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腹瀉を伴う月経前頭痛

『中医臨床』v35-1(2014年3月) 丁元慶 治験報告No.19
平肝・熄風・扶脾・柔肝による土虚木旺の腹瀉を伴う偏頭痛治療
患者:女性,48歳。
初診日:2011年5月24日
【主訴】20年以上前から生理前になると右のこめかみあたりが激しく痛み、両側の眼にまで及び,光がまぶしくて眼を開けていられなくなる。イライラして気分が悪く,吐き気がするが何も吐けない。
ここ5年ほど,冷たい野菜・果物・繊維の粗い食べものを食べたり,食べ過ぎたり,お酒を飲んだり,辛いものを食べたり,油っぽいものを食べると下痢をして,1日に3〜4回,水状で臭いのない薄い便が出る。排便後は全身の力が抜けたようになり,2〜3日続く。
(片頭痛の患者で,常に発作性のめまい・腹痛・腹瀉などの症状を伴う場合は,腹部片頭痛と呼ぶ。)
生理の周期や経血の色や量も正常で腹痛もないが、生理前に乳房が張って痛くなることがある。
舌診:舌質暗紅,舌苔黄膩
脈診:沈弦細
【中医診断】①頭痛②泄瀉
【弁钲】土虚木旺・肝風内動・瘀熱蘊絡
【西洋医学的診断】①片頭痛②過敏性腸症候群③腹部片頭痛
月経前に発作が現れるのは,肝風竄擾証に属する。月経前は肝血が血海に下りるため,肝木が養われなくなり,肝風が内動しやすくなり頭痛の発作が現れる。脾胃虚弱となり,土虚木旺・肝気横逆・木侮中土という状態になったためである。
この場合の腹瀉と月経前の頭痛は,症状こそ異なるが,病機は基本的に一致しており,ともに肝木が過度に盛んになり,肝風内動となったものである。肝気がスムーズに流れなくなり,それが鬱滞して熱と化し,その時間が長くなったために絡に入り込んで,瘀熱蘊絡を引き起こしたためである。
【治法】平肝熄風,扶土和中,柔肝活絡
【処方】平肝実脾方加減(筆者創製方)
生牡蛎24 炒白芍15 烏薬・炙甘草12 天麻18 炒扁豆20 酸棗仁30 炒白朮・白僵蚕15 宣木瓜12 茯苓24 丹参15, 7剤
第2診(9月9曰)
初診から4力月が経過。前回処方を3剤服用したら腹瀉が重くなったため服用を停止した。季節は盛夏であり,陽気が外表に存在して,中陽不足となっているため,生もの・冷たいものに犯されやすい。中気不振の状態だと,肝気が脾に乗じやすくなる。扶土抑木・健脾柔肝・温中助運法に変更する。
【処方】行扶土抑木方
茯苓30 淮山薬12 炙甘草10 補骨脂・天麻・炒白芍18 生牡蛎24 遠志9 菊花15 烏梅18 五味子12 玫瑰花15, 7剤
第3診(9月13曰)
めまい・イライラは肝気不舒・心肝失和によるため,+川貝母にて開鬱疏肝, 7剤
第4診(9月20曰)
両耳が塞がったような不快感があるのは,心肝の気機がのびやかに流れなくなっているためである。+薄荷にて開鬱舒心・舒暢気機・利竅怡神。
【処方】前回処方-補骨脂,+薄荷9 7剤
第5診(9月27曰)
脾は血を生み,肝は血を蓄える。肝血が心を養っていれば,適正な時間に眠ることができる。患者は脾虚肝旺の状態であり,心が養われていないため,心神不安となっている。就寝前にお茶を飲むと,陽気がかき乱されてしまうため,心神不寧となる。健脾・養血・安神を行う。
【処方】前回処方+酸棗仁30 炒扁豆15。14剤
第6診(10月18曰)
薬が証に適合しているため,処方を継続する。
【処方】前回処方-薄荷・川貝母。14剤
第7診(11月4曰)
便が正常になったので牡蛎を減らす。
【処方】前回処方の生牡蛎を15に。14剤
第8診(11月15曰)
病状が安定しているため,前回処方を継続。
【処方】前回処方を7剤。1剤を2日に分けて服用する。
第9診(11月29曰)
柿を食べた後に腹瀉が現れ,現在でも便がややゆるい。柿は甘寒で凝・斂の性質がある。季節は冬であるため,柿を食べると中陽の凝滞を引き起こす。温中散寒を行う。
【処方】前回処方+烏薬12 桂枝10。7剤。
【筆者体得】
片頭痛は風火上擾である。風火による痰・瘀が清竅を塞ぎ,脈絡が阻害される。足厥陰肝脈と督脈は頭頂部で交わり,支脈が額から頬の下部に伸びて,唇の周囲をめぐっている。このため頭部に疼痛が現れ,発作に規則性がなく,疼痛が激しい片頭痛となる。これは肝の気血が失調し,気機が逆乱して,風陽が内部で動き,経脈が和さなくなったことと密接な関係がある。
片頭痛の治療には搜風通絡の薬材を配合するとよい。虫類薬や祛風薬が重要であり,蟬退・僵蚕・地竜・独活・薄荷・菊花・当帰・桃仁・旋覆花などがある。
腹瀉と片頭痛は,一見まったく異なる症状のように思えるが,病機はともに肝木過妄,風気内動であり,しかも疾患が長引いているために絡に入り込んでいる。
生牡蛎は平肝風・安心神・実大便の作用がある。また片頭痛は,脳梗塞の危険要素でもある。
※疏肝には柴胡ばかりではない、白芍や川貝母や薄荷もそうだよ。

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