食停小腹大攻無効案
食に因る腹痛,或いは滞物に因る腹痛は,皆中脘に停積するから,須らく食事法にて治すのが,正法である。
然し又小腹に食停する者もある,
余は嘗つて一上舎を治したことがある,年のころ三旬,午後に水煮面角(茹で麺)を食べたが,夜になって,食が小腹に及び,下って右側に至ると,停積したまま行かなくなり,堅く拳のように突出した,大きさは鵝卵の如く,痛みの劇しさは,名状しがたい。
余は治に当たり,明らかに麺積であることは,顕らかで疑いが無い,然かも已に大腸に入っている,此れは正しく通ずれば痛まずの証である。
そこで木香檳榔丸を與え,連下すること二三回,其の痛み故の如し,因って薬力が緩かったために,未だ病に及ばなかったかと疑い,更に神祐丸を投じて瀉したが,又効かなかった。
余は此れはきっと薬性が皆寒だったので,滞って行らないのだと謂った。
因って再び温性の備急丸を投じた,連続して大瀉を得ると雖も,堅痛は毫も減らず。
これは,麺に因るものではないのではないか?
これだけやっても及ばないなら,借気を以って行らす以外にはないのではないか。
麺毒は大蒜に非ざれば殺せず,気滞は木香に非ざれば行らず,又其の滞は深く穀道は遠い,精鋭のものに非ざれば送れず,そこで火酒に木香末を混ぜ込み,生蒜一瓣を嚼ませ,香酒で飲み込ませた。
一服の后,痛みが稍や減るように感じた,三四服の后,痛みは漸く止り食も漸く進み,痊愈することが出来た。
然し痛みが止り食が進んだと雖も,小腹の塊は仍お在り,その后半年許りして,始めて消尽した。
是れに由り,食滞を消したくても,大黄、巴豆の及ばぬ所がある事が分かる,そういう時は行気を先にするのが宜しい。
飲食下行の道は,必ず小腹の下右角間より,広腸へと出る,此れは古えより誰も言及していない,故にここに筆記し広く人に知らせよう。
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按:病が下に在れば下より解するのが宜しい,勢いに因り治すのである。
食停が小腹にあれば,治は攻下を用いる,それは"下に在る者は引いて出す"という目的に沿うものだからです。
但し数投しても応じなければ,もっと深く思索しなければならない。
景嶽は潜思静慮して,終いに食の停る所を悟り,また寒熱の差を考え,麦性が寒に偏し,寒が留れば気も滞るからと,治すには"行気を先にする"のが宜しいとした。
薬に大蒜、木香の,辛香流気の品を選び,麦の毒を解して壅滞の気を行らせるのに,さらに善く行る酒を引とし,病所に直達させた。
薬は簡単で力が強く,配伍をよく考えているのは,吾輩の鑑とするに値する。
《紹派傷寒名家 験案精選》張景嶽医案 より
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