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アルコール性神経障害

『中医臨床』v31-1(2010年3月) 丁元慶老中医による治験報告No.3
患者:男性,43歳。
初診日:2001年5月9日
主訴:1力月ほど前から四肢に力が入らない,歩行が困難で安定しない,声がかすれるなどの症状が徐々に現れてきた。
最初は口角が痺れて,その後下半身に力が入らなくなり,歩くときに家の者の助けが必要になりました。その後まもなく,両手や上半身の力も入らなくなってきて,最後に話すこともままならなくなりました。
3年ほど前から毎日度数の高い白酒を450〜500mlほど飲んでいます。
病院ではアルコール性神経障害だと言われました。
患者は中年期にあたり,長期の飲酒で湿熱が内生し,脾胃を損傷したために,運化機能が失常した。これに加え,長期に渡り食事の量が減少しているため,気血の源が不足して営衛不充となり,経気がスムーズに流れなくなった。これらの理由から筋脈が失養し,四肢に力が入らないなどの症状が現れたのである。舌質暗,舌苔厚膩でやや黄。
【中医診断】痿証に属するが,患者は同時に声が重く濁り言語障害が現れているために属するといえる。さらに歩行が不安定で四肢に力が入らないというのはと呼ばれる。これを合わせて瘖痱と呼んでいる。
【証名】酒毒内蕴,湿熱壅滞,経脈不利,営衛失和
【治法】淸熱利湿,宣通経脈,調和営衛
【処方】土茯苓飲(診察者創製方)合加味二妙丸
土茯苓60 生薏苡仁30 葛根30 牛膝15 炒黄柏12 生麻黄3 天麻12 黄芪18 白僵蚕12 金銀花・忍冬藤30,12剤。
2Lの水に土茯苓を1時間浸し,まず20分煎じて,冷めてから薬剤を取り除く。土茯苓の煎じ液でその他の薬剤を1時間浸し,2回煎じて薬液が合計で500mlしになるようにする。これを2回に分けて服用する。
第2診(2001年5月23曰)以前より四肢に力が入るようになり,言葉も少しずつはっきりしてきた。便はゆるく尿量が少ない。
湿熱が尽きないために脾虚となり,生化機能が低下して,陰液が損傷したことが原因である。このため清利湿熱を継続し,これに清熱・養陰・生津を併用する。
土茯苓を90gに改め,防已・天花粉18を加える。
第3診(2001年6月2曰)
四肢にだんだん力が入るようになり,杖や他人の支えがなくても自分で歩けるようになった。さらに皮膚の痺れも改善され,睡眠は良好で食欲もあり,二便も正常。
湿熱が迅速に発散され,経脈の流れがスムーズになった。これにより営衛が十分に満たされ,筋脈・筋肉が滋養されて諸症状が改善された。また夜もよく眠れ,食欲があり,二便も正常というのは,脾胃の運化機能が回復し,気機がスムーズになった証拠である。
【処方】土茯苓60 生薏苡仁・葛根30 牛膝15 炒黄柏12 生麻黄3 天麻12 黄芪24 白僵蚕12 忍冬藤・防已30 石斛15 全当帰12,12剤。
第4診(2001年6月27曰)同方を続ける。
第5診(2001年7月11曰)患者の痺れは絡痹であり,営衛不暢によるものである。忍冬藤を除き,絲瓜絡を
20加える。
第6診(2001年8月4曰)
患者は自転車に乗って外出することができるようになり,痺れも手と手指の先端部のみに残っているだけである。
清利湿熱の力を緩めてはならない。
【処方】土茯苓・生薏苡仁30 茯苓24 防已18 生麻黄3 生黄芪30 天麻12 牛膝18 全当帰12 炒黄柏10 桂枝9,12剤。
患者は3力月間治療を続け,合計で72剤を服用した。2002年の春節の後に,知り合いに同行して当医院に来院したが,自身の諸症状はすべて消失し,完全に健康を回復した。
『素問』脈解篇ではじめて瘖痱について触れており,運動障害と言語障害を含む同疾患の症状について記しているのみならず,瘖痱発病の主要メカニズムは,腎元の虚損であると認識している。
土茯苓は君薬の役割を果たしている。本薬剤は味は甘淡で平性であり,肝・脾経に入る。湿を除き水を消して,濁邪を取り去り,さらに解毒・除湿・関節の動きを良くするという作用がある。
薏苡仁は,生で使用すると清熱利湿の作用が強くなり,舒筋脈,利関節の効果が得られる。こちらも君薬として使用している。
葛根,牛膝,金銀花,忍冬藤は,気血の流れをスムーズにし,経脈を疏通させる。炒黄柏は清利湿熱の作用があり,白僵蚕,天麻,生麻黄は,通絡・散邪の効果が得られる。また黄耆は,補中益気・扶脾強中の作用があり,これらの薬剤は,ともに臣薬となる。さらに黄耆と金銀花・忍冬藤の配合は,益気通絡,養陰補虚の効果が期待できる。この他,黄耆に葛根を配すると,補中益気から中焦の陽気を鼓舞することができ,生麻黄と天麻は,ともに衛気を調正して絡脈を通すため,佐薬の役割も兼ねている。
麻黄は辛味で温と竄(あちこちと動き回る)の性質があり,一所に留まらないため,経絡を通じさせて営衛を和すことができる。
『神農本草経百種録』には「麻黄は軽く上昇する性質があるため,上部に達する。また無気無味で最も透明な性質を有するため,皮膚の毛孔を通って外部に抜けることができるだけでなく,積痰や凝血の中に深く入り込むこともできる。このため他の薬剤の力が及ばないような場所にもすベて辿り着くことができ,味がきつく作用が強い薬剤と比べても,その力は遜色がない。」とある。
『素問』生気通典論篇第三「湿熱不攘,大筋緛短,小筋弛長,緛短為拘,弛長為痿」
『諸病源候論』風痱の症状とは,身体に疼痛はないが,四肤が思うように動かず,意識ははつきりとしており,一方の腕が動かなくなる。これが風痱である。話ができる者は回復するが,話もできないようになると治癒しない。
『羅氏会約医鏡』「酒は湿熱の最たるものなり」
 ※酒毒の怖さがよく分かる。またそれを中医がよく治していることよ!

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