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重症筋無力

 賈某某,女,12歳,学生。
 患者は1969年6月に外感を受け,双眼瞼が発皺、下垂となり,午后が重く,また復視を伴った。
某医院では重症筋無力(眼型)と診断され,ネオスチグミンを用いて治愈した。
1975年6月中旬に再度受風して,眼球活動が制限され,咀嚼無力,呑咽困難,ひどくなると水を飲んでもむせた。
ネオスチグミン等の西薬を用いても,効果はなく,諸証は漸次加重していった。
1975年7月22日には発熱して呼吸困難を伴い,我が院の神経科では重症筋無力(全身型)と診断され、筋無力の危象及び肺部感染を発したものとして病房に収容された。
吸痰、酸素吸入、抗感染等の積極的救急を受け,筋無力危象及び肺部感染は危機を脱し,請われて中医会診をした。
 現症:精神委靡,面容憔悴,両眼瞼下垂無力で,眼は糸ほどしか開かない,復視,気短憋気,語声低微,咀嚼無力,頚項酸軟,全身は軟瘫に近く,歩行不能,両手の小指側の小魚際筋肉は軽度に萎縮している。舌淡,脈沈細。
 辨証立法:脾腎虚損,気血双虧,風邪復感による痿弱。
治は補脾腎、益気血により其の本を培い,疏風活絡によって其の標を顧る,方は補中益気湯加減とする。
 処方:生黄芪30、台党参・全当帰・柴胡・生白朮・広陳皮・清半夏・川断9、升麻6、云茯苓12、炙甘草3、桑寄生15。
毎日1剤,水煎服。
同時に患者には毎日 生黄芪30gの煎湯で眼胞を洗うように。
服薬1月后の再診:患者は仍お無力を感じ,多汗,四肢の遠端は厥冷し,舌淡,苔白膩,脈は濡軟。
此れは乃ち表陽不固,営衛失調の象である。
暫くは温脾腎、固表陽、和営衛法として治す。
 処方:川桂枝・杭白芍・云茯苓12克、炙甘草・制附片・生白朮・甘枸杞9、淡干姜4.5、台党参15。
毎日1剤,洗薬は前と同じ。
 上方を主とした加減方で治療すること1月,汗の出は次第に減少し,手足は温くなったが,他の証は同じであるので,仍お培補脾腎の原意を守ることにする。
 処方:生黄芪・台党参・云茯苓・杭白芍15、生白朮・熟地12、全当帰・川芎・制附片・川桂枝・仙霊脾・巴戟天・節菖蒲・炒遠志9、鶏血藤30。毎日1剤。
 患者の病情は日ましに好転し,身に力がつき,自由に歩行ができるようになり,飲食は正常になった。
ただ眼瞼下垂、復視の改善ははかばかしくないが,1975年12月下旬に出院し,后は中医科にて治療することにした。
 処方:生黄芪30、川桂枝・全当帰・赤白芍・仙霊脾・巴戟天・大熟地・黄精・千年健・功労葉15、制附片・淡干姜6、甘枸杞12。
 毎日1剤,水煎服,洗薬は前と同じ。
 上方を基礎とした加減方で治療すること三个月の后,患者の眼瞼下垂、復視は共に明らかに改善し,ひとりで百貨店等へ行けるようになった。
原方に疏風定痛丸を,早晩各服1丸加えて服し,散風通絡,攻補兼施とする。
1976年7月,復視が消失し,眼瞼上抬の力がついた,基本的に恢復したので,ネオスチグミンは退院時には毎日12片から6片に減った。
次いで疏風定痛丸を停服し,原湯薬方を丸薬に改めて療効を鞏固にする。
 処方:生黄芪・生山楂90、云茯苓・建神曲・千年健・金狗脊・功労葉・甘枸杞60、生白朮・川断・菟絲子・女貞子・巴戟天30、升麻15。
諸薬研末,制成蜜丸,毎丸重約9g,早晩各服1丸。
 1978年3月随診:患者の証情は穏定しており,ほぼ顔面筋はしまっているが,笑みは不自然である。
原方に地竜肉、烏梢蛇、鈎藤、白蒺藜等の祛風通絡の品を加え,蜜丸を制し続服させる。
ネオスチグミンは毎日3片に減った。
1978年12月,西薬は全部停用し,諸症は皆瘥えた。
患者の身体は壮健で,筋膚は豊満になり,復学后は功課優秀,体力活動は常人の如し。
[評析]中医には重症筋無力という病名は無い,其の証候特点から看て,頗る痿証や瘫痪に似ているが,然し真正の痿証や瘫痪とも違う。
痿証は《内経》中に在り“肺熱葉焦”の為すところ,“独り陽明に取る”というのが治療の大法である。
瘫痪は前人の多くが風痰の所中や気虚血瘀から立論している。
祝氏は,重症筋無力の病機の多くは脾腎虚損,気血不足に属すると認めている。
《霊枢·本神篇》に云く:“脾気が虚すれば則ち四肢は用を為さなくなる。”
《霊枢·大惑論》に云く:“五臓六腑の精気は皆目に上注する。精が散じれば則ち視岐となる,視岐とは物が二つ見えることである。”
《諸病源候論·睢目候》に亦云く:“目は臓腑気血の精華なり,若し血気が虚せば,皮は緩縦み,垂れて目を覆い,開く能わず,此れを睢目と呼ぶ。”
重症筋無力病は筋肉に在り,症は無力に在る。
脾は后天の本,気血生化の源なり,五臓六腑の精気は皆其の供養に頼る,四肢筋肉も均しく其の主持による;
腎は先天の本にして,作強の官なり,精を蔵し骨を主る。
若し脾腎が不足し,先后天倶に虚せば,精気は筋肉筋骨を充養できない,則ち四肢は痿軟となり瘫に似る;瞳神を上注できなければ則ち復視となり、斜視となる。
故に培補脾腎、益気養血、強筋壮骨するのが本病治本の法である。
 本案は脾腎虧損に属すると雖も,然し二度も風邪から誘発され,病程は纏綿として長く,症状は復雑であった。
祝氏は其の虚実夾雑の病情を根拠として,治療も亦大体三つのステップに分けた:
初期には温補脾腎,益気養血,扶正固本として,体力を恢復するよう,治は脾に重くした;
中期には疏風定痛丸を加服し散風通絡,攻補兼施とした;
后期には培補脾腎,強筋壮骨を以って,治は腎に重くし,然る后に改めて丸薬を制して緩やかにと意図した。
祝氏は黄芪を本病治療の要薬としている。
それは《本草備要》記載の,黄芪は“分肉を温め,腠理を実にする”に拠っている。
《本草正義》も亦云う“春令升発の性を具え,能く人の膚表筋肉に直達する”。
本案は黄芪煎湯を冲洗眼胞に外用し,病所へ直達させ,黄芪の内服により補気升陽,充養筋肉し,其の効果を互いに補完させている。
 ※誤嚥の原因は何か?を考えるに、先後天倶虚による脾腎両虚が筋無力症をもたらすからではないのかと思った。本例に習って黄芪を要薬とした補中益気湯加味方などを用いればどうだろうか?

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