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葛根湯の誤案

 康某とは,黄師(黄仕沛)の姐さんですが,吾輩は“師姑媽”と呼んでいます,年は70ほどで,今も経方の研究をしています。
糖尿病、頚椎病、骨質疏松、老年退行性骨関節病の病歴があります。
今年3月に,毎夜片側の足のつま先~脛にかけて攣急疼痛の発作を起こした,それも夜間に多く,毎夜一回は起こり,毎回3~5分間続き,痛くて眠れない。
以前葛根湯と骨質疏松改善薬物を服用して緩解した事がある。
近日はまた発作が頻繁になり,攣急は両側の腓腸筋にまで及び,毎夜発作は二三回となった,グルコサミンカプセルを服用しても症状は改善せず,2010年5月31日にとうとう黄師に治療を求めてきた。
 此れは本来なら芍薬甘草湯の証なのだが,ほかに肩頚疼痛も伴っている,故に葛根湯加北芪とする,
処方:北芪90,葛根60,麻黄10,桂枝15,白芍60,炙甘草30,大棗15,生姜10,3剤。
服薬后 肩頚の疼痛は緩解し,両脚の攣急も減ったが,ただ一晩中睡れない。
 6月7日,続けて葛根湯剤を服用したが第1剤を飲んだ后でも,夜間の両側の腓腸筋の抽痛が頻繁に起こった,つま先が尤もひどく,毎晩三四回,いずれも薬油で按摩しても緩解せず,一晩中睡れないのは大変つらい。
おまけに数日前から夜になると怕冷がひどい,手足凉,神疲倦怠,少気無力,腹痛,脇痛,大便溏となった。
 6月11日,黄師は,此れは麻、葛が陽気を傷つけたのだと悟った,すぐに桂枝加附子湯に改め,生姜を干姜に易えて,
処方:北芪60,桂枝30,白芍60,赤芍30,炙甘草30,大棗20,干姜20,附子24。4剤。
服薬した当晩は発作が一回だけあったが,甚だ軽く,夜は安睡できた,次の朝 非常に喜んで黄師に電話してきた。
 6月15日,再び上方を5剤。以後発作は起こっていない。
 按:事后に黄師は此の案の誤りは葛根湯にある,良い経験になったと云った,すべては第29、30条中に論じられている。
脚攣急は本もと芍薬甘草湯の証である。
黄師は当時 肩頚疼痛もあったので,芍薬甘草湯の二味だけでは,制止できないと考えて,葛根湯を投じた。
服后の夜に不眠となったのは,警告だったのに,更に原方を誤投した,まさに“一逆なら一日だけだが,再逆となれば命にかかわる”である。
陽気が再び傷つけられたのは明らかである,故に肢凉畏冷、神疲乏力、便溏等が現れた。
 《傷寒論》第29条に曰く:“傷寒脈浮,自汗出,小便数,心煩,微悪寒,脚攣急するに,反って桂枝湯を與えて其の表を攻めんと欲するのは,此れ誤り也”。
然し此の証の初めは未だ自汗出、小便数、心煩、悪寒等の陽虚証は無かったが,病者は以前から多病で,陽本が不足していた。
葛根湯を服した后で,未だ汗は出ておらず,一晩中眠れなかっただけだが,已に麻黄剤を服するのは宜しくない事を示していたのである。
“反って桂枝湯を與えて其の表を攻めんと欲する”のは“誤也”。
葛根湯が表を攻めて陽を奪う激しさは桂枝湯の程度ではない,それを一再ならず投じて,陽虚の証が突然現れ,脚攣急が加重したのは,当然である。
此の時には“甘草干姜湯を作り與えて,其の陽を復せ”,然る后に“若し厥が愈えて足が温まる”なら、その后に,“更に芍薬甘草湯を作り與えれば,其の脚はすぐに伸びる”。
幸いに陽虚の兆があったので,すぐに迷った途から引き返し,桂枝加附子湯を投じて,傷ついた陽を挽回できた。
 仲景は三つの錦嚢を原備している:
①第29条:“作甘草干姜湯以復其陽”。
②第68条:“発汗,病不解,反悪寒者,虚故也,芍薬甘草附子湯主之”。
③第30条:“病形象桂枝,因加附子参其間”。
第20条:“太陽病,発汗,遂漏不止,其人悪風,小便難,四肢微急,難以屈伸者,桂枝加附子湯主之”。
甘草干姜湯は最も軽い;芍薬甘草附子湯は稍重い;桂枝加附子湯は更に重い。
黄師は桂枝加附子湯を選び且つ生姜を干姜に易え,両方から同時に進めて,逆境を切り抜け,終いに無事を得た。
 仲景の書はどこを取っても疎かには読めない!
(若し舌象が分かっておれば,此のような誤りはしていなかっただろう。どうして死の一歩手前まで行くものか!)
   经方亦步亦趋录 より
※葛根湯の奪陽する激しさは半端無いものがある。エキスの分量が少なくて難を逃れているというのが我が国の現実ではないだろうか?

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