« 止嗽散(《医学心悟》) | Main | 小青竜湯(《傷寒論》) »

甘麦大棗湯(《金匱要略》)

[組成] 甘草30 小麦30 大棗10枚
[用法] 水煎,分次,温服。連服数剤。
[主治] 婦人の臓躁は,喜悲に傷つき哭かんと欲し,像は神霊の所作の如く,数(しばしば)欠伸(あくび)す。
[証析] 喜悲傷欲哭,像如神霊所作,是れは精神異常である; 精神異常,是れは神(脳)が血養を失するに因る;神失血養,是れは血運不利に因る;血運不利,是れは血管攣急に因る;血管攣急,是れは陰津虧損に因る。
其の基本病理とは; 陰津虧損→血管攣急→血運不利→神失血養→精神異常。
此の証は心神異常に属すと雖も,実は咎は肝に帰すべきである。
何故なら肝は身の筋膜を主り,血管は筋膜の組成から出来ているから。
[病機] 陰虚血少,経脈攣急。
[治法] 益陰緩急法。
[方義] 経絡攣急,心神失養には,甘味薬物で経絡の攣を緩解するのが宜しい,そうすれば血流は暢通となり,心神は始めて養われる。
此の方は大棗を用いて脾陰を滋潤し,甘草の緩急と合さっている,"肝は急を苦しむ,急には甘を食して緩める"という治則に正合する。
小麦の味は甘凉で,煩熱を消除する機能がある,三薬が同用されると,能く益陰緩急の効能となる。
此の方の研究にあたり,注意しなければならないのは鑑別診断,治療原則,煎煮方法の三方面である:
①精神異常には気鬱、血瘀、痰凝、湿阻など多種の機序がある。
此の証の診断は血管攣急,神失血養であり,欠伸するのも其のせいである。
何故なら常に欠伸を作すのは経絡が収引していることの反映で,血管攣急に因ることの佐証である。
②血管攣急が其の基本病理なら,緩解攣急すべきで,若し緩解攣急を欲するなら,肝経より論治すべきである,甘は緩急するという治則に基づき,みな甘味薬物を用いる。
③小麦は久煮すると宜しくない。陶弘景は謂く:"小麦を煎じて湯とするには,皆丸のままで用いるのが,热家の治療である,粉にすると温に変わる。"
《唐本草》に亦謂く: "小麦の湯用には,皮を傷つけてはいけない,傷つけると温となり,消熱止煩することが出来なくなる。"
此の方が小麦を配伍するのは,其の消熱止煩のためであり,久煮して皮が破れると,寒が温に変わるから,留意しなければならない。
[応用] 婦女の月事不調か或いは漸少となり,性情急躁して怒り,或いは睡眠不好,或いは多愁善哭が見られれば,此の方を用いる。
《校注婦人良方》:"郷先生の程虎卿婦人が,妊娠四、五月になり,昼は惨戚悲傷して,泪を流してばかり,憑物があるようだ,医と巫とが兼治したが,皆無益だった。
十四歳の従者が,丁度習業中であったが,此の証を見て,先人が曽つて此の証を臓躁悲傷と云っていた事を記憶している,甘麦大棗湯に非ざれば愈えずと,虎卿が借方して観てみると,対証しているのを甚だ喜び,笑って制薬させ,一投したら愈ってしまった。
《方輿輗》:"某小兒が昼夜啼哭して止まず,試みに甘麦大棗湯を與えたら一両日して止った,以後此の方を用いて小兒の啼哭を治すこと甚だ多し。
此れは本は婦人の臓躁悲傷の証を療するものだが,嬰兒にも此のように効くことがある。"
《徳生堂治験録》:"某女,妊娠して五ケ月,水腫を患い,分娩の時になっても尚甚しい。以後も発癎したり,狂呼妄罵して,昼夜を分けない,脈を取ろうとすると目を吊り上げて手を挙げ,近づけない,因って甘麦大棗湯を與え,服数すること百剤,漸漸に復故することが出来た。
《洛医匯講》:"一婦人,年二十四、五,一種奇証を患い,予の診を請うた。脈候を診ても大異は無い,飲、食、便、溲も亦常の如し,但其の月水時(月経期)或いは愆期(月経後)に云う。診察が終わり,少ししてから,病婦が云う:今病いが始まりました。寝床に着くや, 喉間から一種の声響が,喘に非ず哕(しゃっくり)に非ず,嘔に非ず噫(おくび)に非ず,名状しがたく,甚だ痛苦煩擾の態を作す。
継いで左手の拇指が自然に回転旋し,木偶戯のカラクリの如く,次第に五指に及び,相互に迥転する。
次いで腕、臂、肩,右足跗、脛、腿, 右手,右脚,眼珠鼻尖,両耳頭頚,腰臆に及び,皆順次に迥転振揺する。
予は其の掌を撫でながら曰く:"是が汝の病情か,余は今こそ尽く分かったよ!この徴候は仲景所説の婦人臓躁と,ピッタリ合う"。そこで甘麦大棗湯を投じた,一、二日して神志は条暢し,旬日を待たずに復発しなくなった。"
上述の四案より看ると,何点か啓発される:
一、本方は婦女のみならず,小兒、男子にも亦応用される。
二、悲傷啼哭等の証のみならず,癇証、失眠等にも亦用いられる。
三、本方より伺える古方の妙処とは,頭痛に頭を医やす時方を与えるのとは天地の差が有る。
四、挙げた四案はみな経脈攣急の現象である。
   『中医治法與方剤』(陳潮祖)より
※「臓躁と甘麦大棗湯」で、「麦は肝の穀、心の母である肝を補充して間接的に心を養う」、また臓躁の躁は燥に通ずると書きました。
小麦は甘凉で煩熱を消除するとは、すなわち肝陰を補益することでもある。肝陰は次に子の心陰を補うことになる。
欠伸は「肝失疏泄,気機失調」によって生ずるが、それが久鬱傷神へと進むと甘麦大棗湯の出番になる。
すなわち欠伸の治療には疏肝理気すべき段階と、益陰緩急すべき段階の二段階がある。

|

« 止嗽散(《医学心悟》) | Main | 小青竜湯(《傷寒論》) »

優良処方データーベース」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/10949/65072226

Listed below are links to weblogs that reference 甘麦大棗湯(《金匱要略》):

« 止嗽散(《医学心悟》) | Main | 小青竜湯(《傷寒論》) »