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少火は気を生ず

李翰卿という1892年生れで山西省霊丘県上沙坡村出身の中医師が居られます。
既に45年前に享年80歳で亡くなっておられますが、大変な名医だったようです。
1970年に宮外孕(子宮外妊娠)を中西医結合の非手術療法で治療したことで学会を驚かせたそうです。
晩年には山西省総工会職工医院、太原市工人療養院第二医院、山西省中医研究所任医務主任、副院長、所長を歴任されています。
この先生については現在、facebook 漢方/中医学 において「李翰卿語録220則」を逐次にアップしているところです。
『李翰卿医学全集』の中の「心力衰竭」という一節に、「心衰に陽虚多し、補陽には小剤を」の見出しがついています。
これが大変参考になるので紹介させていただきます。
 心力衰竭といえば,総方面から見ると心腎陽虚証であり,ゆえに真武湯加人参、杏仁を常用とする。
また本証は正虚邪実証である。
補陽すれば陰が支え切れず,補陰すれば陽が敗れる,だから用薬は僅かなミスでもあると病情を悪化させます。
 例如:患者和某,女,35歳,風湿性心臓病で,二尖辦の狭窄があり,咳血を20年も反復している。
2年前に某院にて手術后に全心衰竭が現われ,今に至るも改善されず,反って日々次第に重くなっている。
全身の浮腫に,尿少,呼吸困難,心悸心煩,平臥できない。
そこで改めて某医に請うて中薬治療をした。
医師は口渇身熱,心悸心煩,気短と喘,平臥できない,脈数にして結代(促代脈)を見て,心陰虧損と診た。
 処方:人参・麦冬・生地・黄連・五味子・石斛・甘草10 花粉・白芍15
并せてジゴキシン等の西薬を配合して服用させた。
服薬后,夜になって諸症は更に厳重さを加え,呼吸困難,神色慌張,死にそうな状態になった。
李老を迎えて診視してもらったところ,李老云く:患者には高度の水腫があり,心悸気短,これは心腎陽虚、水気上逆して凌犯心肺の象で,危証であるから,急ぎ真武湯加減で治すべし。
 処方:附子・人参・杏仁1 白芍・白朮・茯苓1.5
次の日の朝,浮腫は減軽し,尿量が増え,呼吸困難は明らかに改善した。
此の時李老は公務で繁忙だったので,筆者が代診したが,患者の家属は云く: “此の処方の量は小さくて効力が少ないのではないか,病情が深重だから,分量を増やせないのか?”
前医もたまたま其の側に居て,云く:“兵微にして将寡(すくな)し、豈に能く大敵を制せんや。”
余はそれを聴いて頗る道理だと感じて,すぐに原方を1O倍量にした。
次の日,家属が来て邀しく云うには:“症状が劇しくなったから,すぐに往診してくれ。”
李老は症状を聞いて,云く:“此の患は陰陽大衰に,水腫という実邪を兼ねている,正虚に邪実だから,陽を補えば忽ち陰が大傷し,煩躁が倍加する,陰を補えば忽ち陽気が支え切れなくなり,浮腫短気は更に甚しくなる。脈は一息に七回,且つ間歇しており,陰不恋陽だから,陽気が敗れてしまう,熱盛の実証でもなく,また陰虚有熱の虚証でもない,故に小剤を用いるしかないのだ。君は知らないのか《内経》に「少火は気を生じ,壮火は気を食らう」とあるのを! 此の病の用薬量は一歩間違えると,命に関わるのだ。”
余は其の意に従い,再び原方の原量とした。
1月の后,患者の呼吸困難は大いに改善し,浮腫は消失し,戸外活動まで出来るようになった。

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