に停蓄して起きている事であり;《金匱要略》では更に此の方が溢飲、痰飲、吐涎等の証を治療しているのを看れば水飲内停こそが本方証の基本病理である事は少しも疑いが無い。
問題は何を以って此の方が能く水飲内停を治すか?に在る。
余は治病の要は治本に在ると思う,《黄帝内経》では早くも明訓している,若し能く治本を主とし,其の標を兼治するなら,将に能く較好の療効を獲得するだろうと。
水液が能く体内を升降出入するのは,肺気の宣降,脾胃の輸運,腎陽の気化による。
此の方は麻黄の宣降肺気,干姜の温運中陽,桂枝の温腎化気を用いて,三臓の機能を恢復し水津の升降を妨げずして,始めて水飲再停の憂いを無くしている。
麻黄の発汗行水作用は能く已停の水飲を毛竅より外出させ,三焦へ下行させるという,治標を実行している。
だから本方には専門の利水薬物が無くとも水飲を治療できるのである。
此の証は肺失宣降に因る気逆津凝であり,肺脾の生理機能から水飲内停と気逆不降であると分析でき,それが本方のキーポイントである。
[応用]
1.原書に此の方は両条ある:
①"傷寒で表が不解,心下に水気ありて,干嘔,発熱して咳,或いは渇、或いは利、或いは噎(咽につかえる)、或いは小便不利,少腹満,或いは喘者,小青竜湯主之。"
此の条では既に悪寒発熱,頭痛身疼の表証があるか,又は水気内停による干嘔、咳嗽 或いは然りとの五証がある。
肺が宣降を失し,脾が輸運を失すると,水気は内停し,肺を射れば喘咳となる;胃腸を犯せば干嘔、咽噎(噎膈とも)、下利となる;脾が津を上輸しなければ,口渇して熱飲を喜ぶ; 決涜(小腸の分別、大腸の排便、腎、膀胱の水液調節と尿の排泄の気化機能)が壅滞すれば小便不利,少腹満となり,みな肺脾の津気壅阻の証候である。
此の方で外では表邪を解し,内では水飲を化せば,表解飲蠲となり諸証は自ら愈える。
此の条は水飲内停が各種の証候の病変を引き起すという本質を示している。
②"傷寒にて,心下に水気があれば,咳して微喘し,発熱しても不渇となる,湯を服し已って,渇せば, 此れは寒が去って解せんと欲している也,小青竜湯主之。"
咳して微喘するとは,水飲犯肺の現象である; 発熱しても不渇とは,表寒裏飲の証候で,心下に水気がある故に身は発熱しても口では不渇なのである。小青竜湯を服した后に反って口渇すれば,心下の水気は已に消え,胃中の寒飲も已に去っている,故に"此れは寒去りて解けんと欲する也"と謂う。
2.《金匱要略》には此の方が三条ある。
①痰飲篇; "溢飲を病めば,当に其の汗を発すべし,大青竜湯が之を主る,小青竜湯も亦之を主る。"
飲が四肢に流れれば,当に汗により解すべし,本方には発汗作用がある,故に可用。
②"咳逆倚息して不得臥,小青竜湯主之"。
此の条は脾肺虚寒にて,津液を輸布できず,水飲内停,肺失宣降の機序である。
水飲内停による喘咳は,表証が無くても此の方の温化水飲,宣肺降逆を応用できると説明している。
③婦人雑病篇:"婦人が涎沫を吐き,医が誤って下したら,心下がすぐに痞えた,当に先ず其の吐涎沫を治すべきである,小青竜湯主之。涎沫が止れば,乃ち痞を治す,それには瀉心湯が之を主る。"
吐涎沫とは脾肺虚寒で津液を輸布不能の徴候である,此の方で脾肺の寒を温め,脾が能く散精して,肺に上帰させれば,肺は能く布津して,体表に達し,水道を通調し,膀胱に下輸すると,吐涎の証候は自ら愈える。
仲景が小青竜湯を用いた五条を綜観すれば,此の方の所治は,咳喘、身体重痛、浮腫、吐涎沫、干嘔、或いは噎、或いは利、或いは小便不利、少腹満 等の肺脾腎三臓の証候であるが,其の病機はみな肺失宣降,寒飲内停と関連している。
此の方にて水飲を毛竅より外出させれば,小便は下行する故に治る事が出来る。
本方と温陽化気の真武湯は好一対をなす,此の方は治肺が主で,治脾腎を兼ねる; 真武湯は治腎が主で,治脾肺を兼ねる,方剤配伍による協同作用で それぞれの整体聯系に充分反映されている。
3.《方輿輗》に謂く:"初めは小青竜湯は治咳の主方と学ぶ,然し小青竜湯の専効は逐水発邪に在る。此の咳とは水邪相激に因って発する,故に此の湯を用いて其の邪を発すると,咳は自ら止む。"
逐水発邪の一語こそ本方使用の要領である。
4.《医学統旨》本方で"水寒相搏"による呃逆を止めている,寒が甚しければ附子を加える。
方中の芍薬、甘草の解痙作用は突出している。
5.《張氏医通》に謂く:"肺が風寒に感じて咳嗽し,倚息するだけで臥す事が出来ない,背寒して嗽が甚しければ,小青竜湯。"
"冬月に嗽して寒熱を発すれば,之を寒嗽と謂い,小青竜湯加杏仁。"
"入房して汗が出て風に当り,嗽して面赤ければ,内経は之を内風と謂う,脈が浮緊なら,小青竜,脈が沈緊なら,真武湯。"
"水腫して脈浮で自汗し,喘嗽便秘なら,小青竜加葶苈、木香。
6.ここ数年来 咳嗽患者を治すことが甚だ多く,外感風寒からの肺気不宣,津凝不布,舌質偏淡 或いは正常,痰質清稀 或いは変稠,にはみな此の方の加味を用いて顕著な療効がある。
胸悶脇脹を兼ねておれば,気鬱偏勝だから,四逆散と合用し,枳殻、柴胡を加える;気鬱化熱となり,痰質が稠に変じ,舌尖が微紅なら,小柴胡湯と合用し,柴胡、黄芩を加える;舌淡胖、苔水滑、痰量が多ければ,湿の偏勝だから,五苓散と合用して白朮、沢瀉を加えるか,或いは真武湯と合用して白朮、茯苓、附子を加える。
止咳薬を加える時は寒熱に随って異る。
気が未だ化熱していなければ紫菀、款冬花、白前の属を加える;気が已に化熱しておれば枇杷葉、矮茶風(平地木)の類を加える。
一部の病人には干咳無痰が常見される,若し咽干、口燥が無ければ,仍お気鬱津凝に属するから,燥咳と断ずる事は出来ない,是れは水液が気管の夾層に壅しているだけで,未だ気道内に滲入していないから,亦 此れを投じなければならない。
若し清燥潤肺の薬物を投ずると反って其の壅を増し,纒綿として愈え難くなる,但し気候が干燥した季節ならば考慮しても宜しい。
気喘には厚朴、杏仁を加えて降逆平喘し,桑皮にて瀉肺行水する。
病案:
杜某,男,56歳。2000年1月20日 其の妻が前もって来りて方を求む。
患者は数日前の夜間の2〜4時に起床して仕事をしていたら,全身に寒冷を感じ,次いで小便が不通となり,点滴して難下となったと謂う。
某省の級医院に送り治療を受け,導尿したが仍おも通ぜず,小腹を穿孔して導管を付けており,病人は来られないので処方だけを求めてきたのです。
述べる内容から考えると当に寒を受けたせいである。
思い切って小青竜湯去五味子,加柴胡、枳殻各10,白朮20,沢瀉30g と書き,試服させることにした。
次の日に来て,小便は已に通ったが,ただ汗出が多いと告げる,遂に麻黄を減去して,再服に一剤を出した。
25日に病人が退院して来たので診察したら,小便の中に血塊が有ると述べる,顕らかに導尿時に尿管が損傷を受けたのだ。
改めて五苓散合四逆散加生熟蒲黄各10g と書き,調理して安きを得た。
時にアメリカから来華して学習している学生の麦尚文(中文名)が問うには: 小便不通は腎系の病変なのに,どうして肺系の病変を治す小青竜湯加減を用いるのか?
余謂く 治病の要は,審証求因に在ると。
時あたかも厳寒の季節で又 深夜の工作だったから,小便不通になった,顕らかに是れは寒邪を感受した事に因る,肺衛が閉鬱し,腎系経絡の攣急を招き小便不通となった。
治病求本の原則に基づき,治法は辛温解表,温散寒邪とすべきである。
本方は能く温散寒邪,消除病因するが,方中の芍薬甘草は又 経絡の攣急を緩解し,水道を通調させる;《傷寒論》に謂く四逆散は小便不利を治すことができると,柴胡、枳殻を加入すれば四逆散が在ることになる;復た加白朮、沢瀉なら,小青竜湯中の桂枝と相伍して,五苓散の変方になり,又 温陽行水作用を具える,故に此の方の加減を選んだ。
此の証の病位が下に在るのに之を上に求めたのは,治病には五臓間の内在聯系より病機を探求して,はじめて能く正確な病機結論を得て正確な治療方法を定めることが出来る事を提示している。
[化裁] 小青竜加石膏湯(《金匱要略》)は、即ち本方加石膏である。水煎服。
肺脹で,心下に水気が有り,喘咳して煩躁,脈浮者を治す。
此の方の所治は小青竜湯に較べて煩躁の証候が一つ多い,清熱の石膏を加入すれば,一つには裏熱を清し煩躁を除く;二つには麻黄の発汗力を制約し,滌飲作用を増強する。
   『中医治法與方剤』(陳潮祖)より
※目を覚まさせるような発言が続く得がたい書物である。
《傷寒論》の条文には表寒証候があるが,《金匱要略》の三条文には表証を言及するものが一条も無い。
小青竜湯の病位は肺のほかに心脾肝腎にも関わっている。
《金匱要略》では吐涎沫を治し、《医学統旨》では呃逆を治している。

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