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神香散治脹満案

余は嘗つて娘婿を治した,若くて壮健だったが,日頃から飲酒も亦多く,暴飲飽食だった。
ある日,偶たま飯后に脇肋が大いに痛み,自ら行気化滞等の薬を服し,復た吐法を用い,尽く飯食を出し,吐した后,逆気が上升し,脇痛は止ったが,胸膈が壅がり,脹痛が更に甚しくなり,且つ嘔吐まで加わった。
余は行滞、破気等の薬を用いて,嘔痛は漸らく止ったが,左乳胸脇の下に,結聚が一塊あり,脹実で拒按の状態である,臍腹は閉じて,下達(便通)がない,戌、亥、子、丑と時が過ぎると,脹は募るばかり,嘔吐は既に止っているから,今や下すべきであると,凡そ大黄、芒硝、稜、莪、巴豆等の薬や,蘿卜子、朴硝、大蒜、桔葉を搗いて罨法をするなど,すべてやったが,毫も効かず,攻めれば攻めるほど愈よ脹ってくる。
因って脾気受傷かと疑い,補を用いたが,良くもならず,二十余日間は湯水さえ入らなくなり,もはや施す手立てがなく,斃を待つばかりで,只手で其処を揉按するだけだった。
彼云わく:"脇下の一点を,按着すると痛みが胸腹へ連なる。"
そこで仔細に探ると,そこは正に章門穴である。
章門は,脾の募で,臓の会であり,且つ乳下肋間は,正に虚里の大絡に属し,胃気が出る道路である,気は実に章門へ通じているではないか。
余は日中に軽く夜に重いと誤ったが,本より有形の積には非ず,而も此れを按ずれば彼へと連なるので,病が気分に在ることは疑いなし。
それを湯薬を用いて気病を治そうとした,本はそれで善かったが,然しもはや火事は広まってしまって後が無い。
そこで神香散を制し,日に三四回服させ,文火灸を章門に十四壮兼用し,其の結滞している胃気を逐散した。
三日ならずして,脹は果して漸く平となり,食は漸く進み,始めて保全することを得た。
此の証治は倶に奇にして,誠に測り難きものであった。
本年の春に,一隣人が急に痛脹隔食を患い,全く此れと同じだった,群医は攻撃を極め尽したが,竟いに斃んでしまった,是れは真に法を会得していなかったからである。
故に此を記録して后人への戒めとする。
按:経に曰わく:"中満者は内を瀉せ(消導理気のこと)。"
酒食の厚味に因り,気滞となった脾胃は,病むと,症情は実でも,治は其の有余を削るに在り。
然も涌吐して去るべきに非ず,又攻下して宜しき所に非ず。
病は気分に在り,乃ち無形の気の為す所にして,実物積聚の故に非ず,初めに行滞破気を投じれば,以って小安を得る。
然るに脹満が日久となり,正気は已に耗し,結はいよいよ結し,虚はいよいよ虚したので,遂に改めて神香散を投じた,薬用した丁香、豆蔻は温中快気であり,復た艾灸を加えて,経気を温通し,補と行を兼ね,標本兼顧し,やっと保全することを得た。
是れで脹満は攻めるだけではダメだと分かる。
附:神香散は丁香、白豆蔻(又は砂仁でも可),二味等分を末とし,清湯にて五~八分を調下する,甚しければ一銭とし,日に数服しても拘わない。
 《紹派傷寒名家 験案精選》張景嶽医案 より

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