一酸化炭素中毒性脳症
『中医臨床』v32-4(2011年12月) 丁元慶 治験報告No.10
患者:男性,63歳。
初診日時:2009年12月23日
1力月前にガス中毒になりました。当時は意識を失くしてしまい,地元の医院で救急治療を受け,治療後は徐々に意識が回復してきました。でも1週間後に知力が顕著に低下してしまい,行動がおかしくなり始めました。
舌診:舌質暗紅,苔黄膩
【中医診断】痴呆
【西洋医学的診断】一酸化炭素中毒による脳症
【弁証】毒損脳髄,痰熱蒙竅
一酸化炭素は火熱の毒邪に属し,発病が速く痰や瘀を発生しやすく,清竅を塞ぎ,陰液を損傷して,陽気を擾動し,神明を搔き乱して,知力にまでその影響を及ぼしやすい。
【処方】菖蒲鬱金湯加减
鬱金24 黄連10 菖蒲20 遠志9 天竺黄20 懐牛膝15 沢瀉18 夏枯草15 麦門冬・丹参30 羌・独活6 陳皮12, 7剤
第2診(12月30曰)
痰熱壅盛,清竅迷閉という状態であり,強力な薬剤でなければ治療することができない。
前回処方-独活+人工牛黄粉2(冲服),珍珠粉3(冲服),7剤
第3診(2010年1月6曰)
嗜眠が緩和されたのは,神機が回復に向かっている証拠である。清竅が徐々に開こうとしている可能性がある。しかし舌苔に変化がみられない。尿失禁が現れた。
前回処方-沢瀉+益智仁15,桂枝6 14剤
第4診(1月20曰)
罹病期間が長くなると,正気を傷つける恐れがあるため,麦門冬を加えて養陰清心を,茯苓を加えて化痰安神をはかる。
前回処方-桂枝+麦門冬30,茯苓15 28剤
第5診(2月24曰)
効果が現れているため処方は変更せず,清熱化痰,開竅醒神の治法を継続し,さらに益智寧神の薬剤を増加する。
前回処方の茯苓を30に変更し+桔梗12 28剤
第6診(3月24曰)
神機は徐々に回復しているものの,舌脈の所見から,痰熱がいまだ尽きていない。正気虧虚・肝腎不足・髄海不充のため清熱化痰・開竅醒神を継続すると同時に,肝腎の精気の虧虚を補い,滋塡脳髄を行わなければならない。
金水六君煎加減を丸剤とする。
鬱金120,遠志60,石菖蒲120,沢瀉90,丹参100,枸杞子120,石斛90,羌・独活30,牛膝120,当帰90,熟地黄120,天麻150,益智仁90
【筆者体得】
一酸化炭素中毒の遅発性脳症は年齢が高いほど発病率も高く,10歳以下の児童にはほとんど発症していない。
COは外来の邪気であり,性質は火・熱に属し,火熱の毒気であると考えている。火熱の毒邪は上部に昇りやすいために脳に入り,神明を擾わす。火熱の毒邪が陰液を消耗させ,陰虧により風が動いて,筋肉の蠕動や肢体の硬直ひきつりが現れる。陰竭陽脱となり,神明が損なわれる。火熱の毒邪は陽気をむやみに動かして興奮させ,陽気を消耗し気脱陽亡となる。疾患の期間が長引くと,肝腎の陰精が不足して,気虚血瘀となる。
※牛黄粉は脳の開竅のために使われている。
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