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温経湯(《金匱要略》)

[組成]呉茱萸・麦門冬15 桂枝・当帰・川芎・牡丹皮・半夏・生姜・阿膠・芍薬・甘草・人参10
[主治]
1.月経淋漓不断,漏下不止,唇口干燥,手心煩熱。
2.月経不調,逾期不至,或時前時后参伍不調。
3.経行腹痛,得温稍減,舌淡脈渋。
4.久不受孕。
[証析]
《金匱要略》婦人雑病篇説の説明は「婦人の年齢が五十歳ほどになって,下利を病んで数十日も止らない,日暮になると発熱し,少腹が裏急し,腹満し,手掌が煩熱し,唇口が干燥する。此の病は帯下に属し,瘀血が少腹に在って去らないからである。」となっていますが、“下利”では話が通らない。
《金匱要略心典》には「婦人の年が五十ばかり,天癸は己に断ちて下利を病むは,月経がきたからではない。」となっており、下利と月経をつなげている。
これはどうやら下利と下血とをどこかでミスプリントをしたようだ。
下血とすれば、すんなりと意味が通る。
『中医治法與方剤』(陳潮祖)の説明を見てみよう。
‥‥‥
此れは調経の祖方である。
[主治]は 1.漏下不止、2.月経不調、3.経行腹痛、4.久不受孕の四証で,みな衝脈・任脈の虚寒と,瘀血の阻滞による。
下利数十日不止とは下血を指している。
下血不止の原因を推測すると,曽つて半産を経て,瘀血が少腹に留まり,血が循経していないからである。
なぜ瘀血阻滞だと分かるのか?
それは少腹急満(脹痛),入暮発熱,唇口干燥で分かる。
若し血分に阻碍が無ければ,どうして腹満するのか,今 少腹脹痛があるのは,顕らかに瘀阻胞系のためである;入暮発熱とは,病が陰分に在ることで,瘀血が内阻し,陽気が陰分に入れず外に浮いている象である;手掌の煩熱は血阻気滞による,化熱の象である;唇口が干燥するのは,内で血が瘀滞していて外栄できないからである。
[方義]下血日久ともなれば,陰血は必ず虚し,兼ねて舌淡となる,これは間違いなく寒象であり,病性は虚寒なるゆえ,温経補虚が宜しい。
此の証は本寒・標熱と,本虚・標実の,寒熱虚実夾雑証である。
処方の呉茱萸・桂枝にて温経散寒して,寒凝腹痛の証を治す。
当帰・川芎・牡丹皮・桂枝は活血・去瘀・通絡で,通因通用の法となっている。
寒証なのに反って牡丹皮の凉血清熱を用いているのは,入暮発熱・手掌煩熱の証を兼ねているので,内鬱の陽・外浮の熱を清するためである。
瘀血が阻滞すれば,津気もまた影響を受ける,呉茱萸は理気に長じ,専ら気分の鬱を行らす;半夏・生姜は燥湿和脾に長じ,専ら津液の壅を開く,これは卵巣積液に効きそうだ,少腹が脹痛するのは津気の凝滞と関係がある。
この薬の組立によって血は脈内を行りて外流せず,経隧が暢通するのは,気が統摂したからである。
人参・甘草を配伍して元気を大補し,元気が充つれば衛気が生じ,衛気が旺盛となれば摂血できるというものだ。
瘀血阻滞と統摂無権の両種の機理が同時に存在する出血に対して,此の方で兼顧され完善となる。
下血日久となれば,陰血は已に虧けているから,阿膠・当帰を配して営血を補益し,麦冬・白芍にて営陰を補充する。
此の方は気血津液の盈虚通滞を配慮するばかりか,芍薬・甘草の柔肝緩急を配して,また経脈攣急にも対している。
方中に桂枝・川芎・当帰があるのは活血行瘀のため,また呉茱萸・半夏・生姜があるのは調気行津のため; 呉茱萸・生姜・桂枝・当帰は本寒を温め,また牡丹皮は標熱を清する; 活血・調気・行律の品は滞塞を通じ,また益気・補血・養陰の品は虚損を補う; 基礎物質を通調する品と,また組織構造を柔和にする薬物とがそろっている。
以上は活血が主で,行津気を兼ね,温燥が主で,凉潤を兼ね;通滞が主で,補虚損を兼ね;基礎物質が主で,組織構造を兼顧した配伍形式となっている。
且つ行気の中に補気の品があり,行血の中に補血の品があり,行津の中に滋陰の品があり,一方では気・血・津・液・盈・虚・通・滞を兼顧しており,ちょっと見は雑乱無章であるが,其の実は有理可循(合理的)であり; 相互牽制のようでも,其の実は并行不悖(同時に行っても互いに矛盾しない)である。
月経は一月一行する,これは肝経が時に応じて疏泄するからである。
経行先期・経行后期・経行先后無定期のいずれを論ぜず,経色が淡黒で,少し瘀塊があり,舌質が偏淡なら,それは衝脈任脈の虚寒・血瘀気滞・疏泄失調である。
呉茱萸の用量が最も重くなっているのは,兼疏肝気のため,白芍・甘草は柔肝緩急し,肝経の疏泄を調理するためであり,経行后期(月経の遅れ)には最も適している。
若し入暮発熱・唇口干燥・手掌煩熱が無ければ,牡丹皮は不用である; 若し白帯較多・舌苔較膩なら,阿膠・麦冬は滋膩なので,減去すべし; 気滞が較甚なら,香附・烏薬を加えるもよし。
そういう痛経の治療には此の方が最も卓効がある。
寒が甚しければ,呉茱萸・桂枝・当帰を重用する;気滞が甚しければ,更に烏薬・小茴香・香附・木香を加える;瘀滞が甚しければ,川芎・当帰を重用する;攣急が甚しければ,芍薬・甘草を重用し,更に細辛を加えて散寒解痙する。
婦人の久しく受孕しないのには,原因が色々ある。
禀賦不足・発育不良による者; 失血過多・労傷虧損による者;気滞血瘀・痰湿凝結・阻于胞系による者など。
此の方は衝脈任脈に寒があり,気血が壅滞不通のために受孕しない者に相応しい。
一方では虚・滞の両方面をしているので,そういう不孕にも効を獲る。
此の方は温経祛瘀・補虚祛瘀・活血止血の三種の治法を実現している。
[応用]月経の来るのが遅れて30〜40日以上になり,経色が淡黒なら,衝任虚寒・瘀血阻滞の病機であるから此れを投じよ。
痛経と小腹覚冷,或いは熱を得れば痛みが減るのが辨証の要点である。
如し小腹冷痛の甚しき者は,小茴香・艾葉・細辛を加え,温経散寒の功を増強する;経行時か或いは経前に小腹が脹痛すれば,香附・烏薬を加えて行気止痛する;漏下の色が淡く止らなければ,牡丹皮を去り,炮姜・艾葉・熟地黄を加え温経補血止血する; 気虚が甚しければ,黄芪を加えて益気する。
余は曽つて此の方を用いて産后に瘀血阻滞して,色素が沈着した蝴蝶斑と、1例だが女子の唇口に須(ひげ)が生えたのに効を獲たことがある。
 ※麦門冬・牡丹皮が含まれていることに注意すべきだと思う。
本寒・血虚・瘀血・標熱が揃わないと温経湯を使えないとなると、かなり応用範囲が制限される。
本寒・血虚だけなら「呉茱萸・桂枝・当帰・川芎・半夏・生姜・阿膠・芍薬・甘草・人参」となり、すっきりとして使いやすく温経湯の名前の通りとなる。

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