外傷性延髄損傷
『中医臨床』v32-1(2011年3月) 丁元慶 治験報告No.7
患者:男性,39歳。
初診曰:2008年5月14日
2008年4月10,出張先でベッドから起き上がったときに,めまいを起こして転倒した。転倒後しばらくは意識が朦朧としており,約2時間後に自然に意識を取り戻した。意識を取り戾してから,上肢がうまく動かない・言葉がはっきりしない・嚥下障害・舌を伸ばせないなどの症状が現れたため,検査入院をし,外傷性延髄損傷と診断された。
現症状:上肢は両側ともあげる力が弱く,言語もはっきりせず鼻音がやや強い。歩行は正常でめまいもないが,ときおり頭痛がする。
舌診:舌質喑紅,舌苔白膩
【中医学的診断】外傷性瘖痱
【西洋医学的診断】外傷性延髄損傷
【弁証】気虚陰虧・瘀血生風
【治法】益気補虚・養陰生髄・活血舒筋・通絡利竅
外傷後には経脈不利・気血虧損・肝腎不足も発生するので,治療には外傷による瘀血阻絡のみにこだわってはならない。
【処方】当帰補血湯+地黄飲子加減
生黄耆30,当帰15,石解18,熟地黄24,淫羊藿12,天麻・丹参15,防風9,石菖蒲15,遠志10,烏梢蛇20,亀板15, 7剤。
第2診(5月23曰)
上半身が重く感じるのは,経脈痹阻により陽気不暢となっているためである。
【処方】前回+黄柏12,桑枝30,浮小麦30,丹参を30に増加。7剤。
第3診(5月30曰)
ときどき頭皮に発作性の疼痛がある。
治療には通陽気・柔肝気・舒筋脈を行う必要がある。
【処方】前回処方-浮小麦,防風,天麻を24に増加,+葛根・酸棗仁30 7剤。
第4診(6月5曰)
陽気が徐々にスムーズに流れるようになり,肝気も日々柔軟さを増して,機竅が通るようになったことから,頭痛が軽減して言葉も滑らかになり,上肢に力が入るようになった。
【処方】生黄耆30,当帰・葛根・明天麻・威霊仙15,紅花6,蘇木・穿山甲9,酸棗仁24,鬱金15,枸杞子20, 6剤。
第5診(6月18曰)
陽気がまだ回復しておらず,元気虧虚,陰火内生の象である。
【処方】前回+黄柏9,防風15,羌活9。6剤。
第6診(6月27曰)
言葉はまだ少しはっきりしない。舌質紅で脈細は陰虚の象であるため,養陰通絡を行う。
【処方】前回-羌活+石斛20,金銀花30。6剤。
第7診(7月4曰)
季節は盛夏であり,暑さにより気陰を消耗しやすいために,体力がなく話すときに腹部に力が入らない。
【処方】前回-防風+麦門冬45,五味子12,黄耆を45に増加。6剤。
第8診(7月11曰)
暑い季節柄,患者のために益気養陰・補虚通絡の中成薬に変更する。
第9診(7月25曰)
第10診(8月24曰)
【処方】生黄耆300,当帰120,桔梗60,金銀花120,烏梢蛇・連翹150,党参120,威霊仙150,姜黄90,天麻150 ,土鼈虫90,鬱金200。丸剤とする。
【筆者体得】
瘖痱は発音が困難になり,四肢に力が入らず利かなくなるというのが主な症状である。
『類経』卷十四には「これは元陽が大きく損傷し,病の本が腎に存在しており,さらに腎脈が上は舌根を通り下は脚の中心を循環していることによるものである」との記載がみられる。
※外傷はやはり怖い、大きな原因となり、気血虧損や肝腎不足を伴って暴れまわるのだから。
※外傷はやはり怖い、大きな原因となり、気血虧損や肝腎不足を伴って暴れまわるのだから。
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