伏邪の兆候
李可老中医の『急危重症疑難病経験専輯』に載っている古今医案には優れた知識が満載されています。
『古今医案---李可老中医急危重症疑難病経験専輯』(中国語)をしばらく振りで読み始めて、早速ひとつ拾いました。
日本語訳本は中医学に通じていない中国人の翻訳なので十分に意味が通じない所があります。
次の訳文は原文からの私流の翻訳です。
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孝義県呉西庄学校教師張巧愛,40歳。1980年夏来診。
風心病(リウマチ性心疾患)と冠心病の合并症状を炙甘草湯、参附竜牡救逆湯、丹参飲の合方加減で治した後で、病人がふと漏らした言葉から李可老中医が言及した按です。
患者曰く「10年来毎月経期には必ず感冒にかかり,一度 感冒にかかると,病情は重く,月経前の1日には突然寒熱して瘧の如くなり,嘔吐と耳聾が始まり,月経が終わると自然に愈えます。」
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按:風心病の多くは表邪入裏から来ている。
病程が長くなると,多くの病人は何故その病いになったか原因を忘れているし,医者もまた当面の病を治すだけで,病いの根源にまで追求しようとはしない。
その投剤は隔靴掻癢のごときで,本質的には何事も為し終えていない,投薬で暫くは治っていても,后で必ず再発する。
私の経験では,凡そ久治不効のものや、反復して起こる重病、頑症、痼疾,或いは季節毎に発する疾病には,必ず六淫外邪の深伏が隠れている。
“傷風醒めずば癆に変ず”(風邪は万病の本),とは民間の諺であるが深刻な病理、病機を喝破している。
邪が人に中れば,初めは必ず表に在る。
失治すれば表から裏に入り,正気は虚し,邪は深く陥入する。
いよいよ病邪が血分に深入し,五臓に侵入すると,“半死半生”の局面になってからやっと治療する羽目になる。
しかし伏邪があれば,必ず兆候が現れる。
邪正の相争,宿疾の発作は,便ち病邪が盤踞する経絡臓腑を顕示している。
此の時に,因勢利導し,扶正托透すれば,一挙に其の窠穴を破ることができる。
故に《内経》に説く“善く治す者は皮毛を治す”,是れは単に表証の立法であるだけでなく,また重、難、痼証を治療する法宝でもある。
“諸症は当に先ず表を解すべし”とこの一条は極めて平淡な治法であるが,神奇な妙用を持っている。
本病例の風心病は重病10年にして,邪入血室となってからまた10年に達し,毎月の経前に発病することが,本症の奥秘を暴露している。
一味黒芥穂は血分に深入し,生丹参を、小柴胡湯内に加入し,益気扶正,活血温経,和解表裏すれば,10年の伏邪を外透させることが出来,此れによって平地を歩くように,痼疾でも治癒させることが出来る。
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処方:丹参、当帰、坤草、生半夏30 赤芍15 沢蘭葉、酒香附12 柴胡、紅参(另燉)、霊脂、川芎、酒芩、干姜(炒)、桃仁、炙草10 黒芥穂6 生姜10片 棗10枚
6剤を投与し,毎月経前の一日に,3剤を連服させる。
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又これまでに治した心衰水腫病人の多くの例で,病程の多くは10~30年と色々だが,どれにもみな寒邪外感の病暦があった,寒邪が深く少陰に伏しているだろうと考えて,対症方内に麻黄、細辛を加入して,肺気を開提し,伏邪を透発して,微汗を得た后に水腫は迅速に消退して愈えた。
※重病、頑症の真犯人は伏邪である。これが動く時こそ治療の時。因勢利導(病の勢いに乗じて外へ引っ張り出す)して根源を治す。うっかり見過ごしているところに伏邪がチラ見えしている。
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