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早漏は腎虚に非ず

 李某,男性,33歳。結婚して3年になるが未だ子が出来ないと,夫人と偕に来診した,仔細に詢ねると,夫人は結婚后に一度自然流産している,だから妻の方は本もと受孕できるのだ。
近ごろは又精液検査をしたら,精子の活力が稍低く,且つ常に早泄で,性交はいつも不成功である。
此れは桂枝加竜骨牡蛎湯の証である。
 処方:生竜牡各30(先煎),桂枝20,白芍20,大棗20,炙甘草15,生姜10。
連服すること3周の后に電話で喜報が来て,其の妻が受孕したと。
 按:この頃の世俗では,生殖系統の病証に逢うと,必ず腎虚精虧だと曰う,恐らくは過度の中医理論の宣伝や、一知半解の中医理論と関係がある。
毎度のことに病者が来ると,必ず問うのは:“我は何体質か?我は肝虚か?血虚か?腎虚か?”
医者も又 臓腑学説を一面しか理解していない。
《内経》に因れば“五臓は,精気を蔵して瀉せず”、“腎は精を蔵す”とあり,五臓の病の多くは虚から立論されるものと,深く人心に入っている。
社会で宣伝されている飲食療法はみな,某物は補肝する,某物は補腎するといい,通俗的で分かり易くしてある。
仲景の効方に致っては,誰も重視しない。
不孕不育には填精補骨に限る,此れ以外には良法は無いと。
病者は補腎の説を聴いて,さも合理ならんと,喜ぶ。
若しも桂枝加竜牡湯を処方したら,患者の多くは反って疑惑を感ずるだろう。
 《金匱要略·血痺虚労病脈証并治》:“失精家は,少腹が弦急し,陰頭が寒く,目眩み,髪落ち,脈が極めて虚芤遅なるを,清穀(下痢),亡血失精と為す,脈が芤動微緊を得れば,男子は失精し,女子は夢に交わる,桂枝加竜骨牡蛎湯が之を主る”。
此の条の原文を読んで,“男子失精,女子夢交”の一語を味読しなければならない。
失精を病理と理解してはならない。
失精と夢交とは対語であり,症状を云って病理を云うのではない。
誤解すると,必ずや補腎という決まり文句に陥り,ただ機械的に補腎益精の方を套用する。
病者は“腎虧”の一語を受けて困り果て,惶惶として日を送る。
其の実は遺精、滑精、早泄はみな失精の類で,ただの症状名に過ぎない。
多くの責は心に在るのであり,腎に在るのではない。(※)
姜佐景曰く:“本湯が遺精を治すとは,医者なら誰でも知っている。だが知っているだけで,用いるのは,いつも腎気丸の一方ばかりである,まあ加えるにしても補益の品ばかりで,続断、杜仲、女貞子、菟絲子、核桃肉の類などである”。
 また廉江の梁某は,黄師の友人であり,其の子は年三十で妻を娶ったが未だ嗣子がいない,性格は内向で,其の母が電話で曰く,子には近来常に滑精があるようだ,三四日に一回か,甚しければ一日に二回も,それが已に一月余りになる。
往診するのが羞しいので,電話で処方を求めてきた。
そこで此の処方に覆盆子、菟絲子を加えて,7剤出した。
黄師が再び梁某に電話をしたら,答えて謂うには服薬后,七日経つが未だ滑精はしていないと。
※『中医治法與方剤』(陳潮祖)には桂枝加竜骨牡蛎湯の病機を「陰陽両虚,疏泄太過」としている。
疏泄といえば肝経の機能だが、大脳皮膜説による心包とも関係が深い。

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