傷寒戦汗案
『通俗傷寒論』については本ブログで六回にわたり報告をした事がある。
その通俗傷寒派の学風を「紹派傷寒」ともいい、この度は中国中医薬出版社の『紹派傷寒名家験案精選』を入手したので、その一部の意訳をしたいと思います。
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余嘗つて一衰翁を治した,年は七十を越えている,突然傷寒を患い,初起にすぐ温補を用いて調理し,十日以上して,正気が将に復さんとして,急に戦慄しはじめ,夜明けから辰の刻(九時)になるも,汗が出ず,寒戦するばかりで危険となり,急ぎ余が呼ばれた。
余は六味回陽飲を用い,人参一両,姜附各三銭を入れ,煎服させた。
飲んで少しした頃から,大汗が出て浴るが如くなり,時将に正午に及ぶが,浸汗は収らず,身は冷えて虚脱するが如く,鼻息は無くなり,復た余を呼びにきた。
余は前薬を,復た與えた。
呼びにきた者曰く,先に服したのも此の薬で,已に大汗して堪えず,今又此れを服せば,はたして再汗に堪えられるだろうか?
余笑って曰わく,此の中に神あり,あなたには分からないだろうが。
急ぎ再進させると,遂に汗は収まり神が回復し,旬日ならずして起きることができた。
嗚呼!発汗に此れを用い,収汗にも復た此れを用いるとは,人々の疑念もまた不思議ではない。しかし汗が出たり収まったりするのは,皆元気が為すことです。
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按:傷寒の戦汗は,本虚にして正邪交争の象なり。
景嶽は嘗つて曰く:"傷寒解せんと欲して,将に汗ある時は,若し其の人が本虚で,邪と正の争いが,微なれば振え,甚しければ戦き,正が邪に勝てば戦汗して解す。"
此の案は高年にて陽は衰えており,寒邪が外感しても,戦しても汗が出ず,六味回陽飲を進めたのは,正を助け邪に敵対する為です。
薬后に周身から汗が出て,四肢が温転するのは佳い,反って大汗が洗うが如くなり,身冷えて虚脱の如くなるのは,元気の本が衰え,正気が続かないからである。
景嶽は復た原方を授けて,回陽救逆し,本の元気を壮実にした。
先后二度の授薬は,一つは治陽逐邪のため,一つは温陽救急のためである,"元気"を把握すれば即ち開闔の枢機は,放つも収めるも,運用は自在となる,汗を見て汗を治すのと同日に語るべからず。
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附:六味回陽飲(人参10~20,制附子2~3,炙甘草1~2,炮干姜2~3,熟地5~10,当帰3)
《紹派傷寒名家 験案精選》張景嶽医案 より
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