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分量によって変わる川芎の効能

 かねてから酸棗仁湯は効かないなーと思っていましたが、その訳が分かったと思わせるような論説に出会いました。
1 小剤量 (3~6g)で祛風止痛
川芎は辛温で升散する , 性は善く疏通し,上行して頭目へ,旁達して肌腠へ,能く祛風散寒し,止痛する効果があり,頭痛、風湿痺痛に常用される。
外感頭痛では,風寒頭痛に《局方》川芎茶調散,風熱頭痛に《衛生宝鑑》川芎散,風湿頭痛に羌活勝湿湯,風寒夾湿頭痛に九味羌活湯,扶正祛風には小続命湯などである。
これらの類方中の剤量は一般に小さく,約3~6gである。
その理由は川芎の副作用にある。
如えば宋代の《本草衍義》には“川芎は辛散なので,久服しないように,多服すると人を卒暴死させる”とある。
近代の医家 蒲輔周も川芎を多用久服してはならないと云っている。
秦伯未は《謙斎医学講稿》中で曰く : “川芎で頭痛を治すには3gで宜しい,若し9gを服用すると后で反って頭暈欲吐を増す。”
川芎は気香竄で性温,其の力は上升下降し,外達内透し,至らざる所なし, 小剤量を用いれば其の辛散の性は,上行して頭目へ,外達して肌腠へゆき,祛風止痛する。これは上焦を治すには羽の如く,軽に非ざれば挙らずに従ったものである。
2 中剤量 (9~12g) で行気活血、止痛、安神
2.1  行気活血、止痛
 川芎は辛温で肝経、心経に入り,衝脈を行り,血中の気薬となり,清陽を助けて諸鬱を開く。
腹痛、脇痛、鬱証、湿瀉、血痢には皆之を用いる,如えば行気解鬱の越鞠丸,疏肝行気、和血止痛の柴胡疏肝散,活血祛瘀、行気止痛の血府逐瘀湯などがある。
癰疽瘡瘍、瘿瘤は皆 気血陰陽が滞ったものである,川芎は能く気血を和し陰陽を通してこれらを治す,如えば癰疽潰后に気血が皆虚した内補黄芪湯,活血消瘿の海藻玉壷湯などがある。
《本草綱目》中では川芎を佐薬として調血行気し,血痢で已に通じているのに痛みが止らず湿瀉となったものを治療している。
川芎が上述の方剤中で行気疏肝、和血止痛の功を発揮する,用量は約9~12gである。
朱丹渓曰く“気血が冲和すれば,万病は生ぜず。ひとたび怫鬱すれば,諸病が生ずる。故に人身の諸病は,鬱より生ずるもの多し。蒼朮、川芎は総て諸鬱を解す。凡そ鬱が中焦に在れば,蒼朮、川芎で其の気を開提し升げよ。”
川芎の行気疏肝、和血止痛の功効の主要作用は肝、胆、脾、胃にあるが,此の中焦気化の場所は,中焦を治すには衡の如く,平に非ずば安んぜずに準じている。
 ※治上焦如羽(非軽不挙),治中焦如衡(はかり)(非平不安);治下焦如権(おもり)(非重不沈)
中剤量の川芎は行気疏肝して気血を兼顧し,活血が主である。
川芎は血海へ下行し,活血、調経して止痛するので,瘀血腹痛、痛経に常用される,如えば温経散寒,祛瘀養血の温経湯,養血止血、暖宮調経の芎帰膠艾湯,養血調肝、健脾利湿の当帰芍薬散,活血化瘀、温経止痛の生化湯などがある。
現代研究では川芎に平滑肌の収縮抑制作用があることが立証されている。
2.2 疏肝活血安神
 肝は血を蔵し,血は魂を舎す ; 心は神を蔵し,血は心を養う。
肝血が不足すれば,魂は宿ることが出来ない ; 心が養われなければ虚煩失眠、心悸不安となる。
川芎は行気活血して心包経に入る,《本草綱目》に云く : “川芎は,血中の気薬也,肝は急を苦しむ,辛を以って補う,故に血虚に宜し。辛を以って散ずる,故に気鬱に宜し。”
川芎は肝血を調えて肝気を疏す,故に肝血不足の不寐に用いられる,如えば養血安神、清熱除煩の酸棗仁湯,丹渓の知柏四物湯※は血熱不寐を治す。
 ※熟地黄、当帰、川芎、赤芍、知母(酒炒)、黄柏(酒砂)、木通、甘草
《臨証指南医案》では肝陽不降による不寐に川芎を配伍し,蒲輔周は胸痺、心悸兼不寐の治療には常に川芎を配伍している。
此の類方中の川芎は亦多くは中等剤量であり,同時に大剤量の酸棗仁の如き養血安神薬を配伍して川芎の辛散の性を抑制している。
薬理研究でも川芎に鎮静作用があることが実証されている。
3  大剤量 (15g 以上) で頭風や血瘀頭痛を通絡止痛する
久病のため入絡し,血脈が不通となれば,川芎は気味が厚いが,それを重用しなければ祛瘀通絡できない。
《宣明論方》では川芎丸に川芎五両、天麻二両を用いて頭風を治している。
陳士鐸の《辨証録》中にある頭風の救破湯、救脳湯、散偏湯に用いられている,川芎剤量は一両であり,他の多くの配伍も他薬の数倍である。
現代の医家 杜雨茂、李寿山は久治不愈の頭痛の治療に大剤量の川芎を運用している。
用量は,湯剤で約15g 以上である。
薬理研究では大剤量の川芎には鎮痛作用がり,同時に血液の流れを改善する作用もあると実証されている。
川芎で頭風を治すために大剤量を用いるには先ず厳格な辨証をし,次に薬物配伍にも注意する必要がある。
正に《本草綱目》に云う如く : “川芎は耗散真気し易いので,久服できない,多服すれば人を暴亡する,しかし他薬を以って佐使とし,薬に五味を備え,四気の君臣佐使を具えておれば,害にはならない。”
風邪鬱久化熱の頭風には,大剤量の川芎に,石膏、石決明等の寒凉清熱平肝の品を配伍するのが宜しい ; 若し血瘀頭痛等の久病痼疾なら,大剤量の川芎で活血止痛し,并せて随証により補肝腎、平肝息風、化痰、活血通絡等の薬を配伍するのが宜しい。
本品を陰虚火旺、肝陽上亢及び気逆痰喘の痰火証に対応させるには慎重にしなければならない,本品は辛温升散で,助火傷陰するため、気火逆上の弊をもたらすからである。
この論説を読んで私がもっとも感じたのは、酸棗仁湯の酸棗仁は処方名にもなっている程だからこれが主成分だと思い易いが、実際は川芎が主成分で、酸棗仁は川芎の辛散性を抑制しているだけの役割ではないかということでした。
『中医治法與方剤』(陳潮祖)の酸棗仁湯の構成を見ると、酸棗仁・川芎20 茯苓・知母10 甘草5 となっていて、川芎の量が非常に大きい。
かつ量が大きくなければ中枢神経を抑制して安眠に達しないと断っている。
また病機を「血虚血滞,湿阻熱鬱」としており、脳の血流量が陽気入陰と深く関係しているという。
寝付きの良い人と悪い人の差は陰陽の偏りの外に、血行の流暢さの差にもあるのではなかろうか。
不眠という深刻な症状を改善するには酸棗仁という生ぬるい薬味ぐらいでは太刀打ちできないのではないかとかねてから思っていました。
川芎の強烈な薬性を、それも10g前後もの分量を必要としてはじめて可能となるのではないかと思うのです。

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