中医学実践の理論 1.傷風咳嗽
中医学は実践医学であるとは云え、理論が無い訳ではない。
どんな理論なのかについての概論の書は幾つか出ているが、実際の臨床でどのように応用されているかは余り紹介されていない。
このたび良書に巡り会ったので参考までにご披露します。
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1.傷風咳嗽
傷風咳嗽とは、肺気不清と,風邪の外傷に因り,皮毛が閉束し,営衛が失調し,肺気が上逆したものである。
【脈証機理】
肺は皮毛を主り衛気を司り,清粛降斂を以って性と為す。
中気不健の人は,営衛が失和となり,一旦外に風邪の感襲を被ると,皮毛を閉束し,肺気は降斂を失い,上熱を鬱生し,痰涕を化生し,清道を阻滞し,咳嗽を作す。
出し足りなければ,噴嚏を作す。
初起には風邪が閉束し,衛気は宣びず,肺は粛降を失う,故に淅淅と悪風し,涕泪は交流し,身困煩熱の症となる。
継いで肺気が堙鬱する,故に白涕が膠粘となり,鼻塞して不通の症となる。
鬱久しく不解なれば,化熱は傷肺する,故に痰涕は黄稠となり,膠粘して膿の如く,鼻咽は干渋し,咳嗽連声の症となる。
風邪が衛を犯せば,肺気は上逆する,故に脈は浮虚、関寸大を現わす。
邪が衛表に在りて,裏気は未傷なる,所以に舌苔は白薄、舌質は淡紅である。
【治則】
清肺解表,理気降逆,化痰止咳。
【按語】
傷風咳嗽とは,肺気が不清なところへ,風邪が感襲したものであり,傷寒・中風・風熱の外感とは異なる。
傷寒・中風とは,俗称を“重感冒”といい,仲景の《傷寒論》の論述に詳しい。
風熱の外感とは,俗称を“熱感冒”といい,后世の温熱派医家の論述に詳しい。
脾は己土にして湿を主り,肺は辛金にして脾から気化される。
脾湿が素もと重い人は,肺胃が壅滞して降らず,鬱して肺熱を生ずるや,痰涎を化生し,清道を阻塞する。
外に風邪の感襲を被れば,表裏は双鬱となり,傷風咳嗽を病む。
傷風咳嗽の初起は,肺衛に風邪が鬱して,肺胃双困となり,咳痰は清稀で出し易くなる。
継いで正邪が相い争うと,痰色は白粘となり,咳唾しても出し難くなる。
数日の后に,痰色が淡黄に変れば,正気が邪に勝ち,駆邪外出の兆である。
病者が若し能く寒温を調節し,飲食を調えておれば,医者も針薬も不要で,成り行きに任せれば,数日で愈える。
之に反せば,風邪は化熱して,裏に入り傷肺し,痰は黄稠で膿の如くなり,膠粘のため咳出し難くなれば,肺熱鬱隆の段階になる。
ゆえに傷風咳嗽は,軽い病気だが,軽視して,治療すべき時に治しておかないと,他変を生ずる事になる。
いわゆる“清肺”とは,肺に清粛を回復する常法を指し,ただ凉肺・潤肺の品を用いるだけでなく,其の鬱熱を清する事を指す也。
肺は華盖にして,其の体は嬌嫩,其の気は清粛,性は温潤を喜び,燥熱を悪む。
肺が清粛なれば,能く降斂す;肺気が不清だと,胸膈は滞塞し,悶満を作し,或いは失粛して上逆し,咳喘を作す。
また寒・熱・温・凉・湿・燥の諸邪は,みな肺気不清をもたらすが,其の治療は全て清肺である。
医者が清肺の法として,凉肺・潤肺ばかりに限局すれば,寒湿に感じた傷風咳嗽を,久しく愈せず,他変を生ずることになる。
肺は燥を悪み,降斂を主るゆえ,桂枝の気温,性升散を,肺の諸疾に,多用するのは宜しくない。
痰飲の咳嗽に桂枝を用いるのは,咳嗽の原因が痰飲だから構わない。
痰飲化生の源は脾に在りて肺には在らず,桂枝を用いる意は脾湿によって鬱陥された肝気を温升するに在る。
病機が違えば,用薬は異なる,肺が桂枝を悪む事とは関わりがない。
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なお以下のページも参照してください。1.傷風咳嗽
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