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表証が無くても葛根湯は使える

 黄某,男性,50歳。黄師すなわち黄仕沛先生の甥である,師が初めてデビューした時,患者の父が栓閉塞性脈管炎を患い,黄師は大剤の四妙勇安湯で治療し,症状が好転し,肢を截らなければならなかったのを免れ,それからは忘年の交をするようになった。
患者の頚項背痛は已に多年にわたるが,仕事が繁忙で,疼痛時には自分で消炎止痛薬を服して暫くの間は急場を凌いでいた。
近年になり漸く腰項の屈伸俯仰に不利を覚え,疼痛は加重し,静止や、休息時にも甚しくなった。
止痛薬を服すと又胃痛も増した。
2008年7月には,“強直性脊柱炎”と診断され,其の妻が黄師に相談しにきた。
 此れは葛根湯の証だからと。
処方:葛根90,桂枝20,麻黄20(先煎),白芍60,防己30,白朮30,附子15,炙甘草30,大棗20,生姜10,砂仁10。
按:《傷寒論》第31条に曰く:“太陽病,項背強ばること几几として,無汗悪風する者は,葛根湯が之を主る”。
第15条:“太陽病で項背強ばること几几として,反って汗が出て悪風する者は,桂枝加葛根湯が之を主る”。
世人は此の両条を閲て,多くは太陽病の三字に着眼し;多くは汗の有無に着眼する。
若し太陽病に着眼すれば,此の方を解表剤としか見ないが,是れは窄い見方である。
其の原因を究めれば,仲景が項背強几几を治すにあたり,表証の是否に拘っていない。
如えば強直性脊柱炎とは一日にしてなった病ではないのに,どうして表証だろうか?
人は普通では自汗はない,故に仲景が項背強几几を治す意図は葛根湯にある。
人は普通では自汗はない,故に第15条の原文には“反”の字がひとつ多くなっている,桂枝加葛根湯を用いるのは,麻黄を用いるまでもないからだ。
麻黄は実は温経止痛の要薬であり,仲景の治痺の諸方には此の品が多い。
黄師は常に曰く,第35条の,麻黄湯の八大症は:“太陽病,頭痛,発熱,身疼,腰痛,骨節疼痛,悪風,無汗而喘”。
半分は疼痛であり,仲景の意が窺われる。
此の例では麻黄を20g用いているが,もう少し増やす余地がある,少なくとも,あと三剤は2~3g増やしたい。
此の例では30gまで増やしても,大汗淋漓はしなくて,更に心律失常も無く,胃痛も再発していない。
この一年は,腰背に痛みの戻りはなく,強直感覚も服薬前よりも軽い,その間に1、2周停薬しても,苦しくはなく,西薬よりも強い。
 患者の弟がアメリカに移住しているが,2009年10月10日に電話で腰椎間盤突出と,左側下肢の坐骨神経痛が出て1月程になるが,中西薬や、按摩も効かないと訴えてきた。
何か痛みを止める方法はないか?
黄師はまた葛根湯を與えようと告げた。
麻黄の用量は15gから始めて,二日ごとに3gづつ増やした。
15日に電話が来て:“4剤を服薬して,麻黄は18gになり,已に痛みはなく,仕事に戻った。また親戚に云ったら,坐骨神経痛を患って数年になるそうで,此の処方を彼女にあげてもいいかね”。
吾が師は穏やかに,どうぞ自由に薦めてくれと彼に云った。
10月18日に電話が来て:“もう痛まなくなった。方薬はまだ服しているが,2晩ほど汗が多くなった,他は変わりがない,麻黄は21gに増えている”。
師は答えて曰く:“停薬してもいいよ”。
 黄師の弟子の潘林平は深く感ずるところがあった,彼女は医師となって以来,病人第一を錦の御旗にしていたので,葛根湯の運用で頚椎綜合征に好い効果を得ている。
※《金匱要略・婦人産后病脈証治》に “新産血虚,多汗出,易中風,故令病痙” という条文があり、産后に亡血した状態で,復た汗をかき,風に遇い,ついに外風が内風を引動したのが「産後の柔中風」で、浅田宗伯が『勿語薬室方函口訣』で「42鎌倉岸、煙草舗、信濃屋金三郎の妻が、産後に肩や背中が強張り痛んで寝起きや寝返りを打つことができなくなくなった」のを千金方の独活葛根湯で治療したと述べています。
※何度も警告していますが、肩凝りに葛根湯を使ってはなりません。単なる筋肉疲労の肩凝りを「痙病である柔中風や強直性脊椎炎」と混同してはなりません。
※強直性脊椎炎は、頸部~背部~腰殿部、時に手足の関節の痛みやこわばりで始まり、これらの部位が次第に動かなくなる慢性の病気です。
 

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