陰寒中臓
中寒治案六則-2
ある厳冬に忽ち陰寒に感じ,唇青く身は冷え,手足の筋脈は拘急し,吐瀉し,心腹は痛み,嚢は縮まり,指の甲は青く,腰は俯仰し艱い,此れは陰寒中臓である。
中臓は中腑より重い,寒が五臓に入ると,分治した方が宜しいようだが,然し必ずしも分けることはない,直かに命門の火を温めれば,諸臓の寒は尽く散ずる。
命門は十二経の主なり,主が亡ばなければ,心君は殿から下らず;肝木は游魂することなく,肺金は魄散とならず,脾土は崩解せず。
惟だ命門が既に寒となれば,陽は陰に逼られ,腎外に越出すれば,五臓は独り安んずる能わず,各おの陽に随って倶に遁る。
故に中臓は必ずしも五臓を治すことはない,命門を温めれば寒邪は解する。
然りと雖も,五臓が虚せば,大兵は到る処にあり,群妖を掃蕩しようとしても,粮草なし,どうして命を保てるか?
此の命門は温めるのが宜しく,五臓の気も亦補うことが出来る。
蕩陰救命湯:人参10 白朮・熟地・附子・茯神2 肉桂1 棗皮(山茱萸)2。
一剤で陽は回復し,再剤にて痊愈す。
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鐸按:どうして神速なのか?
寒が五臓に入ると,命門の陽は外へ出されるが,其の陽を回復させれば, 寒気は臓に留まらない。
方用の参、朮は君で,心、脾を救う,附、桂、棗皮で,腎も亦救われる,肺、肝が独り缺けるが,回陽に一刻を争うのだから構っておられようか?
五臓を寒邪が犯すことは無い,大体は腎を犯した后では脾を犯し、心を犯し,ついには肺を犯すが、肝は余り犯さない。
故に専ら心、腎、脾を固めれば,肺、肝は已に守られている,況んや参、附を并用すれば,達しない経は無い,肝肺に入らない事があろうか?
況んや補肝、補肺は皆収斂薬であり,祛邪には出させてこそ,どうして邪を留めて入らせるのか?
倘お収斂を用いて肝、肺を補い,反って参、附の手を制しては,迅く蕩陰はできない。
此れは用薬に雑ならざるの,秘義である。
或いは収斂で肝肺を補うことは出来ないと云っているのに,どうして熟地、棗皮で補腎できようか?
嗟呼!此れは又通らない論である。
腎中の水火は元より相い離れず,附、桂の大熱は回陽するが,腎中が干燥する事は免れない,しかし回陽の后に腎水を補って済陽すればよい,何も火が必要な時に微かな事をして得があろうか。
ゆえに附、桂の中に熟地、棗皮を用いないのは,火を制する事のないようにする為である。
且つ火は水を得て帰原し,水は火を招いて宅に入る。
紹派傷寒名家験案精選 陳士鐸医案より
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