四肢煩熱1
手足の煩熱について、日本では大塚敬節の三物黄芩湯の治験例が有名です。
《漢方診療三十年》:“33歳の婦女。4年前に出産し,その后ずーっと不眠である。また手足の灼熱に苦しみ,ほてりの為に眠れない。三物黄芩湯を1周用いたら,6-7時間ほど眠れるようになり,手足の煩熱も亦無くなった。”
しかしこの処方は本来は産褥熱に使われるものです。
それが何でもない日常的な足心熱に使えるものなのか、特に清熱薬の黄芩・苦参の必要があるのかは疑問です。(必要なのは地黄だけではないか?)
以下に中医の治験例を引用して諸氏の判断を乞うものです。
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王某,女,32歳,病案号29654。
初診日期1965年4月2日:もともと脾腫大で,血小板減少のため,常に鼻衄と口糜があった。
3月11日に口糜を患い,半夏瀉心湯加生石膏、生地黄を三剤服して愈えた。
今回の発作は一周前からである。
舌と下唇に潰爛ができ,痛み甚しく,口苦く咽干き,心煩ありて飲みたがる,鼻衄,苔白,舌紅,脈弦細数。
胡老は処方を改めた:生地黄8銭,苦参3銭,黄芩3銭,炙甘草2銭,茜草2銭。
二診:4月9日:上薬を三剤服して,口糜は愈え,鼻衄も止まった。
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【按語】処方箋を開いて,学生は胡老に問うた,本患者にどうして甘草瀉心湯加減を用いないのか?
胡老は説いた:“本例は上熱下寒の甘草瀉心湯の方証ではなく,裏熱、上熱が明らかで三物黄芩湯の方証である。”
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《金匱要略·婦人産后病》附方または《千金》三物黄芩湯:婦人草褥で薄着をして風を得て,四肢煩熱に苦しみ,頭痛する者を治す,小柴胡湯を与う;頭が痛まず但だ煩すれば,三物黄芩湯を与う,
胡老は此の条に注解した:“産后の中風で,病が久しく解せず,煩熱するようになった。若し頭痛を兼ねれば,小柴胡湯を与えればすぐに解する。如し頭が痛まず但だ煩熱するなら,已に労熱と成っているから,三物黄芩湯が宜しい,虚労や諸失血后に此の証が多いから,注意すると宜しい。“
此れを読んでようやく豁然と理解した,その患者には鼻衄、心煩等があり,裏熱が明らかである,同時にまた津液が傷ついているのも明らかである,因って此れは清熱するだけではなく,生津する必要がある。
治療時には黄芩、苦参の苦寒清熱を用いると同時に,生地黄、茜草の凉血清熱,生津増液を重用すれば,薬后には熱は除かれ津が生ずるので,衄は止り、口糜が消える。
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甘草瀉心湯方証を講じていた時,胡老はある故事を語った:1970年の夏のこと河南から帰って来た時,呂尚清院長が云うには,ある某部の女軍人を数回診察していたら,数年前にベーチェット氏病に患り,胡老にかかって治愈した事があり,イタリヤに住んでいて病が又再発したので,今回も胡老の診治を受けたいと。
この西医の病名については知らなかったので,聴いて愕然とした。
あまりにも昔のことなので,胡老にはもう記憶がなかったが,問答してみると,数年前に,その患者が口糜と前陰の蝕瘡を合并して訪ねて来て,中薬を服して治愈したことがあった。
それが再発して,イタリヤではベーチェット氏病と診断された,口腔と前陰に蝕瘡があるのが主症だったので,甘草瀉心湯加生石膏を与えて服させ,別に苦参湯を与えて下陰を熏洗させたら,まもなく治った。
その時の治験例:炙甘草5銭,半夏4銭,党参1銭.黄芩3銭,黄連2銭,大棗四枚,干姜2銭,生石膏一両半。
苦参湯:苦参2両,煎湯にて坐浴する。
胡希恕治療口腔潰瘍案例 より
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