月経期頭痛2
『中医臨床』v35-4(2014年12月) 丁元慶 治験報告No.22
益陰養血,平肝熄風による陰虚肝旺の片頭痛治療
患者:女性,34歳,既婚,子供1人。
初診日:2010年11月9日
ここ2年、ひと月に1回、生理の前に両側のこめかみが脈打つように痛くなる。悪心・嘔吐は伴わない。
仕事上のプレッシャーは大きく,イライラしやすい(陽気旺盛)。
眠りが浅く,よく夢を見,目を覚ましやすい。
生理の周期は規則正しく、腹痛はない,出血の量がやや少なくて,血の塊がある。
舌診:舌質暗で尖端部が特に赤い。舌苔薄黄でやや膩
脈診:弦細
【中医診断】片頭痛
【弁証】陰血虧虚・肝失所養・陽旺生風・上擾清空
【西洋医学的診断】片頭痛
【治法】益陰養血・平肝抑陽・熄風活絡
【処方】玄参天麻湯(筆者創製方)加減(玄参・天麻18 全当帰15 酸棗仁30 製何首鳥・懐牛膝・白僵蚕・杭菊花15 蟬退18 炙甘草9 枸杞子20・女貞子20) 7剤
第2診(11月16曰)
口が乾燥し口臭がして,大きな音がすると耳の中に刺激を感じる。
口乾は陰虚不潤のためであり,口臭は肝胃不和で胃濁が上逆したものである。珍珠母を加えて平肝鎮静を行い,牛蒡子を加えて辛涼疏肝・和胃潤腸を行う。
前回処方+珍珠母24 牛蒡子12 7剤
第3診(11月30曰)
口臭はしなくなったが,口は乾燥する。香附子,旋覆花を加えて疏肝柔肝,通絡止痛を行い,側柏葉で清熱涼血を行い,金(肺)を制して木(肝)を平らかにする。
前回処方-珍珠母,牛蒡子,+旋覆花・香附子・側柏葉15 7剤
第4診(12月14日)
4日前からカゼを引き,のどが乾燥して痛い。患者はもともと陰血不足であり,外邪を受けやすい体質である。
治療は疏風清熱・益陰降火・利咽止痛を行う。
【処方1】桑菊飲加減(桑葉15 菊花18 桔梗12 玄参15 生甘草9 射干・牛蒡子・天花粉15), 4剤
【処方2】前回処方で水丸剤を作り,治療効果を強固にする。
【筆者体得】
月経期の片頭痛はおもに血虚陽旺による。
『臨証指南医案』では「内風とは身体のなかの陽気の変動である」と記している。陰血不足は最も肝気疏泄の異常をまねきやすいため,必ず養血益陰に疏達肝気を兼ねなければならない。しかし疏肝に常用される柴胡・香附子・烏薬は適当ではなく,辛涼疏散の菊花・桑葉・薄荷・玫瑰花が常用され,これらは疏肝の作用はあるが昇発の力が過度にならないため,内風を起こすことはない。
辛涼の薬材は,平肝通絡の作用があるだけでなく,清利頭目の作用もある。
肝経の風陽が上部に上って絡竅をわずらわせると,絡脈が急激に絀急〔ひきつって正常に働かなくなる〕するために頭痛が発生する。通絡には,蟬退・僵蚕・地竜・蜈蚣など虫類の薬材が常用される。
玄参は上部では清熱・疏風・瀉火を行い,下部では滋陰・潤燥・降火を行うことができて,さらに解毒・軟堅・散結の作用もある。
玄参・当帰・天麻の3味がともに君薬となっているが,この3味を配合すると益陰養血・平肝抑陽・柔肝通絡の作用が得られる。
蚕は桑の葉を食ベて成長するため,桑葉の涼散走泄・清粛順降の性質を得て,行散・走竄・散風熱・清頭目・利肝気・鎮肝風を得意とする。
蟬退は疏散風熱・透疹止痒・利咽・退翳明目・祛風止痙の作用がある。『本草経疏』には「蟬は水土の余気を受け,羽化して形を成す。また飛んだり鳴いたりすることで風露の清気を得るために,肝に入り,祛風散熱を行うことができる」と記されており,風熱上擾・肝経風熱・風陽動越の要薬である。
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