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雷頭風,側頭動脈炎性失明

『中医臨床』v31-2(2010年6月) 丁元慶 治験報告No.4
患者:女性,53歳。
初診日:2004年11月10日
最初は側頭部と太陽穴のあたりに拍動性の頭痛が現れ,痛みが激しく熱をもったような感覚がありました。7日後になってはじめて右目の視力が落ちていることに気付き,そのうち光も感じられなくなって,最後にはまったく見えなくなりました。
今でも側頭部が痛くて眼窩の方まで痛みます。それに治療効果が芳しくないものですから,情緒が不安定になっています。胸のあたりがモヤモヤして,口が乾いて疲労感もあります。それに頭痛は夜間にひどくなるのでなかなか寝付けません。右側頭動脈の拍動は消失しており,接触痛が顕著である。
舌診:舌質淡紅,舌苔黄膩
西洋医学的診断:右側頭動脈炎,糖尿病,糖尿病性網膜症
中医診断:少陽頭痛,雷頭風
証名:湿熱挟毒,上攻頭目,脈絡瘀滞,清気不達,閉阻清竅
【治法】清熱解毒,利湿通絡,疏理気血,明目止痛
【処方】清震湯『素問病機宜保命集』加減(土茯苓90 升麻15 荷葉12 蒼朮9 羚羊角粉1(冲服), 当帰18 川芎9 天麻15 浙貝母15 珍珠粉2(冲服) 7剤。
1.5000mlの冷水に土茯苓を2時間浸し,まず20分煎じ,冷めるまで置いてから薬剤を取り除く。その煎じ液でその他の薬剤を2時間浸し,煎じ液が500mlになるまで煎じる。朝晩の2回に分け,食後薬液を温めてから服用する。
患者の頭痛は側頭部に発生しており,少陽頭痛に属する。頭痛が現れ,腫れものが発生するものを中医では「雷頭風」と呼ぶ。雷頭風の病因・病機は複雑であるが,湿熱・酒毒が循環して上部を攻め,少陽の経脈を塞いで有形の瘀結が発生するケースが多い。
第2診(2004年11月17日)
3剤服用後,右側頭部の激痛は基本的に消失したが,ときに太陽穴を中心に隠痛が現れる。睡眠は改善され,すぐに眠りに就くことができるようなり,口乾もなくなり便も正常になった。右目の視力はまだ回復せず,光を感じることができない。側頭部の接触痛はなくなったが,側頭動脈の拍動はまだ感じられない。
湿熱が徐々に化したが,陰虧の象が現れ始めた。石斛・枸杞子15を加え14剤。
第3診(2004年12月1曰)
頭痛は緩和され,すでに10日間発生していない。睡眠も良好。1週間前の早朝,目覚めたときに光を感じ,カーテン越しの光を見ることができた。右側頭部の接触痛はなく,側頭動脈の拍動を感じることができるようになった。
舌診:舌質淡紅,舌苔薄白膩
「久病入絡」「久痛入絡」を考えて,さらに益陰養血,栄絡通竅,柔肝明目も兼ねるようにする。
【処方】土茯苓30 升麻・蟬退・菊花15 羚羊角粉1(冲服) 全当帰20 川芎12 天麻・枸杞子15 珍珠粉2(冲服) 水紅花子15 12剤
第4診(2004年12月18曰)
20日以上頭痛が現れていない。また右目の視力もだいぶ回復してきた(矯正視力:0.4)
【処方】熟地黄18 全当帰20 菊花・丹参15 石菖蒲12 珍珠粉2(冲服) 酸棗仁30 天麻15 葛根・枸杞子15 珍珠母24 水紅花子15 18剤
本処方を飲み終えた後は中薬服用を停止するように指導。
【体得】
土茯苓は頭風痛(風邪による頭痛)や厥頭痛(経気の逆乱により現れる頭痛)の治療にも使用される。雷頭風の「腫」「赤」という症状は,湿熱挟毒の象である。このため治療には「清」「解」「疏」「利」の法を用いる必要があり,それには土茯苓が最も相応しい。ただし土茯苓の薬効は軽く希薄であるため,このような重い証に対しては多量に使用しなければその役割が果たせない。
側頭動脈炎の腫痛は耐えがたく,腫毒に属する。
升麻は辛味でやや甘く,弱寒性で肺・脾・胃・大腸経に入る。清熱解毒,昇挙陽気,疏散透達の作用があり,『名医別録』には「頭痛,寒熱,風腫,諸毒を治療する」と記されている。
荷葉は苦・渋味で平性であり,色は青く香り高く,形は「盂」(液体を入れる鉢のような器)のようである。その象は八卦の「震」(震は盂,雷を表す)に属し,胃中の清陽の気が上昇するのを助け,さらに胃気を固めて邪気が身体の裏まで伝わらないようにすることができる。
羚羊粉と珍珠粉を冲服し,清熱解毒・涼肝明目の効果を引き出している。珍珠粉は甘・鹹味で寒性であり,心・肝経に入って,鎮心定驚・明目退翳・解毒生肌の作用がある。
 ※雷頭風という病名を見てもどんな病気かを知らなかったがこれで少しは見当がつく。
 ※日本では余り使われていない土茯苓(山帰来 サルトリイバラ)の徹底利用です。土茯苓は古くは梅毒の治療薬に水銀が用いられていた時代に、水銀中毒を防ぐために併用された歴史があり、また便秘薬の毒掃丸の原料にもなっている。

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